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「くうちゃん? 起きてる? 俺やけど」
何度かインターホンを鳴らし、扉を叩いてみたものの、一向に中から反応がない。
もしかして、俺がレシピに迷いながら買い物してる間に、ぐっすり寝入ってしもたんやろか。
集合住宅でドンドンと音を立て続けるのは流石に近所迷惑や。
何事もなく眠れているのなら、それはそれで安心なんやけど……。
諦めて帰ろうとしたその時、ガチャン、と重たい金属音が響き、ゆっくりとドアが開いた。
やっぱり、俺が騒がしくしたせいで起こしてしもたんやな。
「くうちゃん、ごめん。急に押しかけて。簡単になんか作れるように食材買ってきたんやけど……」
買い物袋を差し出しながら、ドアの隙間から中を覗き込む。
そこにいたのは、昨日よりもさらに顔色が悪く、やつれたくうちゃんの姿やった。
「……ほんまに、一日中なんも食べへんかったん?」
「……うん」
力なく頷くくうちゃんに手首を掴まれ、そのままズルズルと部屋の中に招き入れられる。
これほどまでに元気がないのなら、昨日みたいな過剰な甘えも、それ以上のことも起こる気配はない。
今の俺のミッションは、とにかくくうちゃんのお腹を幸せで満たしてあげること。それだけや。
「……今日は、いっぱい寝れた?」
キッチンに食材を広げながら、相変わらず俺の背中にぴったりとくっついているくうちゃんに話しかける。
……ほんま、くうちゃんは極めつけの甘えん坊さんやな。
「……ううん。頭の中が、いらんことばっかり言うてくるから。脳が全然休まらへんねん。……どうしよ、はんちゃん。俺、このまま一生外に出られへんまま、死んでいくんかな?」
昨日の今日で、病み方が尋常やない。めちゃめちゃ進行してるやんか。
こんなん、今助けられるのは俺しかおらんやん。
「そんなことないよ! 外にはくうちゃんのことが大好きで、待ってくれてる人がいっぱいおるやろ? 俺らグループのみんなもそうやし、仕事場の人も、家族だって。……やから、そんなこと考えたらあかん! ほら、昨日だって俺のために下まで迎えに来てくれたやんか。大丈夫。俺が助けるから。くうちゃんがそんな風にならんように、ずっと側におるから!」
一気に捲し立てた俺の言葉に、くうちゃんが顔を上げる。
今にもこぼれ落ちそうな涙を溜めて、縋るような瞳で俺を見つめている。
もう、ゆうとのことも、友達も、世間体も、全部どうでもええ。
誰になんと言われようと、俺はくうちゃんの側にいたい。
「……ほんまに?」
「……うん。俺、くうちゃんが大好きやから。何があっても、ずっと側におるよ」
告白するタイミングとして、これが正解なんかはわからへん。
でも、今言わな、一生後悔する気がした。
自分の気持ちを伝えても、今の俺たちの絆なら、もう壊れることはない。確信に近い予感が、背中を押してくれた。
「……嘘やろ」
「ん?」
くうちゃんが、珍しい生き物でも見るかのように俺を凝視している。さっきまでの涙はどこへ行ったんや。口までぽかんと開けて、一体どうしたん。
「……はんちゃんが、俺に告白した」
「……改めて言われると恥ずかしいねんけど」
ここは笑ったほうがええんかな。それとも、上重がしてくれたみたいに、早めに取り消して友情宣言した方がいいんかな。迷う俺を余所に、くうちゃんの目から、さっき引っ込んだはずの涙がボロボロと溢れ出した。
「……待ってた。俺、はんちゃんが好きって言うてくれるの、10年待ってた」
「え……待って、そんなに? なに……? もしかして、高校の時にくうちゃんと新が告白待ちしてたのって……」
「俺も! 俺もはんちゃんが好き! ずっと、はんちゃんだけやった!」
「え……!?俺……だけ?」
なにそれ!? くうちゃん、今まで彼氏いっぱいおったやん。俺だけってほんまに!?
「今までのぜんっぶ嘘! はんちゃんに相談してきたクソインフルエンサーも、マッチングアプリの筋肉バカも、その前の話もぜんっぶ全部、はんちゃんの気を引くための嘘やった!」
「……はぁ!? なんでそんなまどろっこしいこと……」
「……だって、はんちゃん、女の子好きやし、俺のこと全然恋愛相手として見てくれへんし! 男でも意識させるには恋愛話作りあげて、はんちゃんの頭に入れてもらうしかないやんか。それにはんちゃん優しいから、『相談』って言うたらすぐに来てくれるし。……ついでにはんちゃんの恋愛事情も聞き出せるし、ええ作戦かなって……」
……恥ずかしい。俺、まんまとくうちゃんの策略にハマって、彼女のことや好きやった人のこと、散々喋らされてたわ。俺だけ本気の恋愛相談してたなんて、恥ずかしすぎるやろ。
「……でも、ゆうとの好きな人がバラの花束もって告白しにきてくれたって、ゆうとから聞いた。俺…くうちゃんちの物置にバラの花束あるの見てもうた……」
「……ううん、ゆうとの家に行ったのは秀太」
「秀太!?」
「そう。正月に二人で大吉引いたやろ?あの時、大吉引けたんやから、絶対今年は上手く行くやろって。
思い出に残るような1番カッコいい告白の仕方しよう、って2人で相談して約束して。
あっちが上手くいった一方で、俺ははんちゃんの彼氏に牽制されるし、いつの間にかはんちゃんは男が相手でも大丈夫になってたのに、まんまとタイミングを逃してるしって。……ただの当て馬すぎてどんどん気持ちが落ち込んで」
そしたら、あのバラの花束は俺の為に用意されたもんやったんか。……待っててな、俺の花束、あとで助けてあげるからな。
「……ごめんな。俺、あのメッセージでくうちゃんに彼氏ができたんやと思って勘違いしてた。上重はただの同僚で友達やから。俺、ずっとくうちゃんと親友でおりたかったから、好きやのに好きじゃないって嘘ついてた。……もう、嘘はつかへん」
「……こっちこそ、紛らわしい文章送ってごめん。新との約束に意地になってはんちゃんからの告白を待ち続けてたのも、誤解の要因ではあるし……」
お互いに「ごめん」と何度も謝り、自然と笑い合う。いつの間にか吐き気も消えて、明らかにされた真実に心は晴れやかやった。
「……でも、秀太、ゆうとのこと好きやったんや……全然気づかんかった……」
「ほんま、はんちゃんって鈍感よな? 高校の時、新ももとちゃんも、はんちゃんのこと好きやってんで」
「はぁ!? 何それ、もとちゃんも!? 意味わからんねんけど!!」
「……はんちゃんは、自分の国宝級な可愛さにいまだに気づいてへんねんな。……ほんま、鈍感さんなんやから」
くうちゃんの顔がゆっくりと近づいてきて、優しいキスが降ってくる。
幸せや。なんのしがらみもない、ただの好き同士のキスは、こんなに幸せなもんなんやな。
#kyrt