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リュークが気まぐれに問いかけた。
「そういえばお前、名前はなんて言うんだ?」
青年は紅茶のカップを置いて答える。
「──あぁ、僕は白鷺 黎(しらさぎ れい)。気軽に“黎”って呼んでよ。僕は__君と友達になりたいんだ。」
一瞬、リュークの目が見開かれる。
“友達”。恐怖とされる存在に対してそんな言葉を口にした人間は、かつて一人もいなかった。
「ははっ、死神と友達になりたいだなんて、どこまでもヘンな奴だな。まぁ……リンゴくれたらなってやってもいいけどな」
「言われなくても知ってるよ、リューク。何回読み返したと思ってる? ……いいよ、リンゴ買いに行こうか。禁断症状出されても困るしね」
黎はソファのひじ掛けに肘を乗せ、気怠そうに笑う。
その仕草さえ、どこか舞台の役者のようで──リュークは無意識に彼を“観ている”自分に気づいた。
「ははっ、禁断症状のことまで知ってるとはな。もしやお前、演出が足りないとか言いつつ……本当はすげぇファンだろ?」
「ファンか……はは、確かに、そうなのかもね_」
黎は目を伏せる。口元に笑みを浮かべながら、声はどこか遠くを見ていた。
「まぁ、あとは演出が完璧だったら、”大ファン”を名乗れたんだけどね。」
「演出演出ってそれしか言わねぇな。演出家でも目指してんのか? ……それと、お前は俺と“友達”になりたいって言ったが、どうしてそう思うんだ? こんなこと言ったのはお前が初めてだ」
問うリュークの声に、黎は顔を上げる。
そして、待ってましたと言わんばかりの笑みを浮かべた。
「なんでかって?──リューク、君は退屈なんでしょ?」
視線がまっすぐ突き刺さる。
言い当てられたことに、リュークは目を細めた。
「僕も同じだ。この上ないくらい、退屈。
……だから共通の“友達”になれると思ってね。君にとっても、悪くない選択だと思うよ」
黎は、ひと呼吸おいて立ち上がる。
背後のカーテンが風に揺れ、部屋の影が静かに波打った。
「僕は──最高の退屈しのぎだよ。いや、違うな」
彼は振り返り、リュークの目の奥を見据える。
「君にとっては、“最高の舞台”が始まるってことさ」
その瞬間、死神と人間のあいだに、不思議な共鳴が生まれた。
それはどこか、夜神月とは異なる、しかし確かに“あのとき”を思わせる始まりだった。