テラーノベル
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あの匂いが忘れぬまま会議は始まった。
「今回のご依頼主様はこちらの方です。こちらの方は代々お世話になっている椿文雄さんの息子さんです。僕も部長時代にとてもお世話になりました」
俺はホワイトボードを指しながら言った。
椿様はとても温厚な方でうちの社員にも良くしてくれている料理屋の亭主だ。
そんな椿様に俺は一度だけお叱りを受けたことがある。
その時は言われている意味が分からなかったが、今のなっては俺も部下に同じようなことを言っている。
俺はスライドを次のページへと移した。
「今回のご依頼は和食料理屋の設計です」
俺はそう言いながら建設予定地を見せた。
社員はメモをしていた手を止め、地図を見る。社員は焦った顔で周りの社員と目を合わせている。
和やかな空気は一変、この部屋には重い空気が漂っていた。
部屋には「チクッタクッ」という音だけが鳴り響いている。
だが、一人だけよく分からないといった顔をしている社員がいた。
「みなさん、どうしたんですかぁ?そんなこわいぃかおをぉしてぇ」
そう、その社員とは華恋のことだった。
この分野には何も知識がないからか、それとも察するということが出来ないからなのか、華恋は浅はかな質問をする。
「和食料理屋が木造建築だということは分かるか?」
誰も華恋に説明する気はないらしく、俺はしょうがなく説明を始めた。
「はい、それはぁわかりますぅ」
華恋は胸を突き出すような姿勢を取りながら返事をする。
「建設予定地は駅から近いんだ」
「ぁ、ほんとうだぁ、それがかんけいするんですかぁ?」
「駅に近いと木造建築ができないんだ」
「んぅ?なんでですかぁ?」
華恋は考える素振りを見せず、すぐ質問する。
「正確には出来るんだが、駅の近くで火事が起きると厄介だから防火壁が必要になったり他にも決まりがあるんだ。それで料理屋の雰囲気を崩してしまったら良くないだろう?」
「そうなんですねぇ、そんなきまりがぁ、おしえてくださりありがとうございますぅ」
華恋は上目遣いで感謝を示す。
会社の中でも1位2位を争うレベルの美人だ。
他の社員だったら恋に堕ちていたかもしれない。
俺には過去、何人もの夜の相手がいた。
その相手にも堕ちなかったんだ。華恋のそれに堕ちるはずがない。
その後もこの分野に詳しい社員と議論をしていた。
その時間はおよそ二時間にも及んだ。
華恋はその間も熱を帯びた目で俺のことを見つめていたが、俺は無視し議論を続けた。
議論は緑や茶色を使った和風建築をすることで決まった。
会議は終わり、社員は部屋を出て行った。
「唯月!」
俺も部屋を出ようとした時、副社長に呼ばれてしまった。
「どうしました?」
「いいアイデアをありがとうと感謝を伝えたくてな」
「いえいえ」
「そろそろ敬語外してくれよ」
副社長は俺の従兄弟だ。
子供の頃はずっと一緒に遊んでいた仲だった。
仕事上では副社長の方が立場が上だ。
プライベートの時みたいにタメで話すわけにはいかない。
「いや無理です」
「はははっお前は真面目だなぁ⋯」
「せんむぅー」
副社長が何か言おうとした時、後ろから甘ったるい声が聞こえてきた。
俺は振り返ることはなくスマホが入ったポケットの中に手を入れる。
「呼んでるぞ」
副社長は笑いながらそう言った。
「はぁ、最悪だ⋯」
俺は無理に口角を上げ、華恋の元へ行く。
「どうしましたか?」
「このあとぉ、おしょくじとかぁ、どうですかぁ?」
コメント
1件
作品名とあらすじを変えました😊 内容は変わってないのでご安心を😌
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