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「ね、キスしよ」
布団に潜り込んできたメリーが、いきなりそんなことを言ってきた。
力の強い手がシーツを滑り、アタシの右手を握る。
「……は? キス?」
「うん」
「……………………腹でも減った?」
「いや、魚の鱚じゃなくて……」
メリーは唇を尖らせながら、アタシに覆い被さってきた。
空色の髪がぱらぱらと、純白のシーツの上に散らばる。
「こう……唇と唇をくっつける、アレです」
「……はあ」
目から入ってくる情報だけ見れば、そこそこロマンチックな光景なのだが──メリーがうきうきした声で話すせいで、修学旅行での恋バナみたいになっている。
何て答えるべきか判らなくてしばらく見つめ合っていると、メリーは首を傾げた。
「……イヤかな?」
「イヤではないけど……」
とりあえず自分の前髪を掻き上げて、視界に映る範囲から追い出す。ようやく実感が湧いてきて、少し顔が熱くなってきた。
メリーの綺麗な青い瞳から、そっと目を逸らす。
「ちょっと……心の準備するから、待って…………」
そんな、少女漫画にありそうな台詞を言ってしまった。握られていない左手で、緩む口元を隠す。
少し、少しだけ深呼吸を──
「ダメ」
「え、」
ちょっと息を吸った所でメリーの声がして、思わずそちらを向くと、そっと唇を塞がれた。
メリーの唇で。
脳ではなく神経で理解した。
「ん、ん…………」
しっとりと、そしてもちもちした感触にぎゅっと目を瞑る。
寝る前に飲んでいた紅茶の香りが、鼻をすり抜けていった。なんだっけ、バタフライピーだっけ。メリーの髪から、いい匂いが漂っていた。
しばらく時間が止まったような感覚に陥り、頭がぼんやりしてきた。でもやっぱり錯覚で、時計の秒針がかちかちと時を刻んでいる。
「……ふぅ」
唇が離れたので、目を開く。メリーの顔がすぐ近くに──舌を伸ばせば届く距離にあった。
「お前さぁ……」
「ん? なに?」
キスしたことに対する照れが時間差で押し寄せてきて、左手で彼女の額を押して離した。
「あう、」
「なにじゃねーんだよ、ったく……」
「だ、だって……」
左手首を掴まれ、ベッドに縫い付けられた。
「ナイマ、心の準備が〜とか言ってそのまま流しそうだったんだもん……」
「いや、流さねーけど……」
「ほんとに?」
「……うん」
話しながらメリーがまた顔を近付けてくるので、圧されるように声が小さくなっていった。
「じゃあ……もう一回しようか?」
ニヤニヤしながら、そう返されて──これを拒否したら、さっきの言葉が矛盾することに気付く。やられた。
諦めて、握られた手を握り返して……目を閉じる。
「…………好きにして」
抵抗の選択肢を奪われたアタシは、一晩中メリーに身を任せた。