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そしてこの日を境に、それまでかたくなに市長の計画に反対していた市民のうち、自営業者が一斉に賛成派に転じた。
マスコミの記者と、各地のLGBTQ団体が一斉に押しかけたため、商店街の売り上げがその日だけ80%増を記録したためだった。
またLGBTQの人たちは一回の買い物や外食の出費が、普通より多い事も判明した。LGBTQには意外と、高学歴、高収入が多いらしい、という噂が市内に広まった。
そして一年をかけて、市役所は市内全域の再開発を行い、商業施設や公園などの公共の空間以外は、市の全域をレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クィアそれぞれの専用居住区として整備した。
転入希望者の公募を行ったところ、希望者が受け入れ可能な枠を大幅に超過し、市長は断腸の思いで、と前置きして、転入希望者の抽選を行った。
ただ、ヘテロセクシュアルの市民からは引き続き反対の声が上がり、市役所には抗議の書簡やメールが多数届いたが、計画実行の多忙もあって、市長はあえてそれらに目を通さなかった。
そして一年後、市内の駅や幹線道路の入り口に、LGBTの象徴である七色のレインボーカラーの旗や垂れ幕が一斉に翻る中、新規転入住民受け入れ開始の日を迎えた。
会計年度の始まりに合わせた4月1日、大勢のLGBTQの新市民が誇らしげに虹色のゲートをくぐって、市内に引っ越してきた。
市長室でコンサルタントの男とともに、その様子をネットの動画中継で見ながら、市長は感慨深げに言った。
「初年度だけで1万5千人の転入とは。君の意見を取り入れて正解だった。苦労をかけたね」
コンサルタントの男は笑顔で応じた。
「お役に立てて、こちらこそ光栄です。地方自治体再生の実績が出来て、私こそお礼を申し上げます」
市役所には転入してくるLGBTの新市民から、数えきれないメールが届いていた。やっとメールに目を通す時間が出来た市長はその場でいくつかに目を通し、うっすらと目に涙を浮かべた。
「私は自分が恥ずかしい。なんという知的で心のこもった文章だ。こんな暖かい感謝のメールを送ってくれる、そんな人たちをLGBTQだというだけで偏見に満ちた目で見ていたのだな、私は」
コンサルタントの男は何度もうなずきながら言った。
「ご理解いただけてよかった。ですが、市民の中には変わらず反対の方も多くいらっしゃるようですね。既に市から転出なさったヘテロセクシュアルの住民も多いと聞いていますが」
市長は反対派からのメールが集めてあるメールボックスを開きながら応えた。
「時間をかけて説得すれば、きっと他の市民も分かってくれるはずだ。偏見に過ぎんのだよ、つい1年前の私がそうだったのだから」
反対派からのメールを読み始めた市長の顔が不意に曇った。矢継ぎ早に反対派のメールの目を通した市長は、突然バンと音を立てて執務机に手を置き立ち上って叫んだ。
「しまった! ヘテロセクシュアル専用居住区……その事だったのか!」
コンサルタントの男もただならぬ気配を察して訊いた。
「何か問題が?」
「その居住区を」
彼に視線を向けた市長は顔面蒼白だった。
「作るのを忘れていた」