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第十六章 檻の中へ
〝目黒〟
そう書かれたプレート。
冷たい扉の前で立ち竦む。
左手に持った紙袋に、自然と力が籠る。
拳を振り上げては、腕を下ろした。
妙に緊張する。
ふっと短く息を吐くと、突然開いた扉に鼻をぶつけた。
翔太💙「痛っ」
蓮 🖤「どこまで鈍臭いんだ。何してんだそんなとこで」
もう泣きそうだ。
なんでこの人こんなに冷たいんだ。
紙袋を押し付けて怒ったようにお礼を言った。
翔太💙「ありがとうございました。おやすみなさい」
ふわっと香ったシャンプーの香り。
立ち去ろうとする俺の後ろ姿に、背後から覆い被さった。
背中に触れた体温に、心臓が一瞬止まる。
髪がまだ濡れているのか、俺の肩に水滴がポツリと落ちた。
蓮 🖤「おこりんぼだな……中に入れ」
翔太💙「嫌です」
蓮 🖤「お前の意見は聞いてない。いいから入れ」
半ば強引に、腕を引かれて部屋に入る。
椅子に座ると、温かいコーヒーを淹れてくれた。
蓮 🖤「で、何しに来た」
翔太💙「パジャマ……返しに来ただけです」
蓮 🖤「嘘だな」
翔太💙「はあ?」
蓮 🖤「会いたかったならそう言えばいいだろう」
……会いたかった?
その言葉が、
自分でも驚くほど
ストンと胸に落ちた。
否定するより先に、
理解してしまった。
……そんな筈ない。
遅れて、
そう思った。
きっと疲れてるんだ。
翔太💙「自惚れるなよ変態医者」
あっ――踏んだ。
鋭い目付きで迫った蓮は、
俺の椅子の座面に手を置くと、片方の手で、頰に触れた。
蓮 🖤「なんでさっきから下ばかり見てる?」
その手が顎に移り、上を向かされる。
強引に合う視線。
真っ黒な漆黒の闇が迫ってくる。
ここで目を逸らしたら、また嘗められる。
奥歯を噛み締めて、目を見開いた。
蓮 🖤「強情なヤツも嫌いじゃない」
翔太💙「ンンンンッ……」
強引にくちびるが重なった。
足をバタつかせると、蓮の足で抑えられる。
息が、うまく吸えない。
シャツの隙間から、細くて男らしいゴツゴツとした指が
侵入してきて、つーっとなぞると
身体を捩った俺を、楽しむようにクスッと耳元で笑った。
翔太💙「……ンンッ」
蓮 🖤「隣は亮平の部屋だぞ?甘い声に誘われて来るかもな?」
翔太💙「酷い……」
蓮 🖤「そうでもないぞ?受け入れればきっと良くなる」
後ろに回された指は優しく、ゆっくりと俺の背中を撫でた。
蓮 🖤「欲しいなら素直になれよ……考えるより感じろ」
流される――
もう、自分がどうしたいかも分からなかった。
ただただ、されるがまま唇を貪られた。
――抵抗してるはずなのに、
唇だけが、離れなかった。
時折伸びてきた指がお腹をなぞり、背中を這った。
上気した体と、自分の声とは思えない甘い吐息が
部屋に響き、理性を失う。
翔太💙「せんっせ……」
蓮 🖤「蓮て呼べよ」
耳を這った舌先が中に侵入し、
身体に痺れるような何かが走った。
翔太💙「ンンンッ……あっ……はっ……」
蓮 🖤「いいね……感度良好」
翔太💙「違うこんなのヤダ……」
自然とでた涙を舌先で舐めとった蓮。
怖いのに、体が言うことを聞かない。
やめて欲しいのに、身体は疼いた。
歯を食いしばって耐えた。
〝阿部先生助けて〟心の中の叫びは、
言葉にはならなかった。
蓮 🖤「口を開けろ」
無理やりねじ込まれた、蓮の舌が追いかけるように這って
甘美な誘惑に堕ちていく。
弱々しく辛うじて握られていた手は、蓮のシャツから離れ、だらりと床に向かって下り、息も絶え絶えで肩を上下させる。
ズボンに手が掛かったところで、我に返り、慌てて蓮の手を掴んだ。
翔太💙「ダメ……お願い……ンンンッ」
――その時だった
📢 「紫寮の皆さまにお知らせします。
ただいまより夜間回診を開始します。
寮生の方は各自の部屋で待機してください。
回診担当医が順次訪室します。」
蓮 🖤「くそっ」
翔太💙「夜間……回診?」
聞き慣れない言葉に、思わず聞き返した。
息がまだ整わない。
唇が熱い。
頭がぼんやりしている。
蓮は舌打ちした。
蓮 🖤「最悪のタイミングだな」
廊下のスピーカーから、もう一度アナウンスが流れる。
📢
「繰り返します。
紫寮の皆さまは各自の部屋で待機してください。
回診担当医が順次訪室します。」
翔太は目を瞬かせた。
翔太💙「寮に……回診?」
蓮は深くため息をついた。
蓮 🖤「理事長の趣味だ」
翔太💙「趣味!?」
蓮 🖤「スタッフの健康管理だとさ」
翔太はまだ椅子の上で固まっていた。
シャツは乱れたまま。
呼吸は荒い。
その様子を見て、蓮が眉をひそめる。
蓮 🖤「……その顔で廊下出るな」
翔太💙「え」
蓮は手を伸ばし、翔太の顎に触れた。
ぐい、と顔を上げる。
蓮 🖤「キス跡」
