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蝉の声。
暑い日差しに、麦わら帽。
青い青い空に、真っ白な入道雲。
夏休みになると、ここよりちょっと田舎の方にいる、おかあさんのおじいちゃんおばあちゃんちに泊まりに行く。
そこには、おかあさんの兄ちゃん家族がいっしょに住んでいて、おれよりふたつ下の子がくらしていた。
その子とは、ほんとに夏休みの間だけしか会わないけれど、なんだかみょうに気があって、いっつもいっしょにあそんでいた。
車でやく1時間半。
ばたんとドアをしめて、おじいちゃんおばあちゃんちの庭におりる。
すると、すぐさまげんかんの引き戸があいて、中からいきおいよく男の子がとびだして来た。
「はやと〜〜っ!」
おれとはちがって色白で、おおきな目に、さらさらの黒いかみ。
その子は、ぼくをみつけるとうれそうにわらって、ぴょんぴょんとはねまわった。
ぼくもうれしくなって、いっしょになってぴょんぴょんとびはねる。
それから、それから。
よくひえたラムネを、どっちが中身をへらさずうまくあけれるかはりあったり。
えんがわにすわって、スイカのたねとばしでしょうぶしたり。
虫かごを首からさげて、木から木へはしごしてカブトムシとクワガタを探してみたり(じんとは虫がちょっと苦手みたいだけど)。
山道へぼうけんにでて、こわれた車の中で見つけたエロ本に、ふたりできゃーきゃー言いあってみたり。
そんなことをして気づいたら、あっという間に太陽は山のむこうにしずんでいた。
うすぐらい、おたがいの顔もよく見えないなかを、大きな声でうたいながら、家まで帰る帰り道。
とつぜん、となりのじんとが大声を上げて立ち止まった。
「はやとはやとはやと!!」
ぼくはびっくりして、歩くのをやめて後ろのじんとをふり返る。
「どしたの?」
「みてみて!」
そう言われて、じんとが指さしている方に首をむける。じんとは、帰り道の先にあった小川の方をゆびさしていて、
「?」
そこをよぉくみてみると、小さなつぶみたいな光がぼんやりとともって、そしてまた消えた。
「「…ホタルだぁ!」」
ふたりして顔を見あわせてさけんで、全そく力で小川までかけよる。
まわりの草にくっついて、いくつもの小さなひかりが、ぴかぴかとゆっくり、ついたり消えたりをくり返す。
しばらくじっとながめていると、そっとゆびがのびてきて、近くにいたホタルをいっぴき、手のひらにとじこめた。
「じんと、ホタルはだいじょうぶなの?」
「うん。だってホタルは、かんだり、はさんだりしないでしょ」
なんでだかむねをはってそう言ったじんとは、そうっとつつむように両手でもったホタルを、おれの方に差し出してわらう。
「きれいだねぇ」
じんとのての中で、ぴかりぴかりと光るホタル。それを見つめるじんとの顔も、ぴかりぴかりとあかるく光っていた。
「また、来年の夏も見にこようね」
そうやって、またわらったきみの顔が。
なんだかホタルよりも、きらきら、かがやいて見えて。
おれはうんとうなずきながら、別のことを思ってた。
(…このまま、夏が終わんなきゃいいのに)
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