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ウラベさんお疲れ様です! ラタミ可愛いすぎませんか?! ら民みたいな性格?ですね! めんどくさい女の所、大爆笑しましたww 次回も楽しみにしてます!
目の前に見える木造の一軒家。それに向かって木が避け一本道ができている。もちろんこれらも先程まではなかったものだ。
蛇と相対していたときの切羽詰まった雰囲気は消え去り、穏やかなそよ風が頬を撫でる。なんだかあの家へ導かれているようで、無意識に足は動き出した。
立派な家を目の前に、玄関のドアノブに手をかける。ぐっと力を込めてみるが、俺の手は回らない。柄にもなく緊張しているのか、そんな自分に呆れ乾いた笑みをこぼす。
この家は彼の家だ。怪我した俺を手当してくれた、お腹が空いた俺にご飯を作ってくれた、森に怯える俺に手を差し伸べてくれた、優しい彼の家。「来るな」とは言われたが、それで引き下がる俺ではない。しかし、彼が止めたのは俺が危険な目にあうから、という理由で、その善意を無下にしているようで少し気が引ける。
だからといって、ここまで来て帰るというのもかっこ悪い。腹をくくれ、お前ならできるぺいんと!ドアノブを回し、できるだけ張り上げた声でお邪魔します!と叫んで足を踏み入れたが、出迎えたのは驚くほどの静寂。
照明もつけられていないリビングに、俺の呼吸音のみが響く。不躾だとは思いつつも、探るように周りを観察したがあの青色は見当たらなかった。もしや勘違いして違う家に入った…?だとしたらすぐに出なければ。不法侵入で訴えられるのは勘弁して欲しい!と急いで玄関に戻ったが、キィ…と背後から扉が開くような音が鳴った。
振り返ると、階段近くの古い扉が開いている。入れという意味なのか?忍び足で近づき、中を覗く。ここは俺が寝かせてもらった寝室ではないか!木でできたベッドに、柔らかな白い布団。その布団はこんもりと膨らんでいる。できるだけ足音をたてないように枕元へ移動すると、長い睫毛を伏せて穏やかな寝顔を見せる彼がいた。
「…ん、」
気配を感じたのか、少し寝苦しそうに寝返りをうつ。起きたのかと驚き声が出そうになったが、すんでの所で我慢した。再びすぅすぅと寝息をたてはじめた彼を起こさぬように、ベッドを離れ寝室の扉を閉めた。
リビングへ移動し、机の上に乱雑に置かれた武器や時計などの日用品を整頓する。なんにしろ、彼が起きてこなければ何も解決できないのだ。
「くぁあ…」
口を大きく開き目を細め、頭を掻きながら寝室の扉を開けた。その姿はやはり人間と差異がないように見える。眠そうに擦られた瞳は、俺を捉えた瞬間覚醒したように大きく見開かれた。その時の様子はまるできゅうりを前にした猫のようだった。
「ぺっ、ペペペぺい、」
「いや驚きすぎだろ」
「なんでいんだよ!!?いや、てかどうやって入った!?」
「…?普通に玄関から入ったけど…」
どうやって入ったって…玄関からしかなくないか?彼は頭に?を浮かべているであろう俺をよそに、何かをブツブツと呟きながら考え事をしている。あ、そうだ。蛇のこととか聞かないと。
「なぁ、俺ここに来るまでに蛇に襲われたんだけど、」
「は?あぁ、うん」
「もうちょっとで噛まれる!ってときに蛇が止まったんだよね。蛇がっていうか、全部が?そのあと風が吹いてお前の家の目の前にいたんだけど。
あれってお前のおかげ?」
きょとんと呆けたあと、彼は何かに気がついたようにハッとし、盛大にため息をつく。そして、俺に背を向け階段に向かって大声を出した。
「『ラタミ』!!!!!!!今すぐ出てこい!!!!!!!」
きぃんと耳が痛くなるほどの大声のあと、天井上からドタバタと、笑い声の混じった騒音がなる。少しの後、下りてきたのは丸く青い、目と牙の生えた口のある生物。小さな黒い羽を器用に使い空中に浮いている。表情はよくわからないが、いたずらっ子のように笑っているのだと感じた。
「お前ら勝手にこいつ招き入れただろ!!!」
「ピィ、キィーッ」
「いや「別に良くね」じゃなくて。駄目なんだよねこういうことするの。またお仕置きされたいんか」
「ピィーッ!!」
「ちょっ、うるさうるさ!!わかった今回はなしにする!!でも次やったらホルマリン漬けだからな!!」
手のひらサイズの『ラタミ』は彼の手の中にすっぽりと入り、ぎゅうっと握られている。まんまるボディがスリムになりそうだな〜などと考えていれば話は落ち着いたようで、彼の瑠璃がこちらを向いていた。
「そいつ何?かわいいね」
「かわいかねぇよこんなの。俺に暴言しか吐かんし害悪行為ばっかりする」
「へ〜なんか魔物みたいな見た目だけど。羽生えてるし」
「みたい、じゃなくて魔物だよ。今は俺のだから害はないけど」
「俺の?」
「……いや、人間に話すようなことじゃなかったわ。忘れろ」
そう言ってラタミを離し目を伏せる。そして俺なんていないかのように椅子に座り、本棚から1冊取り出して読み始めた。それは期待していた魔導書などではなく、一昔前首都で流行っていたミステリー小説。
窓辺に座り、黙々とページをめくっていく様はひどく知的に見えた。そのままペラペラと紙のこすれる音のみが室内に響き、時間が経っていく。本を読む彼と、そんな彼を見つめる俺。ラタミが通ったときには怪訝な目で見られた。どうやらラタミは1匹ではないらしく、何匹かはずっと側で俺の髪をいじったり、お菓子を持ってきたりしてくれた。その様子を彼がジロリと睨むとラタミは楽しそうに笑う。ラタミは彼の使い魔的な存在ではないのか?彼を困らせることに愉悦を感じているように見えるが。
「友好的な魔物だな。お前のってことと関係あったりすんの?」
「ない。…関係あるのはお前の目」
「め?」
「…まぁ、それだけじゃないけど」
「え?」
「なんでもない」
本当にこいつは「なんでもない」が好きだな。そう言うやつは大抵なんでもなくねぇから!めんどくさい彼女か!?
…あ、そういえば言おうと思っていたことを忘れていた。これは絶対に聞かなければ。
「…ねぇ、これはただの昔話なんだけどさ、」