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「で?新しい男子、見た?」
昼休み
えとさんがチョコパンを手に、当然のように話を切り出した。
「見た見た!なんか…王子様系じゃなかった?」
のあさんがペットボトルのフタを開けながら言った。
「うん。制服の着こなしがすでにちょっと違った」
「え、それ褒めてる?」
ひと笑いが起きる
「てか、えとさん」
うりがお菓子の袋を持ったまま、唐突に言った。
「新しい男子が来たからって、浮気すんなよ」
「は?誰と付き合ってもいないけど?」
「え?じゃあおれと?」
「それはもっとない」
「俺もいま傷ついたんだけど」
じゃっぴが口をとがらせると、ゆあんくんが静かに笑った。
「うり、たまに変な方向にツッコむからなー」
「でもあれだなー、転校生ってだけでモテるのズルくない?」
うりがそうぼやくと、えとさんが笑いながら小声で言った。
「ちょっとわかる、それ」
そのとき、風がふわっと吹いて、えとの髪が揺れた。
「あ、髪にチョコついてる」
のあさんがそっと指先で拭う。
「パン、口にチョコついてたよ」
「ありがとー、ってえ?マジで!?恥ずかし…」
手でほっぺをおさえて慌てるえとさんを見て、
うりがわざと真顔で言う。
「……なんか、そういうの、可愛いな」
一瞬だけ空気が止まる。
「……なーんちゃって!」
すぐにふざけたように笑ううりに、じゃっぴがペットボトルのキャップ投げた。
「なに急に決め台詞みたいなこと言ってんの」
「いや、空気がキマってたからさ」
「うりってたまに、えとさんのこと本気で褒めてるよね」
ゆあんくんがぽつりとつぶやいた。
「そりゃそうでしょ。えとさんは……」
のあさんが言いかけたその時。
「失礼します」
教室のドアが開いて、朝に見かけたあの男子が入ってきた。
静かに、だけど自然な感じで。
「あ、新しい子……」
ざわっと教室の空気が揺れる。
「ひろです。よろしくお願いします」
その声は、無駄な飾り気がなくて、でもなぜか耳に残るような感じだった。
「ひろくん、席あそこね〜」
先生に案内されて、えとさんたちの列の、少し前の席に座った。
「なんか、あの人……」
えとさんがぽつりとつぶやく。
「……えとさん、見すぎじゃない?」
うりが少しムッとした声で言う。
「見てないし。たまたま視界に入っただけ」
「はいはい、たまたま、ね」
じゃっぴがにやにやしながら、チョコパンの袋をつまむ。
「えとさんは、なんか…すぐ誰かに好かれるよね」
ゆあんくんが呟くように言った。
声は小さかったけど、ちゃんと聞こえた。
そのあと、窓の外にふわっと春風が吹いた。