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 「……バカかよ」
 土砂降りの午前中。

 メリーが『傘もってきてー☂』とラインを送ってきたから、この大雨の中、わざわざ公園まで足を運んだ。脛やふくらはぎを伝ってブーツに流れ込んだ雨水が、歩くたびにぐにっと滲む。それを不快に思いながら、ここまで歩いてきたのだけど。


 「わーっ! 待って待って〜!」


 あろうことか。メリーはこの雨の中で、ウサギと追いかけっこしていた。

 ウサギは雨合羽を着ているが、メリーは普通の服のままだ。髪も肌もびしょ濡れ。にも関わらず、楽しそうに走り回っている。


 「……いや」


 ──バカかよ。

 そういうのは、晴れてる時にやれよ。

 楽しそうに遊ぶ姿に、一瞬でも和みそうになった私はなんなんだ。明らかにおかしい。

 気を取り直して、私は二人に歩み寄った。

 「……メリー!」

 私が怒りを込めて名前を呼ぶと、メリーはこっちに気づいたらしい。濡れた髪を翻して、こっちに走ってきた。

 「あ、ナイマ」

 ──あ、ナイマ。じゃねーよ。

 「おーまーえーはー! 人のことわざわざ呼び付けといて、随分楽しそうだな!?」

 「ご、ごめんごめん……」

 メリーは申し訳なさそうに苦笑いして、両手を振る。鬼ごっこの終わりを悟ったのか、ウサギもぽてぽてと駆け寄ってきた。

 メリーは、風呂かプールにでも入ったのかってくらい濡れている。服が透ける素材じゃないからまだいいのだが、このまま放っておいたら確実に風邪を引きそうだ。

 私は彼女の手を引っ張って、大きな滑り台の下に避難した。傘を閉じて、近くの柱に立てかける。

 「ったく……小学生かっ!」

 私は持っていたカバンから、水色のバスタオルを取り出して、メリーの頭に被せた。バスタオルは流石に大きいかと悩んでいたが、杞憂だった。

 布越しにメリーの頭を挟んで、ごしごしと水分を拭き取る。

 「ちょ、痛い痛いっ」

 「うっせぇ」

 メリーの悲鳴を無視して、摩擦で彼女の頭部を攻撃した。

 「も、もう〜っ! 自分でやるってば!」

 メリーがタオルの裾を握ったのを確認して、私は攻撃を止めた。

 彼女についてきたウサギが、首をかしげてこっちを見ている。純粋な視線になんだか気まずくなって、目を逸らした。

 カバンに入れていた折り畳み傘を取り出して、メリーに使わせていたバスタオルと交換する。濡れたタオルを持ってきていたビニール袋に入れて、それをカバンにしまった。

 「……お前、帰ったら風呂入れよな…………」

 「わかってるよ〜……」

 私の小言に、メリーは服の水分を絞りながら答えた。

 「ったく……行くよ」

 「うん」

 メリーは折り畳み傘のテープを外して、傘を開こうと──


 「……ナイマ」

 「えっ」

 メリーは傘を開こうとしているが、開く気配がない。

 「あの、この傘……壊れてません…………?」

 「……」

 私はメリーから傘をひったくり、開こうと試みた。しかし、開くための金具が途中で引っかかり、全くと言っていいほど開かない。

 つまり私は、壊れて使い物にならない傘をわざわざ持ってきた、ということになる。

 「はぁ〜〜…………」

 「ま、まあまあ」

 クソデカ溜息を吐いた私の肩を、メリーが優しく叩いた。

 「ナイマの傘あるし! 相合傘でいいじゃない!」

 「いいけどさぁ……」

 凡ミスをやらかした自分に呆れて、ただでさえ低かったテンションがさらに下がった。壊れていた折り畳み傘を、そっとカバンにしまう。

 「ほら、帰ろ帰ろ! 私が風邪ひいちゃう!」

 「それは自業自得」

 「い、いいから帰ろ〜!」

 メリーに押されて、持ってきた傘を差した。付着していた水滴が、ポタポタと滴る。

 右隣の傘の隙間に、メリーがすっぽり収まった。


 彼女の濡れた左手が、私の右手にまとわりついた。

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