TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

デッドマン・リヴァース

一覧ページ

「デッドマン・リヴァース」のメインビジュアル

デッドマン・リヴァース

8 - メルベルトターミナル奪還作戦III

♥

19

2025年05月27日

シェアするシェアする
報告する

「思ったより早く着いたな……」


ジークが地図を畳み、周囲を見渡しながら言う。


「まだ13時だよ?」


エデンが無邪気にジークの腕時計を覗き込み、ジークの腕にぶら下がるようにする。


「中に入ろう。外は視線が通りすぎる」


ケイがアナスタシアの肩に軽く手を置いて促した。


「そうだね。少し休憩しようか!」


アナスタシアは飛行支援ユニットの電源を落とし、慎重に背負い直してからビルの入り口へと歩き出す。


廃ビルの中は、吹き込んだ砂埃と割れたガラスの破片が床一面に散らばっていた。

どこかで鉄骨が軋むような音が微かに響いている。


壁紙は所々剥がれ、雨水の染みが波紋のように広がっていた。そんな中、ふとカレラが足を止める。


「……あれ、見て」


壁の一角に、赤いペンキで描かれた奇妙な印があった。

丸の中に、バツが大きく引かれている。


「なんです?これ……」

シュウが慎重に近づき、目を細める。


「この風化具合……」

カレラはそっとペンキの表面に触れる。指先が少し湿る。


「——最近描かれたものみたい!」


振り返って報告するカレラに、ケイも興味を惹かれたように近づく。


「確かに……色も鮮やかだ。乾いてるけど、まだ新しいな」


「二、三日前ってところか……」

ジークが腕を組みながらつぶやく。


「でも、これにどんな意味が?」


一瞬の沈黙のあと、アナスタシアがぽつりと口を開いた。


「……レジスタンス、かもしれませんね」


全員の視線が、壁の印に集まる。


「この印、前にも見たことあるよ!」


その声は、静まり返っていた空気を切り裂くように響いた。

全員が一斉にエデンの方を振り向く。


「前にも……? 一体どこでだ」

ジークが眉をひそめ、声を潜めるように尋ねた。


「えーっと、確か……ポイントCだったかな〜」

エデンは記憶をたどるように頭を傾け、頬をぽりぽりと掻いた。


「俺はこんな印、初めて見るけどな。カレラは?」

ケイが隣のカレラに視線を送る。


「……見たことないよ」

カレラは小さく首を振り、印をじっと見つめたままだ。


「でも、あのとき屋上の扉の裏にこのマークが描かれてたんだよ!」

エデンは手を広げるようにして言った。

「扉が開けっぱなしだったから、外からじゃ見えなかったと思うけどさ」


「扉の裏に……?」

アナスタシアが一歩前に出て、じっとマークを見つめた。


「……もしかして……」


全員の視線が彼女に集まる。


「私は元々、レジスタンス関連の文書を管理していた時期があるんです」

そう前置きし、アナスタシアは小さく息を吸う。


「このマークは……“安全地帯”の印だったはずです」


沈黙。

ビルの外から風が吹き込み、窓の割れ目が微かに鳴いた。


「安全……地帯?」

カレラがぽつりと呟く。


「そう。レジスタンスが拠点や通過地点を示すために使っていたマーク。

ただ、今もそのまま機能してるかどうかは……わかりませんが」


「取りあえず、階段を上がるぞ」

ジークがカバンを背負い直し、錆びた鉄の階段を踏みしめる音が響く。


一同は互いに視線を交わしながら、その背中を追った。


何段登っただろうか。

コンクリの壁は落書きとひび割れに覆われ、灯りもない。

階数表示もほとんど消えていて、目的の階はまだ先のようだった。


「アナス、カバン持つよ」

ケイが自然に手を差し出す。


「ありがとう、ケイくん」

アナスタシアは少し息を弾ませながら微笑む。


「ジークー、疲れた〜! おんぶしてー」

エデンが階段の手すりに身を預けて声を上げる。


「我慢しろ」

ジークは素っ気なく返すが、その声に少しだけ笑みが滲んでいた。


そんなやり取りをしながら、ようやく開けた踊り場にたどり着いた。


そこは――

割れたガラスや壁のヒビはあるものの、他のフロアに比べてずっと整っていた。

倒れた家具も少なく、空気の淀みもどこか穏やかだった。


「……頑張って登ってきた甲斐は、あった……のかな?」

カレラが荷物を降ろして、大きく伸びをする。


「やっと着いたーっ!」

エデンが両手を空に掲げ、万歳をする。


