魔族学寮へは、魔族軍四天王 セノからの推薦ということで、無事に入学を果たした。
私…………いや、俺の髪色は、魔族の若い兵士たちに驚かれないよう、真っ黒に染め上げられた。
「残りの半年間……そこで一位の成績で卒業。それができなきゃ、俺たちには追い付けないからね〜」
シグマの言っていたこと、恐らく、嘘じゃない。
セノからの推薦と言うだけで、俺は浮いていた。
「あのセノさんからの推薦なんて……凄いですね……!」
見た目は……気弱なタイプか。
皆が遠巻きにする俺を放っておけない、という性格なんだろう。
「お前、闇魔法はどの程度扱えるんだ?」
「お恥ずかしい話、僕はこの学寮の落ちこぼれだから、あんまり魔法に昇華できないんだ……。でも、その分たくさん勉強してるから、知識ならあるよ!」
闇魔法をあまり扱えない……そんな魔族もいるのか。
まあ、闇魔法と言っても、普通の魔法と同じく、レベルというものがあるのだろう。
それからの俺は、身分もプライドも捨てた。
自分の今成すべきことは、吸収すること。
たくさんの学生たちに聞きまくった。
「レオくん、ソードマンだろ? 前衛なら、こういう相手の目を眩ます闇魔法とかどうだ? ソードマンは小難しいことはせず、習得難易度の簡単なものを使って、剣撃で攻めるってのが理想って言われてるかな」
「闇魔法ってのは、基本的に仲間の魔力を奪う。パッと聞くとデメリットみたいに聞こえるけど、それは違う。他の国と違って、少数で戦う魔族の戦い方は、助け合いが全てなんだ。魔力が今不要な奴から魔力を補給し、必要な奴に循環させる。それが、闇魔法の基本的な立ち回りなんだ」
闇魔法を知れば知るほど、俺が知っているものとは全然違うものだった。
リリム・サトゥヌシアが使っていた時は、味方の魔力を吸ってしまうデメリットばかり挙げられていたが、闇魔法同士であれば、魔力の供給が可能……つまりは、助け合いで戦闘が行える仕組みとなっていた。
「よう、レオ! おはよ!」
「レオくん! おはよ〜!」
そして俺は、キルロンドにいた頃よりも、友人がたくさん出来ていた。
こんな気さくに挨拶をされたのは、初めてだった。
「やあ、レオくん。随分とお友達も増えたみたいだね」
「セノ…………」
「突然だけど、僕と戦わないかい? 四対四の……君たちの国で言う、ブレイバーゲームだよ。こちらからは現兵士たち四人のパーティで行くから、君は、仲良くなった学寮の生徒をあと三人集めるんだ。いいね?」
一方的な言われ方だったが、俺は頷いた。
残りの学寮生活も残り僅か……闇魔法についても、少しだけど扱えるようになってきた。
実践してみたいところだ…………!
俺と戦ってくれる仲間は、存外簡単に見つかった。
最初に話しかけてくれた知識豊富だが、実践には少し自信ないような男、炎属性のアシエ。
学寮一の闇魔法使いと言われている氷属性のダナク。
そして、シグマの弟、シールダーの炎属性のガンマ。
「自分が前衛を中心として、メイジを二人編成、シールダーを一人……。うんうん、闇魔法のこともちゃんと勉強したみたいだし、今までの傲慢な戦いではなさそうだ」
セノの編成は、雷のセノ、岩のシグマ、風のルルリアに加え、新顔の水属性のメイジが加わっていた。
パッと見の情報で言えば……雷と水を風で拡散、しかし闇魔法を加えた戦いでどうなる……?
俺と現兵士たちの差がどんなもんか……見極める……!
「じゃあ、勝負開始!!」
そう言うと、セノは一人で飛び出した。
ガキィン!!
セノの奇襲してきた剣を反射で受け止める。
「クソッ……連携もクソもねぇのかよ……!!」
「さあ、それはどうかな……?」
次の瞬間、俺の身体はバチっと震え、身が硬直した。
「感電……か……!!」
セノの奇襲は、それこそが囮。
その奇襲に目を奪われ、水の魔法に気が付かなかった。
しかし、その程度では倒されない……!!
