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親戚の集まりなんて、正直、昔はそんなに好きじゃなかった。
大人たちはずっと喋ってるし、小さい子は走り回るし、座れば「大きくなったねぇ」って言われる。高校生になった今でも、それは変わらない。
でも――。
「……ライ、来てるかな」
緋八マナは、玄関の前で靴を脱ぎながら小さく呟いた。
それだけで胸が少し熱くなる。
今日の親戚の集まりも、半分以上はそのために来ていた。
会いたいから。
たったそれだけの理由で。
「マナー! 久しぶり!」
「うわっ」
後ろから肩を叩かれ、マナが振り返る。
そこには、少し眠そうな顔をした伊波ライが立っていた。
黒髪を軽く整えただけのラフな姿なのに、相変わらず格好いい。高校三年生になったライは、背も伸びて、声も少し低くなっていて、会うたびにドキッとする。
「……ライ」
「なに、その反応」
「別に」
「嘘だ。顔赤い」
「赤くない!」
笑いながら頭を軽く撫でられて、マナは反射的にライの手を払った。
……ほんとは、嬉しいくせに。
親戚だから、昔から距離が近い。
だからこそ、好きになってしまったことが余計に苦しかった。
ライにとって自分は、“可愛い年下の親戚”でしかないのかもしれない。
そんなことを考えて、勝手に落ち込む。
「マナ、また身長伸びた?」
「ちょっとだけ」
「へぇ。前より目線近い」
「……ライが高すぎるだけだろ」
「はは」
自然に並んで歩くだけで心臓がうるさい。
リビングでは親戚たちが賑やかに話していて、料理の匂いが広がっていた。
「あ、ライくんとマナくん仲いいねぇ」
叔母の一言に、二人とも同時に固まる。
「えっ、いや別に」
「普通だし」
タイミングまでぴったりで、周りが笑う。
「昔からほんと仲良しよね」
――違う。
そんな軽いものじゃない。
少なくとも、マナにとっては。
好きだ。
ずっと。
親戚だって分かってるのに。
年上で、高校も違って、会えるのもこういう時くらいなのに。
それでも会うたび好きになってしまう。
ライの方を見ると、ちょうど目が合った。
その瞬間、ライが少しだけ困ったように笑う。
……その顔、ずるい。
「マナ、飲み物取る?」
「え、あ……うん」
「じゃ、来て」
さりげなく手首を引かれる。
親戚の目がある場所では、ライは絶対に変なことをしない。
でも、こういう小さな特別扱いがあるから期待してしまう。
キッチンに入ると、周りに誰もいなかった。
ライが冷蔵庫を開けながら言う。
「炭酸でいい?」
「うん」
「今日、泊まってく?」
「……泊まる」
「よかった」
その一言だけで嬉しくなる自分が悔しい。
「ライは?」
「俺も泊まり」
「そっか」
じゃあ夜まで一緒にいられる。
そう思った瞬間、口元が緩みそうになって慌てて隠した。
「マナ」
「な、なに」
「顔に出てる」
「は!?」
「可愛い」
「……っ」
心臓が止まるかと思った。
さらっとそういうこと言うから困る。
「からかうなって……」
「本当に思ってる」
低い声で言われて、マナは視線を逸らした。
ライは昔から優しい。
でも最近、その優しさが自分だけに向いてる気がしてしまう時がある。
勘違いしたくなる。
「ライってさ」
「ん?」
「彼女とか、いないの」
「いない」
「……好きな人は?」
聞いた瞬間、やばいと思った。
踏み込みすぎた。
でもライは少し驚いたあと、小さく笑った。
「いるよ」
「……へぇ」
胸が痛い。
当たり前だ。
ライがモテないわけない。
「マナは?」
「俺?」
「好きな人」
「……いる」
「そっか」
一瞬だけ、沈黙が落ちる。
お互い、その先を聞けない。
もし違ったら終わるから。
もし嫌われたら、親戚としても気まずくなる。
だから言えない。
好きだなんて。
「ライー! 手伝ってー!」
リビングから呼ばれ、ライが「はーい」と返事をする。
「行こっか」
「うん」
隣を歩く。
触れそうで触れない距離。
でもその距離が、今は苦しかった。
夜。
親戚たちが温泉に行くと言い出して、家にはマナとライだけが残った。
「二人は留守番お願いねー」
「えっ」
「仲いいし平気でしょー?」
そんな軽いノリで出て行ってしまい、玄関が静かになる。
……気まずい。
いや、嬉しいけど。
嬉しいけど心臓に悪い。
「マナ」
「な、なに」
「ゲームする?」
「子供扱い?」
「拗ねんなって」
ライが笑う。
そのまま二人でソファに座った。
距離が近い。
肩が触れそう。
マナが意識していると、ライがふいに呟いた。
「マナってさ」
「ん?」
「最近、ほんと可愛くなったよな」
「……は?」
「いや、なんか前より」
「急に何!?」
「思っただけ」
耳まで熱くなる。
ライは平然としてるのに、自分だけ振り回されてるみたいで悔しい。
「ライはずるい」
「なにが」
「そういうこと簡単に言う」
「簡単じゃないけど」
「……え」
ライの声が少し真面目になる。
その空気に、マナの呼吸が止まった。
「マナ」
名前を呼ばれる。
優しい声。
近い距離。
「俺、お前のこと――」
そこで、玄関の音がした。
「ただいまー!」
「えっ」
二人同時に離れる。
親戚たちが帰ってきて、空気が一気に壊れた。
「なにしてたのー?」
「ゲーム!」
「そうそう!」
慌てて誤魔化す二人を見て、大人たちは笑っている。
でも。
さっきの続きが頭から離れなかった。
――俺、お前のこと。
あれは。
あれは一体、なんだったんだろう。