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吹奏楽部死亡しました(僕)꒰ঌ .°(*´˘`*)°. ໒꒱
スタジオの長い一日が終わりかけていた。
外はもう薄暗い。
スタッフが別室で片付けをしていて、楽器のケースを運ぶ音がかすかに聞こえる。
若井は、自分のギターを片付け終わってから、
なんとなく藤澤が座っていたソファに目をやった。
(……いねぇな。)
ついさっきまで、あそこにいた。
少し長い前髪を耳にかけて、スマホをいじりながら微笑んでいた。
藤澤は帰ったんだろう。
荷物もほとんど持って行った。
でも――
若井の視線が、ソファの脇に転がるバッグを捉えた。
藤澤の、だ。
シンプルな黒。
持ち手が少し擦れている。
心臓が、ドクンと鳴った。
誰もいないスタジオ室内。
ドアは閉まっている。
若井はゆっくりと歩み寄り、手を伸ばした。
躊躇しながら、でも指先が勝手に動く。
バッグのファスナーをゆっくり開けた。
中から、小型の銀色のフルートケースが覗いた。
「あ……。」
藤澤がいつも「庶幾の唄」で吹くあのフルートだ。
本番前に手入れする姿を、何度も見てきた。
口に当てて試し吹きする、その柔らかい唇。
拭き布でそっと磨く繊細な指。
(犯したくなるくらい、綺麗で……。)
若井は奥歯を噛み締めた。
手が震えた。
フルートケースをそっと開ける。
銀色のボディが静かに光った。
まだ残っている他のスタッフは、スタジオの向こうの別室にいる。
声を出したら、聞こえるかもしれない。
若井は部屋の鍵をゆっくり回した。
カチリ。
誰も入れない。
息が熱くなる。
「……涼ちゃん……。」
フルートを両手で持ち上げる。
金属の冷たさが伝わる。
藤澤が口を当てて吹いた、あの部分。
何度もリハで触れて、湿ったその跡を見てきた。
ゆっくり唇を近づけた。
そして、舌を出して、
金属の部分を舐めた。
「……ん……。」
金属の味。
冷たさ。
でも、藤澤の唇の記憶を孕んでいる。
舌を這わせる。
金属に唾液が残る。
拭き取りもせずに、貪るように舐める。
「……っ、涼ちゃん……。」
声が漏れた。
慌てて口を噛んで、息を殺す。
鼓膜が自分の吐息で痛いほど膨れる。
スタジオ内に、自分の荒い呼吸だけが反響する。
(やべえ……こんなの、俺……。)
罪悪感を抱く。
このままじゃ、止められなくなる。
そう思った若井は、フルートから唇を離す。
そして、若井の視界の端。
スタジオの奥に置かれたキーボードを捉えた。
藤澤がいつも座って弾いている。
ライブでの藤澤。
汗を滴らせながら、キーボードを弾く横顔。
首筋に汗を垂らして、前髪をかき上げて、
妖艶で、観客を飲み込むのに、たまに笑顔が無防備で。
「……涼ちゃん。」
名前を呼んだ声が、静かなスタジオに反響する。
ゾクリと背筋を這った。
ゆっくりと歩み寄った。
キーボードの前に立つ。
鍵盤は薄暗い照明を反射して白黒に光った。
藤澤の指のあとが見える気がした。
(指、綺麗なんだよな。
長くて、器用で。
でも練習しすぎて赤くなる時もあって。)
若井はゆっくりと椅子に腰を落とした。
キーボードと向き合うよう座り込む。
鍵盤にそっと指を這わせる。
藤澤の指を思い出すように。
喉が鳴った。
呼吸が荒くなる。
頭の中に浮かぶ藤澤は、ステージの上じゃなく、 自分の上で喘ぐ藤澤だった。
「お前、ずりぃよ……。 そんな顔すんなよ……。」
全部が脳裏を焼く。
愛おしい。
汚したい。
めちゃくちゃにしたい。
もう我慢できなかった。
自分の下腹部に触れる。
熱い。
すぐに硬くなる。
ズボンを乱暴に下ろす。
冷たい空気が肌に触れた瞬間、吐息が漏れた。
「っ……は……涼ちゃん……。」
誰もいない。
もう声を抑える必要なんてない。
手で扱く動きと共に、自然と腰が前後に動く。
舌を出して鍵盤を舐めた。
冷たいプラスチックが唾液で濡れる。
そこに顔を擦り付けて、荒い息を吐いた。
「っ、ああ……好きだ、涼ちゃん……。」
もう片手で自分を扱き上げる。
ぬるい音が響く。
指先が痙攣する。
腰が勝手に跳ねる。
「やべ、あ……、声、出る……っ。」
でも止めない。
むしろ声を吐き出したくて、喉を開いた。
「っ……涼ちゃん……、欲しい……。
お前、俺の、俺だけの……!」
叫ぶように吐いた声が、コンクリートの壁にぶつかって返ってくる。
自分の声が自分を責め立てる。
それすら興奮する。
「っ、あ……、は、あ……っ、もっと……!」
手が速くなる。
腰も止まらない。
下品な音が混じる。
キーボードを撫でて、舐めて、喘ぎ声を垂れ流す。
若井は立ち上がり、 藤澤の手がいつも置かれていたその場所に、自分の熱を擦り付けていく。
背中が反る。
視界が白くなる。
指先が震える。
熱が沸騰する。
「っ、あああ……っ!」
絶頂が、声と一緒に弾けた。
下腹部から噴き出す。
鍵盤に飛び散る白濁。
息を吸うのも苦しくなるくらい、喉がヒクつく。
「……は、あ、ああ……っ。」
呼吸が落ち着かない。
視界が涙で滲む。
腰を揺らしたまま、鍵盤に額を押し付けた。
「……ごめん、涼ちゃん……。」
でも謝っても、また欲しくなるって知ってた。
愛おしい。
可愛い。
そして、どうしようもなく汚したい。
「好きだよ……。」
静かなスタジオに、まだ自分の荒い吐息が響いていた。
鍵盤にかかった自分の跡を指先で撫で、熱く息を吐いた。