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彼女の初ライブは今から一ヶ月後で、ちょうど彼女の誕生日と同じ日だった。僕はもちろん、ライブに行くことにした。
ライブ当日、少し早めに慣れない列車に乗ってライブ会場に向かう途中、古城カレンさんの投稿を見た。
「初ライブ緊張する〜。でも、来てくれるみんなを笑顔にできるようにがんばるね♡」
僕はその投稿にいいねをしたあと、列車に揺られながら、彼女との事を思い出していた。
「今度何作ったか教えてよ。」
僕が「料理の勉強しようかな」とコメントした時、彼女は笑顔でそう言った。だから僕は彼女の好物であるペペロンチーノを人生で初めて作った。まあ、彼女に渡せないので自分の夕食にしたのだが。
「この配信見てる人はみんな私の友達だから。」
本気で言っていたかはわからないが、僕はその時正直友達より恋人がいいと思った。だけど、別に恋人になれなくたって構わない。彼女の夢はアイドル。しかも、オーディションに何十回落ちても諦めきれないほど本気でなりたかったらしい。だから、いいんだ。むしろ人気になればいい。それがあの人の、古城カレンさんの願いなら。
「三千スコア、行きましたよ」
「あ、ほんとだ!。やった~。」
有名なゲームでベストスコアを更新した時、彼女はゲームに集中しすぎて目標スコアを達成したことに気づかなかった。だから僕がコメントで教えてあげた。人気のない彼女の配信のコメント欄は僕のアイコンで埋め尽くされていたから、その時の彼女には僕しか話し相手がいなかった。・・・
あれ、なんでだろう。今、嫌だと思った。彼女が僕だけのものじゃなくなるのが嫌だ。いや、元から僕だけのものではないのだが、なんだろう、古城さんが〝みんなの〟アイドルになってしまう事が怖い。我慢しよう。それかあまりにも悲しかったら、いっそのこと彼女のことは忘れよう。そうだ、それでいい。どうせ彼女が人気になれば、僕なんかいてもいなくても変わらないんだから。
そう覚悟を決めているうちにライブ会場の最寄り駅に着いた。降りなくちゃ。
「すみませーん、降ります。」
人が多くて降りられないから出した自分の声があまりにも弱々しく、自分でも驚く。普段はもっと力が籠もった声が自然と出るのに。
この時は思ってもみなかった。まさか、あんな終わり方をするなんて。