「確かに、ここなら吸血鬼も滅多に登ってこないだろうな」

ケイが割れた窓際に近づき、静かに街を見下ろす。


「……ねぇ、あれって……」

アナスタシアが双眼鏡を構え、大通りの方を指差した。


その先には――

巨大な戦車。鉄の獣のように地面を轟かせ、建物をなぎ倒しながら進軍していた。


「明日には僕たちも、レンくんたちと合流できそうだね!」

カレラは戦車の奥に広がる道を見ながら、希望をにじませた声を上げた。


しかし。


「……あの煙って、なんだと思いますか?」

シュウの声が遮るように響いた。


彼は別の方向――集合住宅が並ぶエリアを見つめていた。


その一棟から、黒煙が空に向かって伸びている。火が出ていた。


「煙……? 吸血鬼に火をつけるような知性はないはずだ」

ジークが顎に手を当て、表情を曇らせる。


しばしの沈黙の後、ジークが振り返った。


「……まだ日没まで時間はある。チームを2つに分けよう」

低く、落ち着いた声だった。


「1チームはここで夜営の準備。もう1チームは、あの炎の調査へ向かう」


「じゃあ私、カレラ、それにケイで行きます!」

アナスタシアが迷いなく手を上げ、すでに荷物をまとめ始めていた。


3人は最低限の装備を整え、ビルの階段を降りていった。


「帰るとき、またこの長い階段を登らなきゃいけないと思うと……」

カレラがため息をつく。


「まぁ、帰りは急ぐ必要ないし、ゆっくり登ろうぜ」

ケイが肩をすくめながら応じた。


「もう、二人とも。これから向かうってのに、もう帰りの話?」

アナスタシアが笑い混じりにたしなめる。


外に出ると、焼け焦げた木材のような匂いが風に乗って鼻をつく。

煙はまだ空へとのぼっており、陽炎のようにゆらゆらと揺れていた。


「急いだほうがよさそうだね」

カレラがそう言うと、三人は顔を見合わせ、自然と足が速まった。


ほどなくして現場に着く。

燃え盛る廃屋と、その前で膝をついて何かを見つめている人影が目に入った。


「人!?」

「大丈夫ですか!?」

カレラとケイが駆け寄ろうとするのを、アナスタシアが咄嗟に止める。


「待って、二人とも!」


だがすでにカレラは走り出していた。膝をついていた人物に近づくと、その人はカレラの両腕をがっしりと掴み、顔をくしゃくしゃにして叫ぶ。


「中にっ……!中に娘がいるんですっ!!」


「っ……ケイくん!」


「ああっ!」


ケイが即座に扉に体当たりをかける。

バンッという破裂音とともに扉が開き、内側から勢いよく炎が吹き出した。


「待ってケイくん!危ない!」

アナスタシアが叫ぶ。


だがケイは一瞬たりとも迷わなかった。


「中にいるのは人間だ!俺は……この程度じゃ死なない!」


そのままケイは、火の粉を散らしながら燃え盛る室内へと飛び込んだ。


燃え盛る屋内。

火がまだ回っていない片隅で、ひとりの少女が膝を抱え、震えていた。


「今、そっちに行く!」

ケイが倒れた柱を押しのけながら、少女に向かって叫ぶ。


「お兄さん……誰……?」

少女がうっすらと顔を上げる。


「もう大丈夫!さ、俺につかまって!」

ケイは少女を抱き上げ、振り返った——


「くそっ!」


そこには、一体の吸血鬼がいた。

身体を炎に焼かれながらも、獣のような唸り声をあげ、ゆっくりとこちらへ迫ってくる。


「この狭さじゃ、大太刀は使えない……どうする!」


吸血鬼が爪を振り上げ、ケイに襲いかかろうとした——


その瞬間。

炎を裂くように、一閃の光が横から飛んできた。


シュッと音を立てて飛来した刀が、吸血鬼の手を貫き、後ろの壁へと突き刺す。


「こいつは僕が!」

カレラが炎の中から現れる。


「ケイくんはその子を!」


ケイは短く頷くと、少女をしっかりと抱き直し、煙の中を走り抜けていった。


「お前の相手は……僕だ!」


カレラは突き刺した刀を引き抜き、そのまま吸血鬼に切りかかる。

しかし一撃はかすり、吸血鬼は咆哮を上げてカレラにのしかかる。


「この程度で……僕はっ!」


カレラは腹を蹴り上げ、吸血鬼を天井に叩きつける。

落ちてきたところを、間髪入れず刀でその首を突き刺した。


ぐらりと建物が揺れる。


「はぁっ……はぁっ……僕も、出ないと……!」


口元を覆いながら、カレラは煙の中を出口へと走り出す——


その刹那。

廃屋が爆発音と共に大きく揺れ、火柱が夜空に上がった。


「カレラっ!!!」

「まさか……ガスに誘爆したのか!?」


ケイとアナスタシアが目の前の炎を見上げ、声を失う。


——ゴホッ、ゴホッ……!


