テラーノベル
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『はんちゃん、今日のご飯は?俺、朝から何も食べてへん』
夜ご飯を上重と一緒に食べて、ようやく解放されたと思ったら、スマホに届いたのはくうちゃんからのこれ。
……ほんま、手のかかる赤ちゃんなんやから。
『何が食べたいの? 軽いもんなら作れるけど』
まあ、家は近い。お互い家族が好きすぎて、実家のすぐ近くに部屋を借りたのが幸いやった。
『はんちゃんが食べたい。早く来て』
……は!?
何を言うてんの、この人!? 自分が何口走ってるか分かってるん!?
『そんな冗談言わへんの。ちゃんと言わんと行かへん』
ドクドクと早くなった鼓動を無視して、努めて冷静に返信を打つ。
今日行ったら、昨日みたいなことをまたされるんやろうか。もしかして、それ以上のことも……。
そんなことを一瞬でも期待してしまっている自分が、心底気持ち悪い。
「……あかん、また吐き気してきたかも」
今日は前の飲み過ぎを教訓にして、あんまり呑まんかったはずや。食べた物にあたったんか、それとも……今の自分のあまりに情けない状況に、体が拒絶反応を起こしてるんか。
ピコン、とスマホが震える。
くうちゃんからのご飯のリクエストかな。でも、今の体調ではかえって迷惑をかけてしまう。
『ごめん、はんちゃん話がある』
画面に表示されたメッセージに思わず顔をしかめた。
「……今度は誰やねん」
最近、メンバーの誰かから突然呼び出されるのにはもう慣れた。でも、今はほんまに気分が悪い。今日こそ無視する勇気を持たなあかん。
そう思ってスマホを投げ出した、その時やった。
ドンドンドンドン!!
「え、なに……っ!?」
心臓が跳ね上がる。
インターホンがあるというのに、玄関の扉を直接、拳で叩きつけるような激しい音が響く。
「……誰?」
震える声で問いかける。
ドアの向こうから聞こえてきたのは、いつもの明るさとは程遠い、低く切羽詰まった声やった。
「はんちゃん! ごめん! 俺、嘘ついた! 多分あの人、はんちゃんの好きな人やろ?」
「……へ?」
何の話をしてるんや。
玄関を開けると、さっき別れるまでの穏やかな様子とは打って変わって、必死な形相の上重がそこに立っていた。
「……どうしたん? 何かあった?」
「俺、ホワイトデーの日、はんちゃんのことここまで送り届けたやろ? あの日、玄関から出たら、スーツ姿のデカくて綺麗な人がでっかいバラの花束抱えて立ってて。……俺、咄嗟にはんちゃんのこと取られるって思って」
……え? 何の話? パニックすぎて理解が追いつかへん。
「そいつに『誰?』って聞かれて……『はんちゃんの彼氏です』って、嘘ついた。はんちゃん、ごめん!」
一生懸命に頭を下げて謝っている。
……あぁ、そうか。
あの時のくうちゃんからのLINE。俺に「彼氏おるから、もう会えへんな」っていう意味やったんか。
「……なぁんや、そうやったんか」
へなへなと力が抜けて、その場に座り込んでしまう。
あの日、くうちゃんはバラを持って俺に会いに来てくれてたんや。それを、上重の嘘を真に受けて、あんなメッセージを送ってきたんか……。
やけど、その後結局ゆうとのところに行ったんやろ? 結局、くうちゃんはどっちでも良かったんよ。ゆうとでも、俺でも。手軽に手に入れられそうやった俺のところに、先に来ただけやったんや。
「……ええよ。結局あの日、その人が俺のところに来ても、きっと上手くいかん恋やった。正直に言うてくれてありがとうな」
「……ほんまに? じゃあ俺と、まだ友達でおってくれる?」
「当たり前やん。そんなことで壊れる俺らじゃないやろ?」
「はぁんちゃん、大好きや!」
飛びついてきた上重を、そのまま受け入れる。
俺は、片思いの苦しさも、友達でいないといけないもどかしさも知ってる。だから、こいつには優しくしてあげたい。こいつは、俺の化身みたいなもんやから。
「……気をつけて帰ってな。また明日、職場で」
「うん。今日はありがとうな、ずっと楽しかった!」
手を振って玄関のドアを閉める。
……あとは、くうちゃんか。
俺の体調、最後までもったらええけど。
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