テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
スタートーー❗️
――東京湾。
午後四時を過ぎたころ。
空は薄いオレンジ色に染まり始め、海面には夕陽の光が長く伸びていた。
その海を、一隻の観光船がゆっくりと進んでいる。
「うわぁ……!」
船のデッキから、美月が身を乗り出すようにして海を眺めていた。
手には、いつものカメラ。
風に髪を揺らしながら、美月はファインダーを覗く。
「この角度……いいかも」
――カシャッ。
シャッターが切られた。
液晶画面に映ったのは、夕陽と海。
そして、その向こうに見え始めた巨大な人工島だった。
「あれが月影アイランド?」
美月の隣で、蘭が答える。
「そうみたい。最近できたばかりなんだって」
「すごいなぁ……」
その後ろでは、小五郎がパンフレットを広げていた。
「えーっと……『蒼月フェスティバル』だと?」
「そうじゃ!」
阿笠博士が楽しそうに笑う。
「最新の科学技術を使った展示や、海洋文化のイベントもあるそうじゃ」
「科学技術ねぇ……」
小五郎はパンフレットを眺めながら呟く。
「俺としては、うまい飯があれば十分なんだがな」
「博士、何か面白そうなものある?」
コナンがパンフレットを覗き込む。
「ふむ……」
博士がページをめくる。
その中に、一つだけ妙に大きく紹介されている展示があった。
『五十年前に消えた豪華客船――アルカディア号の謎』
「……アルカディア号」
美月の声が小さく漏れた。
コナンが振り返る。
「知ってるの?」
「ううん。でも……」
美月はパンフレットの写真を見つめる。
そこには、五十年前に撮影されたという古い豪華客船の写真が載っていた。
巨大な船体。
いくつもの甲板。
そして船首付近に刻まれた名前。
――ALCADIA。
「……なんだろう」
美月は胸元に手を当てる。
「この船……どこかで見たことがあるような気がする」
「写真じゃなくて?」
「うん……」
コナンは美月の表情をじっと見つめた。
そのときだった。
「コナン君、美月ちゃん!」
蘭が二人を呼ぶ。
「もうすぐ島に着くみたいよ!」
「うん!」
美月はカメラをしまった。
だが――
コナンはパンフレットに残った一文を見つめていた。
『アルカディア号は、五十年前の夜、乗員・乗客とともに消息を絶った』
「……妙だな」
「何が?」
美月が尋ねる。
コナンはパンフレットを指差した。
「普通なら、船が沈没したとか、遭難したとか書くはずだろ?」
「……『消息を絶った』」
「そう。つまり――」
コナンの目が鋭くなる。
「最後まで、沈没したことが確認されてないってことだ。」
美月はもう一度、アルカディア号の写真を見た。
その瞬間。
――ザッ。
海面に、小さな青い光が見えた。
「……え?」
美月が目を凝らす。
しかし――
光は消えていた。
「どうしたの?」
蘭が聞く。
「今……海が光ったような……」
「海が?」
小五郎が振り返る。
コナンも海面を見る。
何もない。
ただ、夕陽に照らされた波が揺れているだけだった。
「見間違いじゃないかな?」
コナンが言う。
「……そうかも」
美月は答えながらも、なぜか気になっていた。
――あの青い光。
どこかで見たような気がする。
まるで、写真の中にあったような――。
⸻
◆
午後五時。
観光船が月影アイランドの港へ到着した。
巨大な人工島には、多くの人が集まっている。
中央には巨大なドーム型施設。
その周囲には、海洋博物館、ホテル、レストラン、イベントホールなどが並んでいた。
そして島の中央に設置された巨大スクリーンには――
『蒼月フェスティバル』
という文字が映し出されている。
「すごい人……!」
美月が辺りを見回す。
「これだけ人が集まるとはのう」
阿笠博士も驚いている。
