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鷹槻れん

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本当はギュッと抱きしめたかったけれど、そんなことをしたらせっかく綺麗にメイクした瑠璃香を台無しにしてしまいそうでグッと堪えた。
「前言撤回とか言うなよ? 瑠璃香が美味いもん作って待っててくれると思ったら、ちんたらしてらんねぇと思える。俺、すげぇ頑張れそうだわ」
その言葉に、瑠璃香は少し申し訳なさそうな顔をして、それでもすぐ、照れくさそうに微笑んだ。
「……はい。ちゃんと待ってます」
「よし」
晴永は瑠璃香から離れると、優しく彼女の頭を撫でた。
「行こうか」
二人は並んで家を出た。
昨夜まで降り続いていた雨はすっかり上がり、眩しい朝日が街を照らしている。
水滴が、きらきらと陽光を跳ね返す、美しい朝だった。
会社までの道中、瑠璃香を助手席へ乗せた車を走らせながら、晴永は小さく息を吐いた。
窓の外には、昨日の雨が嘘みたいな青空が広がっている。
家を出る前にもらった瑠璃香の笑顔が、まだ胸の奥に残っていた。
だからだろう。
今日は仕事を終えたら、祖父・角宮盛晴と対峙する予定だったけれど、不思議と心は晴れやかだった。
瑠璃香が待っていてくれる。
その事実だけで、自分はこんなにも強くなれるのだと、晴永は改めて実感していた。
***
その日の業務は、不思議なくらい何事もなく終わった。
定時を少し回った頃、晴永は必要最低限の荷物だけを手に席を立つ。
いつもより随分早く社長――盛晴――から解放されたのはきっと、清香から何か連絡がいっているからだろう。
だが祖父は今日一日、晴永に何も言ってこなかった。その静けさが逆に不気味に感じられてしまう。
(強く言えば、俺なんていくらでも押さえつけられると思われてそうだな)
そういうわけにはいかないのだと、晴永は思っている。だが、祖父の認識の中ではそうではなさそうな気がした。
清香からメールで送られてきた祖父との約束の時間までには、まだ少しだけ余裕があった。
会社を出ると、西へ傾いた陽が街を淡く茜色に染めていた。
車へ乗り込み、シートベルトを締める。
エンジンをかける。
目的地は、身体が覚えていた。
赤信号で車を停めると、買い物袋を抱えた女性が目の前の横断歩道を渡って行く。袋から長ネギがぴょこんと顔をのぞかせていて、(なんの料理に使うんだろう?)とぼんやり考えた。
(夕飯……か)
朝、瑠璃香が見送ってくれた笑顔が、ふと脳裏をよぎる。
『家で美味しいご飯を作って待ってますからっ! ……絶対元気に帰ってきてください』
その言葉を思い出しただけで、不思議と心が落ち着く。
「早く帰らないとな……」
ポツンとつぶやいたと同時、信号が青へと変わる。
晴永は静かにアクセルを踏み直した。
やがて車は、角宮家本邸へと到着した――。
重厚な門構え。
広い庭園。
何度も見てきた光景だ。
それなのに今日は妙に威圧感がある。
車を降りた晴永は、ゆっくりと門をくぐった。
コメント
2件
はるながさん、頑張って!\\\\٩( 'ω' )و ////
鷹槻れんさん、読ませていただきました。 晴永が瑠璃香への想いを胸に、祖父との対決へ向かう静かな決意がとても沁みました。「早く帰らないとな」の一言に、彼の根っこの優しさと、帰る場所がある強さがぎゅっと詰まっていて、じんわり温かくなりました。雨上がりの朝の眩しさや、信号待ちの長ネギの描写も、日常の尊さを感じさせてくれて、次の展開がすごく気になります…!