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そして、上杉に一通の文が届いた。輝虎はそれを開き、目を見開く。
「おのれ信玄……!」
握りつぶさんばかりに文を握る。
「実の息子すら、死に追いやるとは……!」
怒気が一気に膨れ上がる。
しかし、その中に別の感情が混じった。
「……それに比べて、あの娘殿はよくできておる」
思わず天を仰ぐ。
「村上殿、小笠原殿……聞きましたか」
声が一段上がる。
「土地の返還まで約束したそうではないか!」
そして、にやりと笑う。
「……信濃出兵の大きな口実が、手に入ったのですぞ」
そこへ、小姓が進み出る。
「……申し上げます」
深く頭を下げる。
「北条の御親子にて、拝謁を望まれております」
一拍置いて、続ける。
「実際に、直に申し上げたい儀があるとのことにございます」
氏康と氏政は、揃って深く頭を下げた。
「今までの山内上杉家への御無礼……」
氏康が静かに口を開く。
「こちらにも事情はあったとはいえ、誠に申し訳ございませぬ」
続いて氏政が言葉を継ぐ。
「勝手に名乗っておりました関東管領の役職」
「そして、これまで占拠しておりました土地の一切」
「すべて、お返しいたします」
一瞬、間が落ちる。
氏政は拳を握りしめ、顔を上げた。
「……どうか」
声が震えるが、目は逸らさない。
「義の力を、お貸しくだされ」
そして、はっきりと言い切る。
「我が嫁を 泣かせたことを……後悔させてやりたいのです
輝虎は静かに目を細めた。
「わかりもうした」
ゆっくりと頷く。
「過去の過ちを認め、妻への義を貫くその姿勢……感服いたした」
一拍置き、口元にわずかな笑みを浮かべる。
「こちらとしても、大義名分ができた。悪い話ではない」
そして軽く肩をすくめる。
「……約定、痛みは伴いましょうがな」
その場にいた小笠原・村上の両名も、顔を見合わせた。
「北条の梅……信玄の娘と聞き、鬼畜の類かと勝手に思っておりましたが」
低く、恥じるように言う。
「ここまで義を貫き、父の所業すら恥と申すとは……」
村上が続ける。
「我らもまた、浅慮であったやもしれませぬ……深く反省いたしまする」
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