───あるところに、瑠璃の瞳を持つ1人の少年がおりました。
話している最中、彼の顔は見なかった。答え合わせは最後にするタイプなのだ。まぁ、息の引きつった音や、言葉にならない母音は聞こえてしまったが。
「……っていう、昔話」
「むかし、ばなし。それは、ただのフィクションだろ?そんなのを読み聞かせられるような年齢じゃ…」
「お前は、元人間の、可哀想な少年だった。でしょ?」
「……ちが、」
違う、と言いたかったのだろうが代わりに息が吐かれるだけで声は出ていなかった。それが、何よりの答えだ。
可哀想だとは思う。気持ちも少しはわかる。でも労りの言葉をかけたり、なぐさめたりするのは俺の役目じゃない。
「……魔術が、危険なことくらい知ってた。あいつらと関わって、無事でいられないこともわかってた。でも、親はいないし友達もいなかった俺を止めてくれる人なんていなかった。
……だから…いや、なんの贖罪にもならないけど、」
独り言のように、しかし聞いてほしいと願う瞳をこちらに向けながら、ぽつぽつと言葉を紡いでいく。あいつらというのが誰かはわからないけど、きっと彼の関わった人ならざる者達なのだろう。
「…その、天使たちとは会ってないの?」
「会ってない。向こうが俺に会おうと試行錯誤してるのは知ってるけど、この森には俺が術かけてるから入ってこれない。
…だから、お前もラタミが招かなきゃ入ってこれないはずだったんだよ」
「そうなんだ…」
それを境に沈黙が続く。昔の苦しい記憶を引っ張りだされて不貞腐れている彼と、かける言葉が見つからなくて困惑している俺。そんな気まづい空気を察知したのかしまいかは知らないが、側にいたラタミが鳴いた。
腕を枕に俯いていた彼も顔を上げ、ラタミを手繰り寄せる。ラタミは何やら楽しそうに話しかけていて、彼はうんうんと軽く相槌をうちながら話を聞いていた。
…もしかしたら、励ましているのかもしれない。もしくは別の話題にして気をそらせようとしているのかも。なんにしろ、ラタミは彼のことが好きなのだなと思った。
そういえば、俺には動物のような鳴き声にしか聞こえないが、彼には人間と変わらないように聞こえているのだろうか。それともラタミの言語を理解しているのか。
試しに真似をしてピィーと鳴いてみれば、彼とラタミに馬鹿だろお前と言わんばかりの視線をくらった。やめろそんな目で見るな恥ずかしいわ。
「…んで、名前は教えてくんないの?」
「やだ」
「なんでだよ!!名前くらい良くね!!?」
「うっるせぇ…やなもんはやなの。机乗り出すな転んでもしらないぞ」
「くそぉ…」
くすくすと静かに笑ってラタミに視線を戻す。何気に彼が笑うところは初めて見るかもしれない。
その後は少し話して、もしかしたら泊めてくれるかなと期待したが帰された。俺が大人しく帰らないのもわかってきたようで、彼がパチンと指を弾けば俺は森の入口に立っていた。
もう一度戻っても彼の家に着ける保証はないので仕方なく帰ることにする。大きく息を吸って、吐いて、仲間たちの待つ家へ帰るとしよう。
家へ帰ればしにがみくんとトラゾーがおかえりと言ってくれて、クロノアさんが夕飯を作ってくれている。それだけで十分幸せなのだ。彼にもこの気分を味わって欲しい。だから、俺がただいまやおかえりを言い合える存在になりたい。
また行けば、彼はきっとどうして来たと言いながらも俺を帰せず、お菓子などを出してくれるんだろうな。そして少し話して、動物たちが動き出す前に帰すのだ。
さて、次は何を話そうか。
コメント
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最高ッス姉貴!!!!!