「なんか変だ……」
『山のキャンプ』から帰ってから、友也の様子がおかしい。
残業と出張が増えたし、休日出勤まである。
「プロジェクトのリーダーに選出された。チャンスなんだ」
同期が先に出世して、友也は肩身が狭かった。
だが、企画が成功したら〈主任〉から〈係長〉に昇進できる。
「この機会を逃さない!」と張り切っている。
に、しても……?
「残業と出張が多すぎない? そんなに仕事ばっかりする?」
友也は今夜も大阪出張だ。帰るのは明後日になるという。
「あ、忘れてた。封書が届いてたわ」
恵子が、沙耶に封筒を渡した。
クレジットカード会社からの請求書だ。
「え??? うそ!?」
かなりの高額請求だった。
「ホテル! レストラン!」
新幹線のチケットも買ったようだ。
沙耶と友也は、それぞれ銀行口座を持っている。
ローンや生活費は折半で、残りは自己管理だ。
「こんなに使って。しかもホテルにレストラン?」
疑うのは『浮気』のみだ。
特出して高額な日がある。この日は……、
「あ、キャンプに行った日、じゃない」
沙耶は2階に駆け上がった。
美奈の部屋、といっても、元は 沙耶と友也の寝室をノックする。
「お義姉さん、お姉義さん」
「なんなの、うるさいわねぇ」
ドアを開けた美奈は、顔に〈美容パック〉をしていた。
表情が判らない。
「山のキャンプって、こんなに高いんですか?」
紗耶は美奈に請求書を見せた。
「あ~。だって、ホテルに泊まったもの」
「テントに泊まったんでしょ?」
「泊まったわよ。友也と彩ちゃんは」
「え?????」
「私と翔太はホテルの部屋。友也と彩ちゃんはテントで寝たの」
美奈はケラケラ笑いながら言葉を続けた。
「だって、二人の邪魔しちゃ悪いでしょ。翔太の教育にも悪いし」
沙耶は混乱しながらも「彩ちゃん」を思い出す。
そうだ〈友也の元カノ〉の名前だ。
美奈が初めて新居に来たとき、食事をしながら話していた。
『友也が結婚するって聞いたとき、彩ちゃんと思ったわ』
『5、6年前でしょ。実は二股してたんじゃない?』
そんな、そんな、どういうこと?
二人はテントで、一緒に寝た???
「ところで、友也は今夜も出張? 本当はテントじゃない? 彩ちゃんと」
絶句する沙耶を一瞥した美奈は、 バタン! と部屋のドアを閉めた。