少しして落ち着いた先輩は薄いグリーンのハンカチで残った涙を拭いて、手紙もう一度見てもいいかな?と言った。
「もちろん、それは先輩のですよ」
手紙を渡すと先輩はゆっくりと内容を読み返していた。
「僕のピアノが大好きだって」
「うん」
「幸せになれるんだって」
「うん」
「···また、誰かの為にピアノを弾いてもいいのかな」
「うん···俺も、先輩にピアノ弾いてほしい」
俺を見て、笑う。
それは久しぶり見た笑顔だった、やっぱり笑ってる先輩が一番可愛い。
「本当に、ありがとう。元貴のおかげで···少し前に進めそうだよ」
俺は先輩の為になれたんだなって思えて、その言葉にほっとした。
「良かった。先輩はやっぱり笑顔のほうが可愛い」
「···少し時間はかかるかもしれないけど、僕が元貴の為にピアノを弾きたいって言ったら、聴いてくれるかな」
「めちゃくちゃ嬉しい。楽しみにしてます」
俺の為に弾きたい、とその気持ちが嬉しい。
「···じゃあ、俺は帰ります」
「え···?」
「あ、先輩はピアノ弾いてくださいね、もう隠れて聴いたりしないですから」
んーっと背伸びをして、鞄を持つ。俺の為に弾いてくれるその時まで俺は賢く待つことにしたから、今日は帰ろうとすると、腕を先輩に掴まれた。
「···僕も一緒に帰っちゃだめ?」
そんな甘えるように言われて断れるわけがない。寧ろこちらからお願いしたい。
「もちろん、いいです」
「やったぁ」
先輩は手紙とカフスボタンが入った箱を丁寧に鞄に片付けて帰る用意をした。部屋の鍵を閉めて俺たちは途中まで一緒に帰った。今日の涼ちゃん先輩はいつもよりお喋りで、少し距離感が近く感じられて俺はそれがとっても嬉しかった。
先輩と別れて家に帰って今日のことを思い返す。 あの手紙を渡すことが出来て本当に良かった。きっと先輩にはまた人前でピアノを弾ける日が来るだろう。ピアノを弾いてる姿はまだ見たことがないけど、きっと綺麗なんだろうなぁと想像してふふふ、と笑みが溢れた。
それに俺の為にピアノ弾いてくれる時が来るかもしれないし。
「はぁぁ···すき···」
そういえば俺って勢いで先輩に好きって言っちゃった気がするけど返事どころじゃなかったし、もう一度ちゃんと伝えた方がいいんだろうか?
また俺には悩みが出来てしまった。けどそれはなんだか幸せな悩みだった。
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