小五郎はさっそく周囲の店を見ていた。
「おっ、あそこのレストラン……」
「お父さん!」
蘭が呆れた声を出す。
そんな二人を見ながら、コナンは島の奥を眺めていた。
何かがおかしい。
フェスティバルの会場なのだから、人が多いのは当然だ。
だが――
警備員の数が妙に多い。
しかも、海側の施設だけは厳重に封鎖されている。
「……あそこ」
コナンが呟く。
美月も気づいた。
「何かあるのかな?」
二人が見つめた先。
そこには古い倉庫のような建物があった。
入口には、
『関係者以外立入禁止』
と書かれている。
その横には、もう一つの小さな看板。
――旧アルカディア資料保管庫。
「アルカディア……」
美月の顔が曇る。
コナンは黙って看板を見つめた。
すると。
「おや?」
背後から声がした。
二人が振り返る。
そこに立っていたのは、白髪の男性だった。
年齢は六十代ほど。
落ち着いた服装で、胸にはフェスティバル関係者の名札をつけている。
「アルカディア号に興味があるのかね?」
美月が答える。
「はい。さっき船の写真を見て……」
男性は美月のカメラに目を向けた。
「写真が好きなのか?」
「はい」
「……そうか」
男性は少しだけ寂しそうに微笑んだ。
「なら、覚えておくといい」
「え?」
「写真というものは――」
男性は海を見た。
「残された人間が、過去を忘れないためのものだ。」
美月は、その言葉を静かに聞いていた。
すると男性は一枚の封筒を取り出した。
「君に渡しておこう」
「私に?」
「ああ」
美月が受け取る。
白い封筒。
表には、名前が書かれていた。
――美月へ。
「……どうして私の名前を?」
男性は答えなかった。
ただ、意味深に微笑む。
「今夜、月が昇ったら開けなさい」
「今夜……?」
「それまでは、誰にも見せてはいけない」
そう言い残すと、男性は人混みの中へ消えていった。
「待って!」
美月が呼び止めようとする。
しかし――
もう姿はなかった。
「……誰だったんだ?」
コナンが呟く。
「分からない……」
美月は封筒を見つめる。
そのとき。
封筒の裏に、小さな青い印があることに気づいた。
三日月のようなマーク。
その中央には――
小さな涙の形をした宝石の絵。
「これ……」
コナンの目が細くなる。
「蒼月の涙……?」
「え?」
「パンフレットに載ってたんだ」
コナンはページを開く。
そこには小さく説明が書かれていた。
『蒼月の涙――アルカディア号に積載されていたとされる伝説の宝石。現在、その所在は不明。』
美月は封筒を握りしめた。
すると――
遠くから、低い音が響いた。
――ゴォォォン……。
島全体に、鐘の音が響き渡る。
人々が一斉に空を見上げた。
夕暮れの空。
その向こうから、ゆっくりと月が姿を現し始めていた。
美月は封筒を見つめる。
まだ開けることはできない。
けれど――
彼女は知らなかった。
その封筒が、この島で始まる事件の――
最初の鍵になることを。
そして、海の遥か彼方。
誰もいないはずの海面に――
再び青い光が灯った。
まるで、月影アイランドへ向けて、
何かを知らせるように。
――第1章・終――
次章予告
第2章「月夜の招待状」
封筒に隠された秘密。
そして、美月たちの前に現れる「アルカディア号」の関係者。
五十年前の事件と、現在の月影アイランドが一本の線で結ばれていく――。
る あ 。
743
#イラスト投稿
鬼灯 哀雷⚔️🥀
3,827
361
コメント
3件
うわあ、なんだかすごく雰囲気のある第1章でしたね……! 夕暮れの海の描写から始まって、あの謎の男性から渡された封筒の「蒼月の涙」のマーク、そして海に浮かんだ青い光とか、もう全部が気になりすぎます。美月ちゃんの「どこかで見たことがある」って感覚も、これからどう繋がっていくんだろう……。続き、すごく楽しみにしてます🤍