めちゃくちゃもっきーを傲慢に書きましたが、幻覚です。ご本人様ではありません。苦手な方はご注意を。
風磨くんの予想通り、マネージャーは控え室にいた。
いつも通りスケジュールを確認しているように見えるけれど、涼ちゃんの件を聞いた今となっては、どこかそわそわしているように見える。
俺に気づいて顔を上げて、お疲れ様です、と言って笑うその笑顔さえ、よそよそしく見えてくる。
多忙を理由に適当にしすぎたかなぁ。釘刺し損ねてたかなぁ。俺の涼ちゃんへの愛情、軽く見られたもんだね。
マネージャーの横に腰掛け、机に肘を乗せて頬杖をついて、ニコッと笑って見せる。
怪訝そうに眉を寄せながらも素知らぬ顔で、何かありました? って小声で訊いてくる。周囲に聞かれたら困ることを言うとでも思ったのだろう、その気遣いは百点だ。
「俺に何か言うことない?」
でも既にマイナス百点だからプラマイゼロだね。
意識して穏やかな声で質問を返す。
え? と驚いた顔をして、何か伝え忘れがありましたか、と手帳に目を落とすマネージャー。
なんて事のない動作に見えて、目が泳いでいるし口元が引き攣っている。
「ねぇ、俺に言うことあるよね?」
今度は声を低くして、それでも周囲には不審に映らないようににこやかに再度問い掛ける。質問ではなく確認事項として。
「……お願いですからまずは収録に専念してください。その後に説明しますから」
「今」
「……大森さん」
「はやく」
諌めるように名を呼ばれるけど、知ったことではない。最初に俺の地雷を踏んだのはそっちだろ。
引くつもりのない俺の態度に、マネージャーが腕時計に視線を落とす。
残念だけどまだ時間はあるんだよ。控え室にいてくれて助かった。探す時間を掛けてたら足りなかったから。
無言を貫こうとするマネージャーをただ見つめる。三十秒ほど経った頃合いを見計らって人差し指で机をトン、トン、とリズムよく叩き始める。
逃げられると思うなよ?
ややあって、沈黙と圧力に耐えられなくなったのか、マネージャーは溜め息まじりに言葉を紡いだ。
「……化粧品メーカーさんから藤澤さんにモデルをして欲しいとオファーがあって」
「うんそれで?」
「近くのスタジオで撮影を」
「うんなんで?」
「……事務所としては歓迎すべきですし、藤澤さんも乗り気だったので……」
「へぇ」
聞けば聞くほどムカついてくる。冷静な頭とは裏腹に、腹の底から怒りが湧いてくる。
誰の許しを得てやってるの?
口には出さないが、きっと俺の言いたいことは理解できたのだろう、頑なに目を合わそうとしない。それは別にいい、怒っていますと告げている俺と目を合わせたくないのは分かるから。
自分の腕時計で時間を確認し、休憩終了が近づいていることに舌を打つ。びくっと怯えたマネージャーに笑みを消した表情で告げる。
「これ終わったらすぐ向かうから」
「え、藤澤さんは午前中だけの予定なので終わってるかと」
「今もまだやってるらしいよ? おかしいよね?」
「……すぐ確認をとります」
「うん、よろしく」
誰かから聞いたとわかる言い回しをすると、社用携帯を取り出して短縮番号を押して耳に当てた。
せっかくもらった仕事を蔑ろにする気なんて毛頭ない。作り上げた映画をいろんな人に観てほしい気持ちだってある。作品は鑑賞されなければ意味がないから。
きちんと求められるままに大森元貴を演じてやるよ。
だからさ。
マネージャーから携帯を奪い取ると、涼ちゃん付きのマネージャーのもしもし? という声に返答する。
「これ以上隠し立てしたら許さないからね?」
驚きと恐怖で上がる叫び声を無視して、顔を青くしたマネージャーにポイと携帯を投げ返して、振り返ることなく控え室を後にする。
廊下ですれ違うスタッフさんたちに挨拶をしながらスタジオに戻ると、風磨くんは既にスタンバイしていた。
小走りで近づくと、失礼します、と少し乱れた髪を直してくれるメイクさんに、ありがとうございますとお礼を告げる。
そんな俺をなんとも言えない表情で見つめてくる風磨くんに、笑い掛ける。
「ごめんごめん、お待たせしました!」
「……大丈夫?」
「うん? なにが? あー、ありがとね、マネージャーと話せた」
「それは良かったけど」
何か言いたそうな風磨くん。
頭の回転のはやい彼のことだ、なにかしらを察しているだろうし、俺のまとう空気感がピリついているのも気付いているだろう。
風磨くんがいなかったら俺はなにも知らないままだったから、本当に感謝してるんだよ?