煙を吐きながら、ふらつく足取りでカレラが玄関から現れた。


「カレラ……!」

「よかった……!」


ケイとアナスタシアが駆け寄り、カレラを両脇から支える。

三人はそのまま、燃え尽きていく廃屋を背に、ゆっくりとその場を離れていった。


「あぁ……メアリー! 無事でよかった……!」

「お母さん!」


少女と母親が、涙をこらえながら抱き合う。

互いの存在を確かめ合うように、強く、強く。


「ありがとうございます、三人方……! どうお礼をすれば……」


「お礼はいいです。それに……娘さんが無事で、ほんとによかった」

カレラが微笑み、ケイと顔を見合わせる。


2人の表情は煤で汚れていたが、その笑顔は確かなものだった。


「お二人とも、傷が……!」

母親が、カレラとケイの腕や頬の火傷に気づく。


「このくらい、血を飲めばすぐに治りますよ」


そう言ったケイの言葉に、母親の表情が凍る。


「……っ! デッドマン……吸血鬼っ!?」


母親は、咄嗟に娘を背にかばい、両腕を広げた。

その目は、救ってくれた者に向けられるにはあまりに怯えに満ちていた。


「メアリーちゃん! サニーさん! 大丈夫ですか!?」


火の手の逆方向から、複数の足音と叫び声が聞こえてくる。

火の粉が舞うなか、懐中電灯の光が次々と走る。


「……よかった。無事みたいだね。そちらの方は……?」


人々の群れの中から、一人の女性が現れる。

ぼろ布のようなマントを羽織り、腰には旧式のアサルトライフル。

目つきは鋭く、警戒心を隠そうともしない。


「ミネルヴァさん! 吸血鬼です! 吸血鬼が……!!」


叫び声に応じ、女性——ミネルヴァと呼ばれた者が即座に反応する。

彼女は迷いなくライフルを構え、銃口をカレラたちに向けた。


「……2人から離れろ、化け物!」


引き金にかかる指に、一切のためらいはなかった。


「待ってください!」


アナスタシアが、カレラとケイの前に立ちふさがるように飛び出した。


「お前は人間か!? そこをどけ、その化け物を駆除する!」


ミネルヴァが銃を構えたまま叫ぶ。その周囲には彼女の仲間たちが広がり、3人をぐるりと囲んでいた。


「私たちは人間です! 撃たないでください!」

アナスタシアは両手を広げて、懸命に叫ぶ。


だがミネルヴァは、カレラとケイの顔を睨みつけた。


「その2人のどこが人間だ!? その目を見ろ、赤い瞳だ!」


カレラは咄嗟に俯き、ケイは静かに目を閉じた。

まぶたの裏に宿るのは、戦いの中で目覚めた力の残滓。


「デットマンだと!? 半吸血鬼のことじゃねえか!」


周囲の人々がざわめき出す。

「吸血鬼の仲間だろ!」「危険だ!」「娘さんを騙してるだけだ!」


「皆さん、どうか話を聞いてください!」

アナスタシアは声を張り上げるが、その必死な言葉は、もはや誰の心にも届かない。


――そのときだった。


「……待ちなさい!」


落雷のような男の声が、場の空気を断ち切った。

