駄目だとわかっていた。
依存していることもわかっていた。
それでも、やめられなかった。
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冨岡義勇は目を覚ます。
今日も生きていることに絶望する。
そしてまた、自分を傷つける。
最初は、風邪をひいてしまった時に薬を飲みすぎてしまっただけだった。
飲んだあとはなんだかふわふわして、嫌なことを忘れられた。
義勇は、その時、少しの時間だけだとしても、現実から目を背けることが出来た。
辛いことがあっても、何があっても。
薬を飲んだ後の浮遊感と、幸せだった頃の幻影がなんとも言えず心地よかった。
それから、よく薬を必要以上に欲するようになった。
辛いことがある度。
昔を思い出す度。
その度に薬を飲み、ふわふわと意識を手放す。
そして、目覚めたあとの「夢だった」という現実に、周りが想像できないほど苦しめられていた。
義勇の異変に、周りが気づかなかったはずかない。
いつも無表情だった義勇が、時々幸せそうに笑顔になっているのだ。
皆、違和感だらけだった。
ーー誰かが言った。
「水柱様が、誰もいない、何も無い場所に話しかけていた」と。
ーー誰かが言った。
「毎日鍛錬していたのに、最近は顔も見ない」と。
ーー誰かが、誰かが、誰かが、、、ーーー
皆は、ただの噂だと思っていた。
頭の回る義勇が、まるで幽霊と話しているようになっているなんて、思わなかった。
あんなに努力を欠かさなかっった義勇が鍛錬をサボっているなんて、考えられなかった。
だが、その噂は本当だった。
最近は、任務と、柱会議ぐらいでしか、外に出ないようになっていた。
そして、幸せだと思っていた幻影さえ、義勇に対してきつい言葉を浴びせてくるようになった。
「お前は一生奴隷として生きるんだよ」
「俺と仲間だなんて馬鹿じゃねえの」
「お前が死ねばよかったのに」
「お前に生きていく意味なんてないんだよ」
ずっとずっとずっとずっとそんな言葉を聞かされる。
義勇は無意識でも、体のあちこちを傷つけるようになった。
そして、苦しみ続けた。
嫌なことを言われるとわかっていても。
死にたいのは変わらないとわかっていても。
苦しみは消えないと、わかっていても。
やめられなかった。
依存していた。
今の自分の状態が悪すぎることは気づいていた。
暑い中運動しても汗が出ない。
食欲がなくかなりの日、食べていない。
何も食べていないのに、吐いてしまう。
吐くのが怖くなり、水分だって取れていない。
任務中でもふらつく。
頭が割れるように痛い。
まずいとわかっている。
この状態で皆の前に行ったら怒られるだろう。
でもそんな事、もうどうでもよかった。
全てが恐ろしいと感じた。
もう何も、したくないと思っていた。
そして、倒れた。
柱会議に行こうとしていたところだった。
これでは、無断欠席になってしまう。
でも、どうでもよかった。
義勇はやっと死ねるのか、と思った。
この地獄から、開放されるのか、と。
もう現実と夢の区別がつかなくなっていた。
起きても寝ても、悪口が聞こえてくる。
耳元で、誰かがいつも囁いている。
そして、目を閉じた、、、
遠くで何かが騒いでいる音が聞こえてきたところで、意識を手放した。
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柱会議が始まるというところだった。
5分前になっても、義勇は来ない。
そしてとうとう、御館様が出てきて、話そうとした時。
「ギユウガ!!ギユウガタオレタ!!タスケロ!!」
と、義勇の鴉が慌てた様子で飛んできた。
その場にいた全員が、驚愕で目を見開いた。
御館様に許可をとり、慌てて水屋敷へと向かった。
屋敷の中は、とんでもない有様だった。
床には空になった薬瓶が割れて転がっていたり。
錠剤だって、沢山落ちていた。
机の上には刃物があって。血で濡れていた。
周りにも血が落ちて黒くなったあとがあった。
全員が身を強ばらせた。
大変なことになっていると全員がわかった。
屋敷の中にそっと入ると。
血だらけになった義勇が倒れていた。
その顔は苦しそうで、歪んでいた。
「おい!!冨岡っっっ!!」
「冨岡さん!?」
皆が声をかけても反応がない。
仰向けにしてあげて様子を見ると、ヒューッヒューッ と呼吸が上手くできていないことに気がつく。
しのぶが問いかける。
「冨岡さーん?大丈夫ですかー?起きられますかー?」
、、、反応がない。
「私の声が聞こえますかー?聞こえたら手を握ってください。」
しばらく待つと、ピクリと動いた気がした。
そして、手をぎゅっと握った。
とても、弱い力で。
テキパキと、しのぶが処置をしていく。
自分でつけたであろう傷は、身体のあちこちに広がっており、とても痛々しかった。
「薬を大量摂取していると思うので、吐かせることって出来ますか?」
そう聞くと、宇髄が引き受けてくれた。
厠へ義勇を連れていってくれた。
そして何分か経った時。
「オエッッッヴッ…ッガハッッッゴホッ…ヴ…ゲホッゴホッゴホッ…」
びちゃびちゃと、音がする。
「ッッッッ!!!」
義勇の口から吐き出されたものを見て、その場に居た者はひゅっと息を吸った。
吐き出されたものには 、固形物が薬しかなくて。胃液が吐き出されるだけだった。
でも、吐き出されたものに血が混じっていたのだ。
かなりマズイ状況だと分かった。
ヒューヒューと苦しそうに息をする義勇は吐き疲れたのか寝てしまった。
寝てしまった義勇を布団に置いた。
苦しそうな表情で、「ごめんなさい、、」「もう許して、、っ」
と呟いている姿に、キュッと胸が締め付けられたような気がした。
その3日後、義勇は目を覚ました。
そして、あぁ、また死に損なったのか、と思った。
くるしくてくるしくて。
薬を取りに行こうと思った。
でも 、 立てなかった。
目がぐるぐる回る。
体の色んなところが痛い。
力が、入らない。
ガシャン!!
派手な音が屋敷中に響く。
無理やり立ち上がろうとして、また、倒れたのだ。
バタバタという音が聞こえる。
「冨岡さん!!目覚めたんですね!!」
嬉しそうにしているしのぶに声をかける。
「俺は、、また死ねなかっったのか、、、っ?」
「なんで、、、助けたっっ」
「あのままならっ、、死ねたはずなのに、、、っ」
しのぶは驚いたように目を見開き、
そして微笑んだ。
ぎゅっとしのぶに抱きつかれる。
「あなたは生きていて、、、いいんですよ、、、っ」
「今まで、辛かったでしょう?」
「もう、甘えていいんですよ?」
その言葉に、心が暖かくなっていく。
涙があふれてくる。
「ずっとっっ辛かったぁ、、、っっ」
「おれのこと、必要としてくれる、、、?」
「っ!当たり前でしょう!」
「貴方は私たちに必要な存在なんです!」
「勝手に居なくなるなんて、許しませんから!!」
そのあと、泣いて泣いて、泣いて。
二人で寝てしまった。
起きた時には柱のみんなが居て。
やっと幸せだ、って思えた。
まだ辛いことは沢山あるけれど。
もうちょっと頑張ってみようかな、と思った。
コメント
3件
めっちゃ好きです。こういうの
うーーーーーんん 天才👏✨🐤👏✨🐤👏✨🐤👏✨
最高!