優里視点
俺は素直に打ち明けてしまうと、
星崎と久しぶりに二人で会いたかった。
しかし友人の同伴を要求されてしまった。
正直いえば嫌だったが、
心に狭いやつと思われたり、
星崎が困ったり、
嫌がることはしたくなかったため、
どうにか大人な対応で切り抜けた。
「友人って誰だよ」
楽しみにしすぎて早く着いていたため、
店先でイライラしながら星崎たちを待っていた。
その数分後のことだ。
人混みの中にようやく星崎の姿を捉えた。
どうやら一緒にいるのは深瀬だった。
確か彼の話では3年前からの付き合いらしい。
俺とは7年も付き合いがあるのに、
秘密裏に帰国していたことも後から知った。
日本にいる時に仲良くなって、
マレーシアに渡っても毎日のように、
頻繁に連絡を取り合っていた。
デビューライブも一緒に盛り上げたのに、
この扱いだ。
もちろんその間も、
星崎が決して遊んでいたわけではなく、
仕事が詰まりすぎて、
忙しなく過ごしていたことは理解しているつもりだ。
それでも寂しかった。
(本人には絶対に言わないけどな!)
お互いの顔がはっきりと見えるほどの距離になると、
深瀬が突然叫ぶように大きな声を出した。
「えっ⋯もしかして優里くん!?」
「馬鹿!
声がでかい」
たまたま近くを通っていた通行人から何事かという、
不審そうな視線を向けられ、
悪目立ちしているようで、
すごく恥ずかしかった。
俺はといえば徹底した身バレ対策済の変装だった。
深瀬が自分の声で俺が危うく、
身バレしそうになったことを謝ろうとしたのか、
申し訳なさそうに口を開いた時、
それよりの先に隣から声をした。
「⋯⋯⋯なんで」
二人から視線を逸らして左側に目を向けると、
驚きながらもショックを受けたような表情をする大森たちがいた。
そしてその視線は俺ではなく、
星崎へと向けられていた。
「今日話がしたいって誘ったら予定あるって言うから、
てっきり仕事だと思ってたのに⋯⋯」
「ぁっ⋯⋯⋯」
は?
どうやら俺たちは三人とも、
星崎に会う約束を今日していたのかと、
状況を理解した。
正直かなり気まずい。
ダブルブッキングくらいならよくあるかもしれないが、
こんなこともあるのかとため息をついて、
敢えて明るく弾んだ声で言う。
「ならこのメンツでメシ食えば良くね?」
「俺は構わないけど⋯⋯」
星崎はどうする気なのだろうかと様子を伺うと、
少し考え込む素振りをして、
やや困惑気味に一言だけ返答した。
「優里さんがいいなら」
あ、
これは多分ーーー防波堤にされたな。
俺はそう直感した。
相席に困惑すると言うことは、
あまり大森からの誘いに乗り気ではなかったようだ。
しかし先輩が相手で自分から断れば角が立つため、
会う日をずらしていたのだろう。
いつまでも店先で屯しているわけにはいかず、
とりあえず中に入った。
「いらっしゃいませ!
あの⋯いま座敷席の一つしか空いてませんが、
そちらでもよろしいですか?」
活気のあるよく通る声が響いたかと思えば、
申し訳なさそうな小声で、
愛想のいい接客をする店員が空き状況を説明された。
「大丈夫です」
俺がさっと答えるとすぐ席に案内された。
8人は余裕で座れそうな広々としていて、
小上がりの座席は畳張り、
机の下はポッカリと穴が空いた掘り炬燵だった。
ごゆっくりという声がかかり、
店員が去っていく。
「い草だ。
畳の匂いって落ち着くな⋯」
「お前は匂いフェチか」
化粧品の匂いが嫌いで、
あまり人工的すぎないナチュラルな香水が好き。
星崎の好みはなんでも把握しているという自負があった。
俺はこうやって気安く軽口を叩ける親密な距離感が、
とても心地よかった。
「あ⋯こういうのって、
確か上座とか下座とかあるんだっけ。
僕はどこに座ればいいですか?」
「古臭っ!
