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「それじゃあ、紅茶を部屋で飲むから。運んで」

「かしこまりました」

「他の人じゃなく、真奈美が用意なさい」

「はい、承知いたしました。少々お待ちくださいませ」


とても高圧的に聞こえるのは、遥香様が階段の上から命じているせいか……


「桑名さん、急いでキッチンへ案内します」


後ろから急いだ様子の声がして、振り返った私に広瀬さんが


“こっち、こっち”


と手招きする。


「大丈夫かしらね……」

「何がですか?」


急ぎ足で廊下を歩きながら、心配顔になった広瀬さんに聞く。


「いえ…なんだかね、遥香様が意地悪な気配だったでしょ?」


広瀬さんは声にならない囁き声でそう言うと、私を見てからひとつのドアを開けた。


「お嬢様ってあんな感じ、ではない?私はまだ何もわかりませんけど」

「私は何人か見てきたけど、遥香様は時々わがままなお嬢様っていう程度ね」

「だったら、大丈夫です」

「でも……これまでは私たち家政婦のオバサンに興味がなかっただけかも、って思っちゃった。桑名さんを担当にって言ってから、生き生きしている遥香様を見て危険を感じてしまったわ……」

「雇い主様のご希望に出来るだけ添える形での勤務を謳っている会社ですから。頑張ります!ティーポットは……」


食器や茶葉などの場所を教えてもらってから、私は紅茶を淹れる。

お部屋へ到着する頃、飲み頃となるよう時間を見計らって、ワゴンを押して廊下へ出る。

先ほどの第一家事室の隣にある小さなエレベーターに乗って二階へ移動すると、広瀬さんに教えてもらった通り、エレベーターを出てから三つ目の部屋のドアをノックした。


「遥香様、桑名です。お紅茶をお持ちしました」


返事がない……と思ったら、カチャ……


「真奈美と名乗りなさい」


カーディガンを脱いでキャミソールワンピース姿の遥香様がドアを開けた。


「承知いたしました、遥香様。失礼します」


長い毛足の絨毯に気を付けながらワゴンを押し、ドアの内側に入ると静かにドアを閉める。

遥香様はメイクの途中だったようで、鏡の前に座るとクッションファンデをつけ始めた。

私はワゴンの上で、ポットからカップへと紅茶を注ぎ


「遥香様、カップはそちらへ?それとも……こちらのテーブル、どちらにおきましょうか?」

と確かめる。


「ワゴンごと、ここ」


ご要望は、私が言ったどちらでもなかったようだ。

鏡に向かって座る彼女の隣へ、私がそっとワゴンを動かすと


「返事は?黙って動くなっ!」

「っ……たっ……」


化粧水がたっぷり入ったガラス瓶を投げつけられたのが、左肩の骨にゴンッ……と当たってから、ふかふかの絨毯の上に転がった。


「痛がる前に、謝罪でしょ?研修で優秀だったって本当なの?私は妥協しないわよ?」


執事研修ではないのだけれど……と一瞬思ったけれど


「大変失礼致しました、遥香様。申し訳ございません」


と丁寧に頭を下げてから


「お紅茶のご用意が出来ましたので、どうぞ」


と伝えて、ガラス瓶を拾い上げた。

重いな……私が使う化粧水はプラボトルに入っているから、こんなに重くない。

これは凶器になるわ……気を付けないと。


そう思った時


「まず……こんなの飲めない」


えっ……………?

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