「……愛なんかなくても、抱けるはずです、あなたなら……」
私の答えに、「そう…ですか」と、呟いた後に、
「君は、私をそんな風に見ていられるのですね……」
彼が、ふと目を伏せたようにも見えた。
「……いいでしょう。あなたがそう見ているのなら、それも正しい私の姿のはずですから……」
言いながら、皺ひとつないワイシャツのボタンを、首元まできっちりと留めると、
「……あなたには、まだ必要なようですね……」
彼が、首に結んだネクタイを、片手でキュッと固く締め上げた。
「必要って……何が、ですか?」
「……私を、知ること……」
政宗医師は言って、メガネのテンプルを指先で摘まみ、神経質そうに耳にかけ直した──。
「……知って、どうするんですか?」
「どうするのかなど、今はどうでもいいことじゃないですか」
政宗医師にしては珍しい投げやりな口ぶりで、そう話して、
「私も、まだあなたを、知る必要がありますから……」
どういうつもりなのか、そんなことを口にした。
「知ったって、どうにも……」
この人が、私を好きになるはずもないのに、知ることになんの意味があるんだろうと思う。
「……興味、です」
彼が、かつて誘いかけてきた時と同じ台詞を一言吐き出す。
「……この私を、なぜ好きにならないのか。……なぜ、身体を開いておいて、心を開かないのか……」
そうして長々と、恨み言のようにも言いつらねると、
「私に落ちない女性は、単純に興味対象です」
額にかかる前髪を、彼はいかにも鬱陶しげに、細く長い指で掻き上げた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!