固いこと言わずに座りたいとこでいいんだよ」
そうだった。
星崎は妙なところで引き気味になるところがあった。
遠慮のない後輩よりは好感はあるが、
あまりワガママを言わないため我慢していないか心配になるほど、
極端な自己犠牲主義者並に気遣いすぎる。
そういう時にする発言は、
年齢以上に大人っぽいどころか、
世代が違うのでは?と思うくらい古い言い回しをすることがあった。
結局右奥から深瀬が座り、
その隣に星崎、
俺が座り、
さらにテーブルを挟んで左奥から若井、
藤澤、
大森という順番で座ることになった。
早速メニュー表を広げる面々。
肉料理、
魚料理、
野菜や果物を使ったメニューなど豊富なラインナップが並ぶ。
チラッと星崎の方を見ると、
どれにするのか悩んでいるようで、
うんうんと思案顔で唸っていた。
「よし⋯⋯⋯決めたっ!」
しばらく悩んでようやく全員のメニューが決まった。
深瀬がベルで店員を呼び、
俺が全員分の料理と取り皿を注文した。
取り皿は星崎が料理のシェア好きで、
少しずつ分け合って賑やかに食べたいタイプのため、
星崎と食事を摂る時は必ず頼んでいた。
きっと一人暮らしで味気ないから、
食事を騒ぎながら食べたいのかもしれない。
「お待たせしました」
俺が頼んだのは焼き魚定食で、
ご飯、
味噌汁、
漬物、
日替わりの焼き魚、
生ハムとベビーリーフのサラダがついていた。
ちなみに今日の焼き魚は鯖だった。
三切れもあったが分厚く切られて、
魚だけでもかなりのボリュームだ。
ハリッと香ばしい皮、
脂が程よくのってふっくらとした身、
ご飯をかき込むとたまらない。
(うまい。
この店また来たいな)
星崎の好みに合わせて深瀬が選んだ店らしいが、
店選びのセンスあるなと感心した。
そういえば星崎はお酒を飲むため、
生ハムも好きだったなと思い、
サラダを取り皿によそっていく。
肝心のお皿を渡そうとした時だった。
「食べる?」
「いいんですか?
いただきますっ!」
深瀬は取り皿を使って星崎が、
てっきり丼から一切分を取るものだと思っていたのか、
深瀬のお箸から直に食べたために、
面食らったまま固まっていた。
突然のことで狼狽える深瀬に対して、
彼は満足気に言う。
「うまっ!
サクサクですね〜」
どうにも深瀬だけが意識していて、
星崎は全く気にしていないようだった。
それだけがせめてもの救いだ。
星崎にはあまり深瀬の好意に気づいてほしくなかった。
(それよりも、
コイツ⋯俺以外に餌付けされてんじゃねぇよ!)
俺は星崎のその無防備すぎる態度に、
正直ブチキレそうになった。
距離感の近さから見れば、
おそらくこの中では一番、
星崎との関係が長いのは俺だ。
もっと俺にも目を向けろよ。
とまるで構ってちゃんのような感情が湧き出て、
自分でも驚いた。
「抵抗ないの?」
「海外だとバルで一つのジョッキを回し飲みしながら、
お酒を嗜むのが普通なので、
文化の違いですから抵抗ないです」
なんと言うかさすが星崎だなと思った。
ワールドワイドというか、
たかが間接キスくらいでは物怖じしないというか、
海外で活動しているためか完全に染まっていた。
でもその一方で星崎が深瀬を全く恋愛対象とは、
見なしていないことが分かり安堵した。
「瑠璃夜⋯これ」
俺は深瀬への牽制として、
普段は二人の時しか呼ばない、
本名呼びをする。
星崎は呼ばれ慣れているからか、
特に反応を示さなかったが、
深瀬は何か言いかけて、
言葉に詰まるほどガッツリ反応した。
「わぁっ!
生ハムだ〜
ありがとうございます」
俺からサラダを受け取ると、
久々の日本料理を堪能するように、
目を閉じてじっくりと味わう。
そんな無防備な星崎を見て、
頬が緩むのを感じた。
(もっといろんな顔を見てみてみたいな)
雫騎の雑談コーナー
前話の食事会①に引き続き、
静かにバッチバチとヤリ合っております。
それに対して鈍感ちゃんなTASUKUは、
ただただ久しぶりのオフで、
呑気に食事を満喫しているという状況でございます。
ちなみに次は星崎視点となります。
他の話とは異なり切り口が別角度のため、
会話の内容が多少異なります。
こっちはシリーズ回なんだからこういうのは、
①の時に話せよってことなんですが、
すいません。
素でポカ(忘れてた)してました。
あとこの食事会シリーズ以降さらにヤリ合いが加速します(その予定)
っていうかtwin⭐︎devilもいまだユニット名だけで、
お兄ちゃんと妹のコンビなんだけど、
まだ名前すら出してないな。
まあいつか⋯出しますわ。
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