「郁斗さん!!」
「どうした?」
詩歌の声に先を歩いていた恭輔たちが振り返ると、郁斗が苦痛に耐えながら荒い息を吐いている。
「……だ、大丈夫、ちょっと、傷口が開いた……だけだから……」
「郁斗さんっ、血が……っ」
「だから言ったんだ。無理するからそうなる。小竹、急いで車回して来い! 美澄、急いで病院に連絡しろ」
「はい!」
恭輔に指示された二人は各々散って行く。
「郁斗さんっ」
「……っ」
「おい詩歌、お前、ただそうやって泣きながら郁斗の傍に居たって何にもならねぇんだぞ?」
「……っ、ご、ごめんなさい……私は、何をすれば?」
「これで汗を拭いてやれ。そして、ただ泣いてんじゃなくて、手を握って、大丈夫だと励ましてやれ。それくらい、お前にも出来るだろ?」
「は、はい!」
恭輔からハンカチを受け取った詩歌は言われた通り、苦しみ脂汗が滲む郁斗の額を優しく拭いながら、
「郁斗さん、しっかりしてください。私、言いたい事、沢山あるんです。聞いて欲しいんです……だから……」
手を握り、そう声を掛け続けた。
「……、大丈夫、これくらい……平気だから……心配、しないでよ……っ」
不安そうな表情を浮かべている詩歌を安心させようと郁斗は弱々しくも手を握り返し、大丈夫だからと口にするも、車を入口まで運び、電話を終えた美澄と小竹が再び部屋へ戻って来た時には、郁斗の意識は朦朧としていた。
それからすぐに病院に運ばれた郁斗は手術を受け、処置をしてもらい病室で眠っていた。
美澄と詩歌が病室に残り、小竹と恭輔は事務所へ戻って行く。
「詩歌さん、俺が付き添ってますから、少し寝てください」
「ううん、平気です。美澄さんこそ、少し休んでください」
あの救出劇から丸一日程経っている事もあって、流石に詩歌も疲れが溜まっているのか顔色があまり良くない。
それでも、郁斗の傍についていると言って聞かず、一人にして倒れても大変だからと、詩歌の様子を見守る為に美澄も共に付き添っていた。
(……郁斗さん……早く、目を覚まして……大丈夫だよって、笑いかけて……)
命に別状は無いと医師から言われているものの、目を覚ますまでは安心出来ない詩歌は郁斗の手を握り締めたまま、ずっと祈り続けていた。
けれど、急激な眠気に襲われてしまった詩歌はとうとう眠ってしまう。
「やれやれ、ようやく眠ったか。さてと、俺も少し休憩してくるかな……」
それに気付いた美澄が起こさないよう詩歌をもう一つのベッドに寝かせると、自身も休憩する為一旦部屋を出て行った。