テラーノベル
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玄関ホールへ入ると、使用人たちが一斉に頭を下げる。
「お帰りなさいませ」
いつもなら自然に返せる挨拶だった。
だが今日は、どこか居心地が悪い。
「祖父さんは?」
「応接室にてお待ちです」
短く答えられる。
晴永は頷いた。
「母さんは?」
「清香さまもすでにお見えです」
その言葉に、ほんの少しだけ肩の力が抜ける。
母・清香は約束通り来てくれた。
もちろん味方になってくれる保証はない。
それでも、一人ではないと思えた。
案内された廊下を進み、やがて重厚な扉の前へと辿り着く。
その前に立っていた人物を見て、晴永はわずかに目を見開いた。
「母さん」
てっきり、清香は盛晴とともに応接室へ入って待っていると思っていた。
だが、何故か室外で晴永を待っていてくれたらしい。
落ち着いた紺色のスーツに身を包み、腕を組んで壁にもたれていた清香が、晴永を認めるなり
「来たわね」
言って、身体を起こした。
「ああ」
清香が、晴永の顔をじっと見つめてくる。
まるで、晴永の体調でも確認するみたいな眼差しだった。
「顔色は悪くないわね」
「徹夜したわけじゃないからな」
「そう」
清香は小さく頷く。
それから、
「小笹さんは?」
当然の問いのように瑠璃香のことを聞いてきた。
「家で飯作って待ってくれてる」
「そう」
それ以上は聞いてこなかった。
しばし沈黙が落ちる。
応接室の向こうには盛晴がいる。
それを互いに理解していた。
「ねぇ、晴永」
先に口を開いたのは清香だった。
「なんだ?」
「今ならまだ引き返せるわよ?」
試すような言葉だった。
けれど晴永は迷わない。
「引き返すつもりはない」
「そう」
清香は小さく笑った。
どこか安心したような笑みだった。
「なら行きましょう」
そう言って、清香は応接室の扉をノックした。
「入れ」
盛晴の声を聞いてから、ドアノブへ手を掛ける。
だが、扉を開く直前、清香はふと動きを止めた。
「お父さん、たぶん怒るわよ」
「知ってる」
「理不尽なことも言うと思う」
「だろうな」
「あなたを傷付けるようなことも」
晴永は黙って頷いた。
そんな息子を見て、清香は小さく息を吐く。
鷹槻れん

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#契約結婚
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「それでも、守るべきもののために、自分の言葉で戦いなさい」
静かな声だった。
「お父さんが望む晴永じゃなく、あなたが望む、あなた自身の言葉で」
晴永は一瞬だけ目を見開くと、
「分かった」
力強く答えた。
清香は満足そうに頷くと、今度こそ扉を開いた。
応接室の奥。
窓際のソファに座る盛晴が、ゆっくりと顔を上げる。
その鋭い視線が晴永を射抜いた。
「来たか」
低い声だった。
逃げ場はもうない。
晴永は祖父を真っ直ぐ見据えたまま、一歩前へ踏み出した。
「今日はお時間を作っていただき、ありがとうございます」
扉を押さえてくれている清香の横をすり抜けるようにして、前へ進み出た晴永は、祖父へ一礼する。晴永の横へ清香が並び立ったのを見て、盛晴がスッと瞳を眇めた。
応接室は痛いくらいに静まり返っている。
コメント
2件
うわー、なんか緊張するー!
うわあ、この場の空気感がすごく伝わってきました…。清香さんが「あなたの言葉で戦いなさい」って言うところ、胸に刺さりました。親としてだけじゃなく、一人の人間として息子を信じてるんだなって。晴永くんが引き返さないって決めた理由、ちゃんと見届けたいです。重いけど、すごく好きな展開です🌙