テラーノベル
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花屋の少年が走り去り、ダフネはここぞとばかりにリリアンナへセレンとの〝大人の関係〟を匂わせる言葉を残した。
リリアンナの驚いた顔に、ダフネは内心満面の笑みを浮かべる。
嬉しさのあまり、周囲の気配がわずかに遠のいて感じられた、その直後――。
行きかう人々の喧騒を割り開くようにして、銀髪・長身の美丈夫が足早にこちらへ近づいてくるのが見えた。
言うまでもない。ランディリック・グラハム・ライオールだ。
リリアンナだけでなく、彼女のデビュタントのエスコート役として、眼前の男もまた、今日は王城へ出向くことになっているはず。
てっきり、彼自身もウールウォード邸内で忙しく支度に追われていると思っていたのに……こんなに早くリリアンナの不在に気付かれるなんて思わなかった。
「――何をしている」
リリアンナの背後から、低く、張り詰めた声が落ちる。
ダフネは、内心で小さく舌打ちした。
(……ホント、気付くのが早すぎなのよ!)
もっともっとリリアンナを傷つける言葉を重ねて、彼女の顔が曇っていく様を見たかったのに。
けれど、ダフネは驚いた素振りも、がっかりした表情も見せない。
あくまでも、〝なぜそんな風に咎める口調で話し掛けられないといけないのか分からない〟といった表情をして、ランディリックを見上げる。
「……ランディリックお義父さま」
過去にランディリック自身から拒絶されたその呼び方を、わざと選ぶ。
甘えを含ませ、親しげに。
「今日はお義父さまもリリアンナお姉さまの付き添い準備でお忙しいでしょうに……。お屋敷から出ていらしてよかったのですか?」
ランディリックは、答えない。
ただ一歩、リリアンナとの間に割り込むみたいにダフネの前へ進み出た。
その位置取りが、すべてだった。
――庇うように。
――遮るように。
リリアンナの視界から、ダフネの身体を隠す形になる立ち位置に、ダフネの胸の奥がぞくりと震えた。
(……あら)
思わず、口元が緩みそうになるのをこらえる。
てっきり、頭ごなしに叱責され、すぐさまこの場から突き放されるように排除されると思っていた。
ランディリックのことだから、自分のことなんて無視して、リリアンナの手を引き、屋敷内へ戻るだろう、と――。
でも、どうやら……そうではないらしい。
「ダフネ」
相変わらず自分の名を呼ぶ声は、低く、強い。
ダフネはあえてびくっと肩を震わせておびえるさまを演出した。
「ここへは来るなと言っておいただろう。何不自由ない対応はしていたはずなのに……どうしてペイン邸を出た?」
その言葉を、リリアンナは、恐らくランディリックのすぐ背後で聞いている。
ランディリックのせいで、リリアンナがどんな顔をしているのか見えないのが本当に残念だ。
だって、ランディリックは、一度もリリアンナの方を見なかったのだから。
良くは知らないけれど、きっと……今までリリアンナは彼からこんな扱いを受けたことはないはずだ。
ランディリックがリリアンナを溺愛していることは、聞こうと思わなくても色んなところから耳に入っていた。
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