「ガンマ!!」
「もう準備万端」
“炎防御魔法・フレイムシルド”
俺の四方に、炎の柱と共に、俺を守るバリアが形成される。
この炎により、相手の水の付着も消える……!
そして、ここからが大本命だ…………!!
「ダナク!! アシエ!!」
ダナクは、常に強さを追い求める俺に似た戦士だ。
だが、剣術には恵まれず、ひたすら魔術を磨いた。
“氷魔法・アシッドグレイ”
そしてアシエは、最初こそ勉強熱心なだけの劣等生かと思っていたが……。
“炎魔法・レッドゾーン”
コイツが存外…………ダークホース…………!!
確かに、一人での戦闘ならば、弱い奴と言われるのも仕方がないだろう。
しかしコイツには、エルフ族が一番に重宝している、熟知量が秀でて高い。
背後から、ダナクの魔法が俺とセノに向けて放たれ、俺たちを下から囲うように、アシエの魔法が放たれる。
闇魔法から学んだこと……俺は既に、アシエに対して大量の魔力を供給している。
「へぇ…………」
「俺はシールドで守られている……!! 喰らえ……最大出力の “溶解” だ!!」
ゴォウ!!!
しかし、
「なっ…………!」
ニタリと微笑むセノ、先に地に伏すことになるのは、俺の方だった――――――。
「レオくん……!!」
負け…………た…………。
「敗因は分かったかい?」
「溶解が起きている中での、ルルリアの風による拡散……セノはシグマの岩シールドで守られていたから、炎シールドの俺が先に削られた…………」
「その通り。魔法の攻防だけで言えば、百点の答えだけどね、君が闇魔法に集中し過ぎたこともある。君はキルロンドにいた頃から、大ダメージの一撃、というものに拘りすぎだ。最初の感電から、拡散……微量かも知れないけど、君たちを確実に下した。溶解に繋げることが悪いことじゃない。君の魔力を、その一発に乗せる為に、注ぎ過ぎたのがそもそもの敗因」
「しかし……お前たちは、俺たち四人に比べて格上の兵士だろう…………。なればこそ……俺たちがすべきは、一撃に全てを込め、沈めること…………」
「ふふ、頑固な君らしい。じゃあ、君たちの溶解、僕たちの拡散、両方がノーダメージで、最後、僕と君の二人が牽制し合う場面が来たら、君はどうしていたんだい?」
その時、確実な差を目の当たりにした。
「その後まで……考えていた……。だからこその……敗因か……。ふっ……格上に相違ない…………」
「闇魔法を学び、君なりに試行錯誤をした結果の今回の戦いだったんだろうけど、根本を見誤っているよ。闇魔法ってのは、循環させるもので、託すものじゃない。君が誰かに魔力を託した時点で、君は闇魔法を扱えているとは言えない。そんなものは、別の魔法でも出来るからね」
そうか…………俺がやったのは、ただの魔力付与。
闇魔法の真髄は、その力を仲間同士で循環させ、足りないところを保管すると言うもの。
根本的に…………間違っていたのか…………。
「まあ、今回の反省を経て、無事に卒業してよ」
その後、俺は更に闇魔法を駆使した実践を積み、ダナクとも張り合える程に高め合い、卒業を迎えた。
卒業=兵士になる、と言うことではない。
卒業して、一般的な仕事に就く者もいる。アシエも、兵士にはならず、研究者に志願していた。
俺を含めた卒業生が、新兵として呼ばれる。
その兵士たちを束ねるのは……セノ=リューク……!!
「卒業おめでとう。これから、君たちに会って欲しい人がいるんだ」
その人が現れた瞬間、俺は目を丸くした。
鼓動が、跳ね上がるものを感じた。
「魔王様の実の娘にして、現三王家の一人、リリア=サトゥヌシア様だ」
前に、キルロンドの屋敷に来ていた娘だ…………!!
それから、魔族は、他の国から『魔物のように恐れられる種族』という説明を新兵たちに話していた。
新兵たちは、ただの国間の争いだと思っていただけに、自分たちだけが迫害されている事実に、怒りを剥き出しにする者、困惑で身を固める者、震え出す者、様々な感情が入り乱れていた。
リリアはそんな新兵たちに対し、他の種族を根絶やしにして、魔族が住みやすい世界を作ると宣言していた。
セノは、いつもの笑みはなく、ただその横顔を眺めるように見つめていた。
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