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そこからの茶糖家攻略組、砕いて言えば女性陣の掌(てのひら)返しは物凄い勢いであった。

先程まで全否定していた超大型竜を褒めちぎり続けたのである、同時にしらばっくれる事も忘れていなかったのだ、必死であった。


具体的には、反射的に発せられたリエの言葉が切欠(きっかけ)である。


「んんん? アジ・ダハーカ? って、あの中天を雄々しく舞う美しい竜でしょぉ? アタシ達が言ってんのはその美しく立派な竜王の事じゃなくて、あそこで地面を這っている汚らしい邪竜の事なんだけどぉ? スカンダぁ、いつも間違えた事が無いお地蔵さんの癖に、今回は随分的外れな事言うんだねぇ? ほらほら、目を凝らしてみなさいよぉ! あの下っ端たちの真ん中にサーペントが居るでしょう? あれを気持ち悪いって言った訳よ! 判るでしょ?」


スカンダは目を凝らしつつ言った。


「ど、どこかな? リエちゃ、私には見つけられないのですが?」


リエは畳み掛けた。


「なんだっ! 駄目ねぇ! 見えてもいないのに憶測だけで言っていたんだねぇ! どう? どう思うリョウちゃん? この子の事ぉ?」


リョウコは我が意を得たり、そんな感じで答えるのであった。


「そうだねぇー、アタシもねぇー、地面で蠢いている汚らしくて気持ち悪い緑と金の蛇? は見つけられたんだけどねぇー? 他になんかいたのぉ? んん、んんん! ああぁっ! 本当だあぁ! そ、空に立派なドラゴンがぁ、い、いるじゃないのおぉぉ! あ、あれはきっと、そうねえぇ、恐らく神様レベルのドラゴンよねぇー! 神々しいわぁー、シェンロンよシェンロンー、願いは何にしようかしらあぁー?」


見た目は二十歳(はたち)前後だが中身は九十オーバーのトシ子はシェンロンの意味に見当が付かないらしく首を傾げている。

しかしまあ、リエとリョウコの誤魔化しで効果は十分であった。


ガックリと肩を落として落ち込んでいたアジ・ダハーカはパッと顔を上げ、同時に地面に垂れ下がっていた両肩の蛇頭も笑顔満面で持ち上げられ、ウネウネと踊る様に蠢くのであった。


アジ・ダハーカが復活したと判断してコユキが話し掛けた。


「分身の一体を邪竜形態にして平原中に屯(たむろ)している悪魔達を一掃しようって訳ね、にしてもいつもは八体まで分身出してたわよね? 今回は一体だけなのん?」


自信を回復し切れていないアジ・ダハーカに代わってシヴァが答える。


「コユキ様、この状態のアジ・ダハーカはザッハーク形態、所謂(いわゆる)、竜人や蛇人と言った所でまあ普通にコミュニケーションが取れるんですよ、そこから更に原初の形に戻ったのがあそこで飛行中の邪竜形態なんです、ああなっちゃうと敵を殲滅するまでは一切の意思疎通が出来ません、もうまんま邪竜ですね、んで暫く敵からの攻撃がない時間が続くとザッハークに戻ると…… その後の事を考えて一体、多くても二体までしか分身は産み出さないんですよ」


コユキは頭の上にハテナを浮かべながら聞く。


「んん? どう言う事よ? その後の事って何なの?」


今度はパズスがシヴァに代わって話始めた。


「ザッハークから生み出された分身体は、文字通りの意味で完璧なコピーなんですよ、戦闘力は勿論、アジ・ダハーカが持つ千のスキル、のみならず性格や自我、アイデンティティから生存本能まで完全に複製されるのです、まあ我々兄弟から見ても寸分の違いないアジ・ダハーカなわけでして……」


「ふーん、そうなんだ、んでそれがなんだって言うのよ? 問題がある様には感じられないけど?」


話し手がシヴァに戻って答える。


「だからさ、どっちも同じ事を考える訳だよ、俺こそが本体、複製は消えろってさ、んで複数のアジ・ダハーカで殺し合う訳だ、毎回ね! 昔四体で争った時はペルシアの殆(ほとん)どが壊滅してヒッタイトが消滅したんだ、人間達は海の民とか言って現実逃避していたけどな…… それ以来久しぶりに見たからさ、最初わが目を疑ったよ、マジで驚いた」


「なに、心配しなくて良いぞシヴァ、コユキ様も! 今回は一体きりですし、あっと言う間にこのモノホンがあの分身を退治して見せます故、ヌフフ、とくとご覧あれ!」


コユキは思った。


――――これってあっちで飛んでる巨大なアジも全く同じように考えちゃってるって事よね? ややこしいわね、どっちを応援すれば良いのやら、困ったわ……


パズスがコユキにしか聞こえないような声で囁いた。


「大丈夫ですよ、どちらが残っても同じですから、我々はもう考えない様にしています」


「あ、そ、そうね、アタシもそうするわ…… どっちも同じ蛇、どっちも同じ蛇……」


そんな会話を交わした直後であった。


アンィギャーアァー!


耳をつんざかんばかりの咆哮を響かせた巨大な邪竜、アジ・ダハーカは三つの口から燃え盛る火球と猛毒の霧、凍てつく氷雪を吐き出しながら平原の上を激しく飛び回り始めた。

周囲に現れた暗雲からは、幾条もの稲妻が平原のそこかしこに落ち続けて居る。


蛇やトカゲの悪魔達の物だろう、間断なく上げられる断末魔の叫びが聞く者の耳と精神を汚す、まさに阿鼻叫喚の地獄絵図が展開されていたのだ。


いつも豪気なコユキであっても、大量でしかも隙間なく届けられる死の声に、蹲(うずくま)って目を瞑り、両の手で確りと耳を塞いでしまうのであった。

のみならず、塞いだ手を高速で浮かせては閉じ、浮かせては閉じを繰り返しつつ、アーアーと叫び続ける事で一切の音を拒むコユキであった。

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