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梅は、静かに顔を上げた。そして、はっきりと言った。
「……ひとつ、手がございます」
氏康と氏政が同時に顔を見合わせる。
「上杉様を……お動かしするのです」
一瞬、間が空いた。
「……え?」
氏政が思わず声を漏らす。
氏康も眉をひそめる。
「無理じゃ。あの上杉が、そう簡単に動くものか」
梅は一歩も引かなかった。
「いいえ」
静かな声。
「私が、手紙を送ります」
その言葉に、空気が変わる。
「父上は、今まであまりにも多くの罪を重ねてまいりました」
梅はゆっくりと言葉を紡ぐ。
「実の父を追放し、妹の嫁ぎ先を欺き討ち、その娘を側室に迎え入れ……」
一つ一つ、事実だけを淡々と並べる。
「信濃へも兵を進め、ついには今川へも手を伸ばした」
氏康の目が鋭くなる。
氏政は拳を握ったまま動かない。
梅は続けた。
一歩、踏み出す。
「小笠原様や村上様へも」
その声には、迷いがなかった。
「“領地はお返しする”と」
「この梅が、父上の
してきた悪事代わりに頭を下げます」
広間が静まり返る。
「そして……信濃出兵の口実を、こちらで整えます」
氏康は腕を組み、しばし黙した。
やがて、低く言う。
「……悪くはないが」
視線を梅に向ける。
「押しが、足りぬのぉ」
その言葉には、責めではなく算段の響きがあった。
「……いっそのこと」
ゆっくりと口を開く。
「山内上杉家に、関東管領の職も」
場の空気が一段、張り詰める。
「領地も、正式に返すか」
氏政が思わず顔を上げる。
氏康は続けた。
「今までのことも、こちらから詫びる」
「そのうえで義を立てる」
一拍置いて、はっきりと言い切る。
「それが一番、筋が通ろう」
氏政は、静かに顔を上げた。
その瞳には、先ほどまでの怒りとは違う、固い決意が宿っていた。
「……それがよいと思います」
はっきりとした声。
「妻を泣かせた者を、そのままにしておけませぬ」
一歩、踏み出す。
「領地も、関東のことも……惜しくはございませぬ」
広間に静寂が落ちる。
「皆の者」
周囲を見渡し、ゆっくりと言った。
「どう思うか、意見を申せ」
その声は、若き当主としての覚悟そのものだった。
「おお若様……!」
「今まで頼りないと思っておりましたが……!」
「これは……覚醒なされたか……!!」
「おお……若様ァ……😭」
ざわざわと広間が揺れる。
「これは……我らの主君ぞ……!」
「ようやく、ようやくお覚悟を……!」