──ユウマは下におちた。
「ユウマ!!」とさけぶリヨクの声は、学舎全体に鳴りひびく太い声にかきけされた。
「《《《リベク! 》》》」
塔の中から、一筋のみどりが急速に下へとのび、ユウマの足を見事にとらえた。
分厚い蔓につかまれたユウマは、2階付近でぶらんぶらんとゆれている。
「はぁ……」リヨクはホッとし、地面にひざをつけた。
オウエンは目をぱちぱちとさせ、状況が理解できていないようすだった。
──塔の中から車椅子のように動く植物にのるウサ耳のおじいさんと、その両隣にいるみかん色の髪をした25〜30歳くらいの男2人がでてきた。
分厚いつるは、ウサ耳のおじいさんの手と繋がっている。
「やれやれ、こんなに広いのにおっこちるかのう普通。幅10メートルはあるぞ?」
車椅子のように動く植物にのり近づいてくるウサ耳おじいさんは、優しそうなたれ目で、かつらのような違和感のあるショートカットヘアをかぶっている。ほそく長いあごひげとスカスカの口ひげが、彼に一種の風格をそえていた。
「校長──」
イケボな声が学舎にひびいた。
うさ耳のおじいさんに話しかける面長な男。
彼は、女性のようなキリッとした目と、I字のあごひげが生えている。
クールな印象だが、半分ロン毛で半分坊主と、クールな印象に反してユニークな髪型をしていた。
もう1人のまる顔の男は、丸い大きな目に、ツンツンとした髪。額には、きいろの宝石が6つ横一列にうめ込まれていた。
──そして、みかん色髪の2人の片目に、数字が書かれている。
半分ロン毛の男の目は“1”
ツンツン髪の男の目は“2”
リヨクは、違和感を感じていたが、この時には気付かず、しばらく経ってから地球と同じ数字ということにおどろいた。
「──校長。ミヒドラ、使ったままですよ」
ウサ耳のおじいさんは、片側ロン毛の男に指摘されると「ほんとじゃ、使ったままになっとった」と言い「《ヤトゥ》」と唱えた。
すると、学舎全体に響く声が止まった。
ウサ耳のおじいさんは、ぼくたちの目の前までくると「ふぅ。あぶなっかしい子じゃ」といい、手から伸びた分厚いつるを徐々にちぢめ始め、気を失ったユウマを橋の上におろした。
「ありゃりゃ、気絶しとる」
うさ耳のおじいさんは、気絶しているユウマをひざの上にちょこんと乗せると、ぼくらに向かって話しだした。
「ゴホン。ポピュアの子供たちよ、木の学舎ポムヒュースへようこそ。わしはこの学舎の校長、『アーガバウト』と申す。──これから見学してもらうんじゃが、その前に君たちに特別な贈り物をしたいと思っておる。ついてきてくれるかの」
子どもたちはウサ耳のおじいさんについていき、ガムボールマシーンのような形をした6つの塔に向かう。
──ポムヒュース3階の中央にある塔の中──
塔の中は、教会のような内装だった。
2列に並んだなが椅子と、奥に立ち台。
壁面には、この世界の風景が描かれた壁画や、天使や宇宙人の彫刻が施されている。
「みんな適当にすわってくれ──さて、あらためて自己紹介させてもらおう。
わしの名は『イン・アーガバウト・ザード』、ここの校長じゃ。『アーガバウト』と呼んでくれ。
──そして、片髪ロングの『モア・パルコス』。
ツンツンヘアの『イオ・パルコス』じゃ。
この2人はポムヒュースを見回り、修復や掃除をしてくれておる。
──それじゃ、特別な贈り物を贈るとしようかの」
アーガバウト校長はそういうと自身の体からのびる複数の触手を巧みに操りはじめ、塔の上部を一周する引きだしを一つずつ開けていった。
取り出した、大きな葉っぱに包まれたなにかを、子どもたちに配っていく。
「全員とどいたかな? ──それじゃ開けてみよう」
リヨクは、クリスマスの朝にプレゼントを開ける子どものように、葉っぱの包みを急いで開けた。
──しかし、中に入っていたのは、服一式とみどりの笛、そして、水色のバッジだった。
「これは本校の制服じゃ。緑の国エドーラで過ごしやすいようデザインされておる。デザインについてはこれから向かう先にいる先生が教えてくれるじゃろう
──これは、このポムヒュースが学舎となった時からある伝統的なバッジなんじゃ。成長、火、水、風、毒、匂と、6つの属性試験がある。
それに合格すれば、それぞれの属性を象徴する色のついた花びらが1枚、バッジから生えてくる──」
──アーガバウト校長はグオを側に呼び、グオの制服についているバッジを指差し、再び話し出した。
「──風の試験に合格しておれば、このように水色のバッジに白い花びらが付け加えられる。
1枚でも花びらの生えたバッジを持っておれば学内で一目置かれるじゃろう。
才能ある君たちには、6つの試験をクリアし、完全な花を咲かせてもらいたい。
──わしからは以上じゃ。それじゃ今から、制服に着替えて、実際に授業を見学してもらおうかの」
子どもたちは、アーガバウト校長の指示にしたがい、その場で着替え始める。
「なんだこのシャツ。女子が着る服みたい」と顔をしかめるオウエンだったが、「そうかな?」リヨクは割と気に入っていた。
──ポムヒュースの制服は、首から胸までIの字にひらいた、ドレープのきいたゆるいハイネックシャツと、着丈が少し短い襟なしのジャケット。
ズボンは、植物の皮でできており、ひざからすそにかけて細くなっているデザインだった。
「リヨクは似合ってるからいいけどさ……おれはやっぱ、カンフーシャツがすきかな」
「制服着ないの?」
「うん、着ない──あ! ユウマおきた」
意識を取り戻したユウマは、うさ耳のおじいちゃん校長、アーガバウトのひざから降りた。
「お〜、まだ歩かん方がいい」と言い止めるアーガバウトの手をふりほどき、ユウマがこちらに向かってきた。
リヨクは手を上げ、「ユウマ! こっち」と言った。
「ん? …おれ?」
ユウマはふり返り、ふたたび前を向くと、思い出したかのように「あぁ」といいこっちに向かってきた。
「大丈夫?」リヨクは心配そうに聞いた。
ユウマは少し震えた声で「うん、大丈夫」と言った。
「ユウマ…」
となりにいたオウエンは、気まずそうに話しかけた。
「ん?」
「おれのせいだな…」
オウエンは、下をみて、口を少しとがらせている。
「いや、殴りかかったおれがよくなかったんだ」
「いや、おれもむかし、師範のひざにのせられてたからわかるんだ。カタいだろ…おじいさんのひざ。ケツ、痛くならなかった?」
「──リヨク、こいつ、何言ってるの?」
と言ったユウマは、口を開いたままリヨクをみていた。
「んー……えーっと、オウエンは、橋から落ちるより、おじいさんのひざに座るほうがいやだと思ってるんじゃないかな?」
「……ふーん。よくわからないけど、まぁいいや。もうおどかすなよ。今度おどかしたら当てるからな」
「うん、わかった!」
ゆるしてもらえたオウエンはとうれしそうに返事した。
「ユウマくんも意識を取り戻したことじゃ、グオ! メヒワ先生のところへ案内してくれるかの」
「はい!」
「──それじゃみんな、引き続き見学楽しんでくれ」
塔を出た子どもたちは、グオについて行き、となりの塔に入って行った。
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