誰もが驚き、声の主に目を向ける。


杖をつき、よろよろとした足取りで近づいてくるのは、白髪の老人だった。


「ベン! こいつらはデットマンだ!」

ミネルヴァが叫ぶ。その声には迷いと怒りが入り混じっていた。

人々の視線が、老人――ベンに集中する。まるでその言葉を“判決”として待つかのように。


「みんな、やめて!!」


そのとき、メアリーがカレラたちの前に飛び出してきた。

両手を広げて、盾のように立ちはだかる。


「お兄さんたちは、あたちを……助けてくれたのっ!」


その声は震えていたが、力強かった。

幼い少女が、命を賭けてくれた恩人のために立っている――その姿に、空気がわずかに変わる。


「……メアリー。それは本当かい?」


ベンがゆっくりと膝をつき、少女と目を合わせる。


メアリーは静かに、しかしはっきりと頷いた。


その一瞬の静寂のあと、ベンは立ち上がり、振り返って言った。


「お前たち、武器を下ろしなさい」


「ベン……いいのか? 本当に……」


まだ警戒を解かぬミネルヴァに近づき、ベンはゆっくりとその銃に手を添え、押し下げた。


「この人たちは確かにデットマンだ。だが我が同胞の命を救った。

それは疑いようのない事実……そして、信用に値する」


ベンはカレラたちに向き直り、言った。


「私たちはレジスタンス。吸血鬼に支配された世界から人を解放する者たちだ。

君たちのような力が必要になるときもある。

……君たちを、歓迎しよう」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ケイさんたち、遅いね……」


エデンが窓辺に立ち、目を細めて遠くの煙を見つめる。かすかに立ち上る灰色の煙が、まだ鎮火していないことを示していた。


「先ほど、アナスタシアから無線が入った」


ジークが冷静な声で言いながら、装備のチェックを続ける。ポーチを開け、予備のマガジンや医療キットを順に確認していく。


「どうやら、レジスタンスと接触したらしい」


その言葉に、場の空気が一変する。


「レジスタンス……!?」

シュウが眉をひそめ、即座に立ち上がった。


「過激派だ! ケイ先生たちが危ない!」


腰の刀に手をかけ、階段へと向かおうとする。


だが、その腕をジークが軽く取って制した。


「……落ち着け。敵対はしていないようだ」


「でも……!」


「むしろ、交友関係を築いたらしい」


そう言って、ジークはふと表情を緩めた。

彼にしては珍しい、穏やかな笑みだった。


「今夜は、向こうのキャンプにお世話になるかもしれないな」


窓の外へと視線をやる。沈みゆく夕日が、町を橙色に染めていた。

火事の煙と、静かに灯る新たな希望――対比のようなその光景を見つめながら、ジークは静かに呟いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「着いた。ここがレジスタンスのキャンプだ。」


