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8 - 第8話 秘密(4)

♥

572

2025年05月01日

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りょちゃん視点。

モブいます、苦手な方ご注意ください。


たった1ページ分の写真を撮るっていうのは、こんなにも大変なことだったっけ……、とカメラマンさんがシャッターを切るたびたかれるフラッシュを浴びながら考える。

今までだって雑誌の表紙を飾らせてもらったり、雑誌用のインタビュー写真の撮影をしたりと、全くこういった機会がなかったわけではない。むしろどちらかといえば慣れているとさえ思っていた。


それなのに、こんなの聞いてないよ、って泣きたくなってきている。経験したことのない長さの撮影時間っていうだけじゃなく、求められている表情が全くわからないせいだ。


ちなみに現在、メイクと衣装を二度変えて、三着目になっています。


一着目はシンプルな白シャツに合わせたシンプルなアイメイクと、目を惹く明るめのリップ。多分最初の打ち合わせで言われたイメージのもの。

コンセプトは“奪われる”らしい。……なにを? なにが??


二着目はフォーマル感のあるネクタイを締めるタイプの衣装のセットアップで、アイラインをしっかりと引いた少し派手目なアイメイクに、一着目のときと同じリップ。このリップがメインだからこれはずっと変わらない。

コンセプトは“奪いたい”または“奪ってしまいたい”。……なにを? なにから??


そして今は、二着目のセットアップからベストとネクタイを脱いでシャツのボタンを全部外して素肌に羽織っているだけという装いに、敢えて少し崩れた感じのアイメイクに、唇に乗せたリップだけはしっかりと色づいている状態。

コンセプトは“奪い去って”らしい。


相変わらずなにを? なにから? と思いながらも、目線の指示や身体の向きの指示に従ってポージングをとる。

できているのかわからないけど、カメラマンさんが僕を褒めながらシャッターを切るから、間違ってはいないんだと思う。


流石にそろそろ終わってほしいな、と泣き言を言いそうになったとき、


「えっ!?」


と、少し離れた位置にいるマネさんが声を上げた。

あまりに大きな声だったためやけに響いて、一瞬全員の動きが止まり視線が集中する。その視線に気付きながらも電話が緊急事態だったのか、周囲に頭を下げてスタジオを小走りで出ていった。


なにかあったのかな、と思いつつも、時間が惜しいのか、気にしないのか、すぐに気を取り直したカメラマンさんから新たな指示が飛んで意識を引き剥がされる。


ずっと近くで見ていた責任者の方が、カメラマンさんに何かを耳打ちした。うん、いいね、と笑ったカメラマンさんがアシスタントさんに何かを指示すると、すぐに外に出たアシスタントさんが背の高い顔のいい男性を連れて戻ってきた。


え、なに? だれ? なんで近づいてくんの?


「最後に絡み写真、いってみましょう」

「へ、からみ?」

「彼の顔は写しませんが、手とか後ろ姿を入れて、恋人にキスされる、キスされたっていうシチュエーションを背景に持った写真を撮ってみたくて」

「……えっ」


よろしくお願いします、と頭を下げた男性は、別商品の広告を撮っていたというプロのモデルさんらしい。反射的に頭を下げたけど、頭の中はパニックだ。


そんな話は聞いていないと焦る僕を、そんなことをしたことがないから動揺していると考えたのか、彼もプロですし慣れているので大丈夫ですよ、とにこやかにカメラマンさんが言う。


そうじゃない、そこじゃない。

もしこの写真が採用されたら、元貴がどうなるか分からない。反応が気になるとか、そんなこと言っていられなくなる。


そんな僕の心中なんて知らず、爽やかに笑いながら失礼しますね、と僕の横に座るモデルさん。少しでも距離を取ろうと身体をずらすと、カメラマンさんから、離れず近付いて、と指示される。


その言葉通りに、床に座る僕に乗り掛かるように身体を寄せるモデルさん。正面から、押し倒される直前みたいな体勢になる。


うわ、顔いいな……やっぱり見せることを仕事にしている人は顔のパーツから違うのかな。


でも好きだなってならないし、ときめきなんて全く起こらなかった。

そんな失礼なことを考える僕の頬に、ふっと笑ったモデルさんの手が伸びた。


うわ、うわ、うわ……え、やばい……。


「きれいですね」

「ぁ、あ、ありがとう、ございます……?」


仕事でもっときれいな人と接するだろうから社交辞令なんだろう。

本職モデルに褒められるなんて滅多にないことだから、喜ばしいことなのに。


どうしよう、嬉しいとより、気持ち悪い。


「本当に、きれいですよ。今日別撮りで来てて、運が良かったな」


僕の気持ちなんて知る由もないモデルさんは、きっとすごくいい人で仕事熱心なんだと思う。

恋人っていう設定通りに熱っぽく見つめられて、嫌悪感が湧いてくる。気持ち悪いなって思ってしまう。


この人は悪くない、ただ、僕が受け入れられないだけ。


こんなふうに見つめられて嬉しいって思うのは、元貴にだけだから。

元貴の反応を見たくて、僕だって仕事ができるんだよって見せたくて引き受けたのに、なんでこんなことになっちゃったんだろう。


じっとりと見つめてくる目が不快で目を逸らすと、カメラマンさんに逸らさないで! と怒られて、仕方がないから再びモデルさんを見つめる。

長時間の撮影による疲れや、普段は感じないストレスからなんだか泣きそうになる。なんなら吐きそうになるけれど、引き受けた以上やり切らないと、と我慢していると、モデルさんが嬉しそうに笑った。


「緊張してる?」

「緊張、というか……」


馬鹿正直に、気持ち悪いんです、なんて言えないし、どうしよう、と俯くと、細長い指が僕の顎をすくった。

うぁ、なまぬる……、元貴の指はもっとやさしくて、心地よくて、愛を伝えてくれて熱を与えてくれるものなのに。


「このリップ、たまらないね、よく似合ってる」


だんだんと近づいてくるモデルさんの顔。吐息がかかる距離まで近づいて、もう耐えられなくて目をぎゅっとつむった瞬間、のしかかっていた重みがなくなって、うわ、って声が聞こえた。


ふわ、と僕の大好きな香りが漂ったと思ったら、力強い腕に抱き締められた。


続。

皆さん、重たいもっきー好きで嬉しいです。

もちろん次は重たい彼の出番ですよ。

この作品はいかがでしたか?

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コメント

12

ユーザー

最高です!次回どう❤️が暴れるのか楽しみです

ユーザー

藤澤さん、、文章でちゃんと藤澤さんが嫌なのが伝わってくるってすごいですね、、尊敬します😆 次回は修羅場になりそうですね、楽しみにしてます!

ユーザー

まじで、息止めて見てましたこのコメも止めです楽しみすぎて全裸待機しときますw🤣

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