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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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それは風が吹きすさぶ、寒い寒い冬のある日。

昼間だというのにあまりにも寒いので、どこかの店に入って少し温まってから帰ろうか、なんて考えていたあたしの前にそのお店は現れた。見た目は……そう、古民家カフェみたいな。派手に存在を示してくるわけでもないし、特別惹かれる物があったわけでもない。けれどあたしは何故か、気が付いたらその金色のドアノブを引いていた。


ドアを開けた瞬間目に飛び込んでくるのは、雑多に置かれた沢山の”物”。

どこを見ても。そう、前も右も左も上も、下にも。あらゆる場所に物があった。


そんな物で溢れた中心に座っているのは、二人の男性。……片方は、長髪だったからぱっと見女性にも見えるけれど。あたしの目で見ても上質にしか見えないソファーに腰かけ、カップを仰いでいた。


「これはこれはお客様、失礼いたしました。それと、いらっしゃいませ。」

「ほら、店長がこんな時間に茶淹れるから」

「伊都がやってみろって言うからだよね?ってか店長って呼ばないでよ」

「俺のせいにすんなし。それに店長だろお前。」

「はぁ~??」


なんというか、言い合ってるけど仲が良いんだろうな、と伝わってくる。

それはそれとして、この店は何なのだろうか。アンティークショップ……にしては、最近の物も置いてある。雑貨店……には置いていないような物も。


「あ、お客様。本当に申し訳ありません……。何かお探しの物はございますか?」

「あ、いや全然気にしないでください!お探しの物……と言っても、実は風をしのぎに入っただけでして……」

「そうでしたか。ではご自由にご覧下さい。きっと素敵な物も見つかりますから。」

「ありがとうございます。」


素敵な物、かぁ。そういえばしばらく散財してなかったしな……ここで何か買ってみるのも楽しいかもしれない。そう思って店内をぐるりと見回してみた。


絵や時計……はかなり高そうだし、何より置く場所がない。

本は読むのが苦手だし、もっと欲しい人に渡ってほしい。

筆記用具なんかは普段使いしている物があるし……。


こう考えると中々ないなぁ……。


あ、


海の色。


なんだろう。視界の端に映った、素敵な。


振り返って見ると、沢山の色で彩られたそこはマニキュアや香水が置かれている棚だった。


その中でもあたしの目に留まったのは、薄荷色のマニキュア。

明るくて鮮やかで、大好きな晴れの日の海みたいなそれに、あたしは胸が高鳴るのを感じた。


「何か、見つかりました?」


声をかけてきたのはさっきのふわふわした中性的な店長さん……ではなく。どこか気だるげといった雰囲気の男性の店員さん。そう言えばこの人の髪や目の色は、店の扉の色に似ている。


「えっと、このマニキュアが……素敵な色だなって。」

「あ、それ。いいですよね。海の色みたいで、俺も好きです。」


不器用に笑って放たれたその言葉は、あたしが心のどこかでずっと求めていた言葉。

同じこと、考えてた。それがなんだか嬉しくって。


「これ……このマニキュア、ください。」

「……かしこまりました。当店は基本的に物々交換制となっておりますが、何か代わりの物はお持ちですか?」


代わり、代わりか。何かあっただろうか。

自分の持っていたカバンを開いてみるけれど、目ぼしいものは見当たらない。

手帳にボールペン、淡い桜色のポーチにスマホと財布、鍵くらい。


このポーチなら、代わりになるだろうか。

数年前、雑貨店のショーウィンドウで一目惚れしたこのポーチ。


「このポーチ……どうですか?」

「……桜の色だ。好きなんですか?趣味合うなぁ……」


本当に。海の色も、桜の色も。この人と同じ物を好きだなぁと思っている。

不思議な感覚だった。好きってすごくすごく曖昧な感情だから、ぴったり合うことって中々ない。

それなのに、たまたま寄った店の店員さんとこんなに合うことがあるんだ、って。


「たぶん、大丈夫。というかすごく良いです。」

「あぁ、よかった……じゃあ、それで交換したいです。」

「かしこまりました。……琥珀!」

「んー、決まりましたか?」

「はい。このマニキュア……このポーチと交換してもらってもいいですか。」

「かしこまりました。では、こちらのマニキュアはお客様の物、こちらのポーチは当店の物。よろしいですか?」

「はい。ありがとう、ございます。」


「大切に、してください。……って言わなくても大丈夫だと思うけど。」

「……はい、勿論!」


そのマニキュアは陽の光に透かすと、本当に綺麗な海の色をしていた。

涙が出るほど、綺麗な。あたしが大好きな、晴れの日の海と、光の色だった。



「伊都、良いの?あのマニキュア気に入ってたじゃない。」

「別に良いよ。元々商品だろ。俺の物じゃない。」

「んー……けど言ってたじゃない、売れなかったらこれ貰っても良いかって。」

「売れても売れなくても使って良いよっても言われたけどな。」

「そうだよ?別に使えば良かったのに。」

「ダメだろ、普通にさ。……それに、このポーチも綺麗だから良い。」

「あぁ、それ。桜の色だもんね。」

「それにそういう物だろ、この店って。巡り合わせなんだから。」

「……分かってるじゃん。」

「ま、一応店員なんで。」




「お客様も、来てください。お求めの品もきっとありますから。」

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