オレはここにいるのに。
まだ透子をこんなにも想ってるのに。
すると・・・。
「樹・・・」
そう静かに呟いて、涙を零す透子。
え・・・?
泣いてる・・?
オレ・・の名前今呼んだよな?
「えっ? 気付いてる!?」
いきなりの透子の反応に動揺してしまう。
「いや、大丈夫。透子、多分夢見てるんだと思う」
「オレの・・・夢・・・?」
「多分ね」
美咲さんにそう言われて、また落ち着きを取り戻して、透子を見つめる。
透子?
今オレの夢見てるの?
オレのこと考えて涙流してくれてるの?
オレの前で一度もそんな姿見せずにいたのに。
別れる時もオレの前では決して涙を見せずに明るくサヨナラしていたのに。
そんなにオレのことをまだ今も想ってくれているの?
そんな透子の姿を見て、今まで感じたことないまた切なさで胸が痛くなる。
「透子・・。ごめんな。もうすぐ透子迎えに行くから」
そう言いながらまたそっと頭を撫でる。
ごめん透子。
今まで寂しい想いさせて。
今までこんなに辛い想いさせて。
一人で頑張ってくれてありがとう。
こんなにも胸が痛くなって、愛しく想うのはオレにとって、透子ただ一人だけだから。
「樹・・・好き・・」
静かに聞こえた透子の声。
愛しくて、苦しくて、切なくて、嬉しくて・・・。
こんなにも透子がオレを想ってくれてるのが幸せすぎて。
「透子・・・オレも・・・透子が好き」
眠っている透子に気付かれないように、そっと呟く。
だけど、夢の中ではせめてこの想いが透子に届くように。
こんなにも想っているオレの気持ちが届くように。
今は直接言えないけど、せめて夢の中では透子が幸せになってくれているように。
透子。もうすぐだから。
もうすぐ透子を迎えに行くから。
だから、あと少し。
あと少ししたら透子を幸せにするから・・・。
「透子。このままでも大丈夫ですか?」
「大丈夫。このまま寝させといて。店終わったら連れて帰るからさ」
「お願いします」
ホントならこのまま連れて帰りたいけど、でもまぁ今は美咲さんに任せるしかない。
「美咲さん。もう少ししたら、ちゃんと透子迎えに行きます」
「もう準備出来たのね?」
「はい。もう大丈夫です」
「そう。じゃあ頼むね」
「はい」
ようやく透子にもすべて伝える準備が整ったから。
ここまで時間はかかってしまったけど、もう一人でこんな悲しい想いは二度とさせないから。
オレ達が離れていた時間は、ちゃんと意味があったってこと。
もうすぐ証明してみせるから。
やっと迎えに行くから。
オレはまだ気持ち良さそうに眠っている透子を見つめながら、そのまま店を後にする。
久しぶりに会った透子とは、話も出来ず、その目に映してもらうこともなかったけど。
だけど、まだ今もオレを想ってくれているのがわかって、夢の中でもオレを想ってくれていることを知って胸を撫で下ろす。
オレ達が会わない間に、きっとお互い変わってしまったこともあるのかもしれない。
伝えたくても伝えられないことが、まだたくさんあるかもしれない。
もしかしたら、それは後悔してしまうことも多いのかもしれないけど。
だけど、一つだけ離れてよかったと思えること。
オレがいない時には、あんなにも透子は素直で、離れてる今でもオレをあんなにも想ってくれているのがわかったということ。
二人でいる時は、いくらオレが気持ちを伝えても、照れてなかなか素直な気持ちを見せてくれなくて。
だけど、夢の中のオレには、あんなにも素直に好きだと伝えてる。
夢の中の透子は、どんな風にオレにその言葉を伝えてくれたのだろう。
どんな表情をしてオレにその気持ちを伝えてくれたのだろう。
だから、夢の中のオレに少し嫉妬する。
あんな透子を独り占め出来て。
なんて、考えても仕方ない夢みたいなこと考える程、やっぱりオレはこんなにも透子を好きすぎるみたいだ。
だけど、きっとそんな透子をいつか見れるって信じてる。
いつか本当にそんな風に言ってくれるのを願ってる。
きっと、それもあと少し・・・。
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