翔太💙「えぇ!?」
慌てて口元を押さえる。
蓮は少し笑った。
蓮 🖤「真っ赤だ」
翔太💙「あんたのせいだろ!」
蓮 🖤「声もな」
翔太💙「……」
そのとき。
廊下で足音がした。
コツ。
コツ。
コツ。
誰かが歩いてくる。
蓮の目が細くなる。
蓮 🖤「……来たな」
翔太💙「え?」
ノックの音。
コン。
コン。
低い声がドアの向こうから響いた。
亮平💚「回診」
翔太💙「!?」
緊張で体が固まる。
蓮は天井を仰いだ。
蓮 🖤「……よりによって」
ドアノブが回る。
カチャ。
亮平が部屋に入ってきた。
そして。
一瞬、止まった。
視線が俺に落ちる。
乱れたシャツ。
赤い顔。
荒い呼吸。
亮平はゆっくり瞬きをした。
亮平💚「……へぇ」
その後ろから、もう一人顔を出す。
ラウ男🤍「あ」
ラウ男は楽しそうに笑った。
ラウ男🤍「捕食中だった?」
翔太💙「ち、違います!」
蓮は腕を組んだ。
蓮 🖤「回診だろ」
亮平は小さく笑う。
亮平💚「そう」
そして俺を見る。
亮平💚「健康チェック」
ラウ男がメモを取り出した。
ラウ男🤍「観察記録」
翔太💙「やめてください!」
ラウ男は俺を指さした。
ラウ男🤍「雪うさぎ」
次に蓮を見る。
ラウ男🤍「黒豹」
そして亮平を見て。
ラウ男🤍「狼」
小さく笑う。
ラウ男🤍「檻の中だね」
翔太💙「意味わからない!」
亮平は少しだけ首を傾けた。
亮平💚「翔太」
翔太💙「はい!」
亮平💚「回診」
少し間。
亮平💚「続きは後で」
翔太💙「続き!?」
蓮は小さく舌打ちした。
蓮 🖤「……最悪だ」
ラウ男は楽しそうに笑う。
ラウ男🤍「面白くなってきた」
廊下にはまだ足音が続いていた。
夜間回診は――
まだ終わっていない。
亮平は数歩、部屋の中に入った。
白衣のポケットに手を入れたまま、ゆっくりと視線を巡らせる。
机。
椅子。
そして――俺。
亮平💚「顔色」
少し近づく。
亮平💚「悪くないね」
ラウ男は横でメモを取っている。
カリカリ。
ラウ男🤍「頬、紅潮。原因、黒豹」
翔太💙「やめてください!」
ラウ男は気にせず続けた。
ラウ男🤍「雪うさぎ、体温上昇」
翔太💙「サウナです!」
ラウ男🤍「呼吸乱れ」
翔太💙「階段です!」
ラウ男🤍「瞳孔拡大」
翔太💙「やめろ!」
亮平は小さく笑った。
亮平💚「ラウ」
ラウ男🤍「はい」
亮平💚「回診」
ラウ男🤍「あ、そうだった」
メモを閉じる。
ぱたん。
亮平は俺の前で止まった。
指先が顎に触れる。
軽く上を向かされる。
翔太💙「えっ」
亮平💚「ん」
少し覗き込む。
亮平💚「キス跡」
翔太💙「ああああ!!」
両手で口を隠した。
蓮が後ろで鼻で笑う。
蓮 🖤「だから言った」
亮平はゆっくり瞬きをした。
そして蓮を見る。
亮平💚「盛ってた?」
蓮 🖤「途中だ」
翔太💙「言うな!!」
ラウ男は楽しそうに頷く。
ラウ男🤍「捕食未遂」
ラウ男🤍「興味深い」
翔太💙「記録するな!」
そのとき。
廊下で別の足音が止まった。
コツ。
コツ。
コン。
別のドアを叩く音。
康二🧡「回診やでー」
翔太💙「康二くん!?」
廊下から声が響く。
康二🧡「なんで医者全員おんねん」
ラウ男が小さく笑う。
ラウ男🤍「檻の前に集まってる」
亮平は肩をすくめた。
亮平💚「混雑してるね」
蓮は腕を組んだまま言う。
蓮 🖤「回診終わったなら出てけ」
亮平は俺を見る。
俺はまだ椅子の上で固まったままだ。
シャツは乱れ、髪も少し乱れている。
亮平💚「翔太」
翔太💙「はい!」
亮平💚「点滴のあとだよね」
翔太💙「はい」
亮平💚「安静」
少し間。
亮平💚「今日は俺の部屋」
翔太💙「え?」
亮平💚「これ以上は」
亮平💚「俺が黙ってない」
部屋の空気が止まった。
ラウ男がゆっくり笑う。
ラウ男🤍「狼」
蓮の目が細くなる。
蓮 🖤「……何言ってる」
亮平💚「内科判断」
静かな声。
亮平💚「過労」
翔太💙「いや、俺――」
亮平💚「決定」
ラウ男がメモを書く。
ラウ男🤍「縄張り争い」
翔太💙「やめろって!!」
蓮は低く笑った。
蓮 🖤「連れていけると思うか?」
わずかに、声が低くなる。
亮平は目を細める。
亮平💚「さあ」
ラウ男は楽しそうに呟く。
ラウ男🤍「面白い」
廊下のスピーカーから、また声が流れた。
📢
「夜間回診は継続中です。
寮生の皆さまは各自の部屋で待機してください。」
ラウ男が笑う。
ラウ男🤍「檻の中」
そして一言。
ラウ男🤍「逃げ場なし」
翔太💙「やめろよ!」
蓮と亮平の視線が
同時に
俺を、逃がさないみたいに捉えた。
寮の夜は――
まだ、終わらせてもらえない。
コメント
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ラウ男って何者なの!?😳そして、もっとイイとこ読みたかった〜!!説明が色々もっと欲しい😂😂😂