テラーノベル
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久しぶりのゲリラ豪雨に見舞われたその日、まるで濡れ鼠のような阿部ちゃんが玄関に現れた。
「気象予報士なのに、傘持ってなかったのかよ」
「折りたたみ入れてたんだけど、この雨で折れちゃって」
そう言って苦笑いする。
外は暴風雨で横殴りの雨。傘があったとしてもこうなる事は防げなかっただろう。
用事で外出していたけど、この雨で一番に思いついた避難先が俺の家だったらしい。
「スケジュール見た時に、今日は家にいるんだなって覚えてて」
「よく覚えてんね」
俺は人のスケジュールまで覚えてねぇわ、と笑いながらひとまずタオルを持ってきて、さらに玄関で服も脱がせた。
「部屋着なんか貸してやるよ、あ、パンツも新品あるし」
冗談混じりに言ったけど、マジでパンツまでずぶ濡れだった。
さすがにそれはどこかで着替えさせて、と言うから靴下も脱いでパンツ1枚の阿部ちゃんに着替え一式を持たせて洗面所に案内した。
濡れてずっしりした服を洗濯してやろうと回収していたら、ズボンのポケットに何か入ったままになっているのに気づく。
取り出すと、小さいケース。どう見ても大切な時に渡す指輪が入ってそうなケース。
なんか見てはいけないものを見てしまったんじゃないだろうか、とか考えて急に心臓がバクバク鳴ってそっと元に戻す。
実は彼女がいて用意してたのかな、まさかプロポーズ?阿部ちゃん隠すのうまいからなぁ。
阿部ちゃんが洗面所から出てきたので、いかにも今服をかき集めましたよみたいな顔でかごに入れて立ち上がる。
「これ、洗っとくわ」
「え?あ、ちょっと待って」
阿部ちゃんはズボンのポケットを探り、あんなに気まずかった俺の気持ちなんて知る由もなく箱を取り出した。
「んな、何?それ」
全く誤魔化せてないけど一応何も知らないような顔をして聞くと、阿部ちゃんは俺の前に跪いて箱を開けた。
中には一粒ダイヤのリング。
「佐久間はいつもアクセサリー大きいの着けてるけど、さすがに見当たらなくて」
「え?え??」
「佐久間、誕生日おめでとう。ずっと好きでした。俺と付き合ってください」
体感、5分くらい黙ってたかも知れない。
ふと我に返ると、阿部ちゃんが首を傾げて上目遣いにこっちを見て反応を窺っていた。
「はっ、あ、あの」
「…だめ?」
だめ?って何だ、そんなふうに言われて断れるか。
「その、それ、エンゲージリングじゃ」
「さすがにないよ。ふふっ」
その言葉に少し肩の荷が降りたけど、俺は今告白されているので返事をしないといけない。
「え、えーと、じゃあ友だちから…」
「俺たち、友だちじゃなかったの?」
「あ、そうだよな、俺何言ってんだろな、にゃはは…」
「佐久間、俺本気だよ?」
「う…」
茶化そうと思ったつもりはないのにまともな返事ができない。
あれ?俺阿部ちゃんの事どう思ってたんだっけ?共通点ゼロの……両思い???いやそれはただのキャッチコピーだ。でもなんかもうずっと前から阿部ちゃんが心のどこかにいた気がする。ん?そんな事過去に思ってた事あったっけ?あるようなないような。
色々一人で考えを巡らせている間に、阿部ちゃんが立ち上がっていて髪にキスされた。
「んあ!?」
「すぐじゃなくていいよ。答え、待ってるからね?」
阿部ちゃんは流し目でそう言って微笑むと、勝手に俺のサンダルを履いて『お邪魔しました』と帰っていった。
え、雨は?と思ったのと同時に部屋に光が差し込む。
豪雨が過ぎ、外はすっかり晴れていた。
いつの間にか握られていた手を開くと、そこにはさっきの指輪の箱。
「…こんなん、意識するしかねーじゃん」
後日俺は阿部ちゃんと付き合う事になるんだけど、あの日の出来事があまりにセンセーショナルでうまく出来すぎていたから、実は何なら指輪を見つけさせるところまで含めて全て計算ずくだったのかと思ったら、本当に全部が全部偶然だったらしい。
「俺そんな計算高いように見えるの?」
「そうじゃないけど…」
「折りたたみ、まだ買えてないんだ。今度一緒に見に行こう?」
「ハイ…」
友だちの時はだいたい俺がリードしてた気がするのに、今はすっかり阿部ちゃんのペースに乗せられている。
終
コメント
8件
💚🩷💚って関係性が超好きですー🥹💓 あべちゃんに振り回されるさっくんも、紳士的なようで押し強いあべちゃんも全部ツボです😍
あべさくってどっちが上でも良いよさあるよね
あら素敵✨✨ 良さが詰まりまくってるわぁ💚🩷💚