まぁ風磨くんのせいでうちのマネージャー二人は、執行を待つ死刑囚みたいな気分になっただろうけれど、それは自業自得だからね。
「じゃ、さくさく行きましょう! お願いします!」
「急にやる気じゃん」
「失礼な、僕はいつでもやる気に満ちてますよ」
「ほんとかよ」
違和感を覚えつつも見ないふりを選んでくれた彼は、やはりやさしくて賢いひとだと思う。
おかげでスムーズに収録を終わらせることができた。ちゃんと笑いもとって宣伝もして、ほんわかした雰囲気で撮影終了まで持っていけたのは、風磨くんのおかげだ。
「お疲れ様でした! すみません、僕ちょっと急用ができてしまって、また改めてご挨拶に伺わせてください!」
カット、の声と同時に頭を下げて口早に告げると、忙しいもんね、という空気に包まれる。
忙しいのは嘘じゃないが、この後は打ち合わせがあるだけだから、本当はそこまで急いではいない。
それを知っている風磨くんが、やはり何か言いたげに俺を見るけど、スッと目を細めて微笑みかけると口をつぐんだ。
風磨くんって、やっぱり頭がいいひとだ。
ひらっと風磨くんに手を振って、顔を青くしたままのマネージャーに駆け寄る。その横には涼ちゃんについているはずのマネージャーもいて、自分の目から温度が消えるのを感じた。
「お、大森さん……ッ」
「言い訳はいいから。どこ?」
「……こちらです」
怯えを隠さない表情のマネージャーを制して、静かに訊く。何もかもを諦めた表情で先導するマネージャーについて行く。
本当に隣のスタジオだったらしく、五分とかからずたどり着いた。よくもまぁ、こんな近くで……と、変な感心を覚える間もなく、視界に入った光景に瞠目した。
マネージャーも焦っているところを見ると、聞いてない展開なんだろう。
シンプルな舞台装置に白いシャツを素肌に羽織っただけの涼ちゃん。あえて崩したと見えるアイメイクは、まるで俺と愛し合った後のようで、やたらと扇情的だった。口元のリップだけが鮮やかで、たしかに良い画になるだろうな、と制作者陣のセンスは賞賛に値すると、プロデュースする側としては感嘆する。
でも。
色っぽい涼ちゃんにのしかかる、知らない男。
男の指先がうつむいていた涼ちゃんの顎を捉えて、顔を近づけていく。
目をつむる涼ちゃん。
――――誰のものに触れてんだ。
「大森さん!?」
マネージャーの制止する声も掴もうとした腕も振り払って、衝動のままに涼ちゃんの上にいる男の襟首を掴んで引き剥がした。
男の叫び声を背中で聞きながら、目の前の涼ちゃんを力いっぱいに抱き締めた。
ストーリーを進める関係でそこまで重くならなかった……。
次はりょさん視点予定なので、その次のもっきーにご期待ください。
コメント
8件
藤澤さんのこと愛しすぎてますね大森サン...。でも自分の大好きな人が目の前で知らない男の人と触れ合っているの見るとそりゃああなりますね笑口角上げながら見てました😆
最高すぎる!
更新ありがとうございます!! 涼ちゃん助けに来てもらえてよかったねー!絶対この後怒られるけど… 次も楽しみに待ってます!♥