「……いなかったんでしょうね? あなたに落ちない人なんて……」
まさに美形と呼ぶにふさわしい顔を真正面から見つめ、皮肉をぶつけた私に、
「ええ…」と、彼は臆面もなく頷いて、
「いるわけがないでしょう。私には、全てが備わっているのに……」
余裕の笑みさえ浮かべた。
「全て…ですか……」
その余裕が、嘘ではない分、より嫌味に感じられる。
「そう、外見も、頭脳も、財力も、全て……。私には、手に入れられないものなど、何もないのですよ」
反論などできる余地もなく、この男は確かにその全てを持っていた。
「……だから、侮らない方がいい、この私を……」
政宗医師が続けて低く口にする。
「……あなどる?」
「……ええ…あなたにも、いずれわかるでしょう」
私の頬に、ひたりと手をあてがうと、
「……あなたも、自分から手中に落ちるのだと……」
既に掌握しているかのような素振りで、その手の平を強く押し当ててきた。
「……私は、他の人とは違い……」
「いいえ、違いません」
反論する私を遮って、彼が言う。
「……昨夜、どれだけ欲しがったと思っているのです? 私を……」
「欲しがってなんか……」
「違うと言うんですか? あれほど、求めておきながら……」
顔が赤らんだのがわかって、目を逸らしうつむいた。
そんな私を、彼は黙って見下ろして、
「あなたは、もう落ちるしかないのですよ」
そう傲慢そうにも口にして、私の胸中を見透かしたかのように、「フッ…」と短く息をつくと、
「……気づかせてあげますから、それもね……」
整然と美しい容貌に、微笑とも取れる妖艶な表情を貼り付けて見せた……。
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