ミネルヴァは顔をわずかにしかめながら、背後の三人に告げた。


「ここが……レジスタンスのキャンプ……! 本当に人がたくさんいるんですね!」


アナスタシアは目を見開き、目の前に広がる光景に驚きを隠せない。


焚き火の煙が上がり、古びたテントや仮設の小屋の間を、老若男女が忙しなく行き交っている。生活の音、話し声、笑い声。そこには確かに「生きている人々」の営みがあった。


ミネルヴァとベンの姿を見つけると、周囲の人々が次々と声を上げ、彼らを歓迎する。


「ミネルヴァさん! 今日は何体殺したの!?」

「お土産はある? ねえ、あるでしょ!」


小さな子どもたちが彼女の周りに集まり、その表情は輝いている。どうやら、彼女はこの場所で人気者のようだ。


一方で、ベンは何人かに肩を貸されながら、キャンプの一角にあるやや大きめのテントへと向かっていく。


「あなたたちもこちらへ。」


手招きするベンに促され、カレラたちも後を追う。


「罠じゃないだろうな……?」

「流石にここまで来てそれは……」


ケイとカレラは、声を潜めて囁き合う。その視線は絶えず周囲を巡り、疑いの色を拭ってはいない。


温かみのある雰囲気――そう形容されるような空気ではなかった。むしろ、必死に生き延びようとする人々の張り詰めた気配が、キャンプ全体に満ちている。


ケイの目が、キャンプの隅にある倉庫のような建物に向けられる。


「……全て旧式だ。まるで街からかき集めたジャンクを再利用してるみたいだな。」


錆びたドラム缶、歪んだ鉄パイプ、古い発電機の唸り声。ここが、文明の残骸を基盤に築かれた最後の砦だと物語っているようだった。


三人はベンの後を追い、テントの中へと足を踏み入れた。


内部は予想以上に整然としていた。長めの机の上には、地図や資料がぎっしりと並べられ、まるで簡易的な作戦会議室のような雰囲気を醸し出している。


「君たちに礼を言いたい。……ささやかなものだが、きっと役に立つはずだ。」


そう言って、ベンは机の上に積まれていた一冊の手帳を手に取ると、静かにアナスタシアへ差し出した。


「これは……」


アナスタシアは両手で受け取り、おそるおそるページを開く。


中には、マルやバツ、三角や矢印のような図形がずらりと並び、その隣には簡素な説明文が添えられていた。記号の配置とその意味が、手帳全体を通して体系的にまとめられている。


「これってもしかして……レジスタンスの暗号のマーク!? 本当に!?」


目を輝かせながらアナスタシアが顔を上げる。


「こんな大切なもの、もらっていいんですか?」


ケイが少し戸惑いながら問うと、ベンは静かに微笑んだ。


「私たちは、もう全て覚えているのでな。記録に残す必要はないのだよ。」


そう言って、ベンは隣に立っていた男へと視線を送る。彼も黙ってうなずき、同意を示していた。


テントの中に、ほんの少しだけ柔らかな空気が流れた。


「アナス、ちょっと貸して。」


カレラはアナスタシアに声をかけると、手帳を受け取り、慣れた手つきでページをめくっていく。目を細め、記号の羅列を素早く追う。


マルの中にバツ──その組み合わせに目が止まった。


「あった。意味は……」


カレラは指先で記号をなぞりながら、ゆっくりと声に出す。


「この場所一帯にいる吸血鬼は排除したが……戻ってくる可能性あり、か……!」


その瞬間、脳裏に鮮明な記憶がよみがえる。


ポイントC――あの時、自分たちが吸血鬼に急襲された地点。あそこにも、確かに同じ記号が刻まれていた。


ぞわりと背中を冷たい感覚が走る。


「……シュウさんたちが危ない!」


思わず顔を上げ、隣にいたケイとアナスタシアの方を振り向く。二人とも、カレラのただならぬ様子に目を見開いた。


「今いるキャンプの周囲も、同じ記号が……! 戻ってくるって、まさか、吸血鬼がもうすぐ──!」


「どうしたんだい? 三人とも?」


ベンが心配そうに顔を覗き込む。


その問いに、アナスタシアがはっと我に返ったように顔を上げる。


「仲間が……吸血鬼に襲われるかもしれません! すみません、私たち、帰らなきゃ! 手帳、ありがとうございました!」


そう言って、アナスタシアは手帳を大事そうにカバンへとしまい、テントの出口へ駆け出そうとする。


だが、その瞬間――


「待て!」


ベンの静かだが強い声が三人を止めた。


「ミネルヴァと、何人かを君たちにつけよう。……ミネルヴァを呼べ。」


そう言って、ベンはすぐ隣に立つ男に小声で何かを告げる。


「えっ、いいんですか!?」


カレラが驚きに目を見開いたまま声を上げる。信じられない、といった表情だ。


そんな空気の中、テントの幕がさっとめくられ、ミネルヴァが姿を見せた。


「ベン、呼びましたか?」


「この子たちを援護しなさい。」


「……はぁっ!?」


ミネルヴァは呆気に取られたように声を上げる。


「ベン、本気で!? なんでこいつら化け物と──!」


その言葉に、ベンはただ静かに微笑み、問いを返す。


「命は、変えがきかない。──この子たちは、自分の命をかえりみず他人を救った。……それは、彼らを助ける理由にはならないかい?」


ミネルヴァは何かを飲み込むように、唇を噛みしめた。そしてほんの数秒の沈黙の後、くるりと踵を返し、テントの外へと出る。


「──第一開拓隊! 武器を持って集合しろ!!」


彼女の張り上げた声に、キャンプのあちこちから反応が返ってくる。


「「イエッサー!!!」」


若者たちが次々と立ち上がり、駆け出していく。その光景に、カレラもケイもアナスタシアも、一瞬だけ息を呑んだ。


覚悟の声が、確かにこの場所を動かしていた。

デッドマン・リヴァース

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

19

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