──ワンメーターを過ぎた辺りでタクシーを降りると、
「ここから裏道を少し歩くから、俺とデートしようぜ?」
銀河がそう言って、腕を組むよう促してきた。
「……後ろからついて行くんで、いいから」
差し出された手をしばらく見つめた後で、そう断った。どうやら悪い人でもなさそうだし腕くらいならとは束の間思ったけれど、急に気を許すようなこともできなくて、つい反射的に拒んだ。
「遠慮すんなよ。エスコートするって言っただろ」
言うなり手が捕まれて、彼の腕の間にぐいと引っ張り込まれた。
「ちょっと、やめっ……!」
強引に腕が組まれ、込み上げる恥ずかしさに反発をすると、
「素直じゃないよな?」
銀河にぼそりと呟かれて、顔がボッと真っ赤になった。
「な? 本当は、腕くらい組んでもいいかなとか思ってただろ? だがそんな風に本心を言うのが苦手で、なかなか素直になれない……。どう、俺の分析当たってるっしょ?」
「分析とか……しないでくれる……」
あっさりと図星を突かれ、気恥ずかしい思いでそれだけを返した。
タクシーを降りて、人通りのあまりない裏道を数分ほど歩いたかもしれない。
銀河が「こっちだ」と口にして、私の腕を組んだまま、ビルの間にぽっかりと開いた細い谷間のような路地へと入った。
二人が並んでやっと通れるような狭い路地を抜けると、目の前が急に明るくひらけた気がした。
「あっ……!」
そこにはスクエア型の白い建物が、まるで俗世から隠されたかのように、月明かりにひっそりと浮かび上がって、
『超イケメン✧ホストクラブ』
と書かれた店の看板が、スポットライトにキラキラと照らし出されていた──。
「……本当に、あった……」
まさかという思いで、お店の名前を見上げ呆然と立ちすくんでいると、
「俺の渡したカードキーで、この扉を開けてもらえるか?」
豪勢な金色の取っ手が左右に付いた両開きの白い扉を、銀河が指差した。
言われるままにカードキーを出すと、少しドキドキしながら取っ手の上部に付いた差込口にキーを差し込んだ──。
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