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(大森視点)
家に戻り鍵をかけると、なんとも言えない安堵感が体を駆け巡った。
涼ちゃん執着すると怖いから。
いつも優しいだけに。
涼ちゃんには悪いけど、僕も自分の体は大事だ。
公演中は我慢してね。
安心してお風呂に入って疲れを流していると、玄関から物音が聞こえて、僕の心臓は2回ほど宙返りした。
え、誰?
まさか泥棒?でも鍵はちゃんと閉めたはず。
そこで不審者ではない1つの可能性が僕の中で頭をもたげた。
涼ちゃんってこれくらいで簡単に諦める人だっけ。
だとしたらまずい。
お風呂入ってます、なんて、今の状態の涼ちゃんからしたら仕返しする絶好のチャンスだ。
大慌てでTシャツを被り、身支度もそこそこに髪を軽く乾かすだけで廊下に出た。
予想に反して静かな廊下には、人影は見当たらない。
気のせいだったか。
「よかった…」
「何がぁ?」
「ぴゃ…」
後ろからいきなり抱き寄せられて、耳元で聞き慣れた声がする。
恐る恐る後ろに首を回すと、優しそうな笑顔が僕を覗き込んでいた。
この家の合鍵を持っている、ただ唯一の、恋人。
「り、りょう…ちゃん…」
「僕を置いて帰るなんて酷いよ~もとき!」
「…あっ、今日は疲れてるっていうかっ!」
「さ、行こ」
ちょっ!痛い!痛いです!関節捻れるっ!
涼ちゃんに引きずられるように歩く僕の視界に入ったのは、今夜平和に眠りにつく予定だった部屋、見馴れたドア。
でも大人しく寝れそうにない。
恐怖で思わず顔がひきつる。
「あのぉ、涼架さん?」
「わざわざお風呂まで入ってお膳立てしてくれて……嬉しいよ」
「はぁぃぃっ!?」
違うわ!そんなアホな話あるか!…… 泣きたい…。
僕の抵抗も虚しく、寝室のドアが背後で音を立てて閉まった。
「さーて」
「どわっ」
鍛えてる筈なのに、涼ちゃんに引かれて体がよろけ、ベッドに倒れ込んだ。
「リハ中あしらわられ、帰りは置いてかれた僕の気持ちがわかるかな?」
「ぅ…」
顔近。怖いし。
目元は笑ってるのに、瞳が笑ってない。
伝わるだろうか?
なかなか出来ない芸当だと思う。
でも、その相手を探る瞳が、張り付けたようにも見える笑みが、僕は意外と好きで。
…おっと……。
「あーダメダメだめですっ」
「はぁ?なんで」
「よく考えて!明日ライブだよ!??」
「それが?」
「…」
大森元貴撃沈。
最強のカードだと思ったのに、たった3文字の返答でそのカードは折れた。
目の前の涼ちゃんは、何やらニヤニヤして僕を見つめている。
顔の熱が一気に上がった。
「ライブだったら何が問題なのさ。ほら、言ってみ?」
「わかってるでしょ…」
「えーわかんない!!ね、教えてよぉ」
腰が痛くて動けなくなる、なんて言ったら調子に乗るに決まってる。
「嫌だっ」
「もーしょうがないな…」
僕に覆い被さった涼ちゃん。
う、悔しいけど、いつ見ても整った顔立ち。
こんな状況下じゃなければ、惚れ惚れしているところだ。
って近い近い近い!!
「んんーーーっ、ゃ」
「んー?」
顰めっ面で目の前のお顔を睨み付けていたら、いつの間にか唇に柔らかくて暖かいそれが触れていて。
ジタバタとするも、僕より大柄な涼ちゃんは僕を軽く抑え込む。
ちょっと!舌!ヤメテ!
「ふぁ、あ…りょ…ちゃっ、苦しっ」
「んー」
離せぇぇえ!
あ、無理、肺が、死ぬ……。
命の危機を察知して、ほぼ無意識に涼ちゃんのお顔を両手で挟んで引き離す。
「ちょっと!何すんの!」
「苦しいって、言ってるじゃん…!」
「我慢しなさいよ」
「そんな理不尽な」
ひど!とぶつぶつ言ってる涼ちゃんは、わざとらしく頬を膨らませて僕から視線を外した。
流石にやめてくれるかな?
と、思ったその時。
「ぎょゃっ」
「何、その色気のない声」
「なな、な、だってりょう、ちゃんが」
てか、そんな頸元で声発せられたら、声くぐもって脳に響くんですけど!
ブカブカなTシャツから覗く鎖骨から、耳に掛けて、ツーっと舌が這うものだから、ぞわぞわと波が背中を駆け上がる。
「だーめーでーすぅ!!」
もう必死。
「だから何で?それ言ってくれれば止めるかもかもかもしれないのに」
「”かも”が多い!」
「んー?まあまあ、涼ちゃんに言ってごらん?」
「ウザ!」
「もときも、自分の身体は大事でしょ?」
「ひゃっ」
ひんやりした涼ちゃんの掌が服の中に侵入してきて、ゆるゆると触る。
やばい、危険だ。
「このまま続けちゃうよ?」
「うー」
「ほーら」
「………?」
なんで、こんなに促すんだろう。
僕が理由言ったら、止めなきゃいけなくなるだろうに。
焦った頭に、ふと疑問が浮かんでそれに思考を馳せていた時。
その不埒な手は、今度はパンツの中に入ってきた。
手の動きがやらしいんだよ!
「んゃっ、ふぅ」
「もう指入れて良い?」
その言葉に僅かに滲んだ疑問は吹き飛ばされ、慌てて叫んだ。
「ゃっ、だめっ」
「なーんで?」
ええい、どうにでもなってしまえ!
「…っ腰……痛くなったら、明日のライブに支障がでるからっ」
「よく言えました」
「はぁ…」
これで解放される。
そう思ったのに。
涼ちゃんはそうとう意地が悪いらしい。
未だに覆い被さって瞳を覗き込んだまま、一つの質問を投げ掛けた。
「ねえ、したあと、なんで腰が痛くなるか知ってる?」
「……はい?」
「僕が思うに、力を入れて背中反らしちゃってるからだと思うんだよね。ほら、もときって達する時、」
「ぎゃあああああああ黙れ!藤澤!言わなくて良いからぁああ!!」
恥ずかしいわ!
あれ、待てよ、今の言い方。
…嫌な予感がする。
「要するに、達さなければいいんじゃん?」
そんな、自分大発見した!天才!みたいなキラキラした目で見つめないで……。
「もとき」
あ。
「僕がいつも、どんな思いして元貴と若井が一緒にいるの見てるかわかる?」
「…」
「だから、夜くらいは僕の事だけ見て。僕しか脳内に入らないようにしちゃいたい、ゆっくり楽しもうよ、ね??」
「……りょう、ちゃん…」
「もとき、良いでしょ?」
夜は楽しまなきゃ。
「僕だけの可愛いもとき♡」
《END》