テラーノベル
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アンテナは過敏な元貴さま。だが不器用。
「最近涼ちゃんがおかしい。」
今日はとあるMVの撮影で3人揃っている。久しぶりに3人で揃った楽しい現場なのに、なぜか1人離れてスタッフと話している涼ちゃん。なんだこの違和感。
涼ちゃん主体の野外ライブは大成功で終わった。素晴らしかった。入りが3人じゃないのは気になったけど、ささいなもんだ。
次は定期演奏会をイメージした、ホールでのライブを控えているのに、なんか。なんか 涼ちゃんがおかしい。
うまくいえないけどシャッターが閉じている。
相談したはずの幼馴染兼親友の返事が遅いからイライラ見やると、呑気にたこ焼きを食べていた。
「聞いてた?涼ちゃんがおかしいんだけど、なんか知ってる?」
「ごめんごめん。たこ焼きがちょっと熱くて。」
もう大分冷めてるだろ、と据わった目で見ると若井は慌てて
「さっき声かけたら、まだ本調子じゃないらしい。ちょっとしんどいから今日は一緒にご飯食べないで早上がりするってさ。」
と返事してくれた。
「 それと俺らとあんまり話さないのは無関係じゃない?」
「うーん、まあ俺は話したよ。ぶっちゃけ元貴がピリついてるから話したくないのかも。」
急な説教。
「……ぴりついてなんかない。」
やましくて目をそらす。若井の真っすぐな視線が頬に刺さっている。
「会っていきなり「MV撮影なのにむくんでない?昨日お酒のんだろ?たるんでない?」はヤバいだろ。俺もひやっとしたわ。」
「せっかくきれいなのに無頓着だからイラッとすんだよ。すぐエスティシャン手配してあげたじゃん。」
女神の自覚がないんだもん。腹立つ。
「最近スタッフが「ドジな藤澤さんが大森さんに怒られないように、大森さんの地雷を藤澤さんに先に伝えてる」らしいぞ。俺はたしなめたけど、逆に若井さんも藤澤さんに言ってあげてくださいって頼まれた。」
「は?俺が言うことを勝手に翻訳してるの?誤訳しかないだろ。誰それ」
「なんか若手のスタッフにはびこってる。お前が若手にこわいから悪いんだろ。」
「涼ちゃんはプロだぞ。失礼なスタッフがいたもんだな。」
「ならちゃんと、お前が涼ちゃんへの話し方考えろ。涼ちゃんなら伝わってると思うけど、お前もサボるな。涼ちゃんにあまえるな。」
「辛辣。とりあえず涼ちゃんと話すわ。」
「お前に言えるの俺か涼ちゃんしかいないから。」
「涼ちゃーん。」
「ねぇお礼は?俺の扱いが雑じゃない?」
パタパタと近寄るといつもの優しい笑顔。
俺の大事な涼ちゃん。あれ?よくみたら?
「どうしたの?もう撮影再開するよ?」
涼ちゃんだけ1人メガネしてない?
てかいつから若井はメガネかけたの?
「……涼ちゃんメガネしないの?」
仲間外れみたいでいやだ。
スタッフを見るとなぜか逃げられた。
「え?あー、いらないかな。弾く時邪魔だし。」
あ、ほら閉じてる。ムカッとした。
「……マネージャー。」
「はいただいま!」
疾走するしごできマネージャー。しかし。
「撮影再開しまーす。」
なんて無情なんだ。
しょんぼりすると頭を撫でられた。
「ほら元貴、一緒に戻ろ。」
見上げたら優しい笑顔。
「ちょっとシャッター開いた?」
仕方ないから一緒に歩き腕を絡めて聞く。
「何が?」
ほどかれないことにほっとしながら、首を振る。涼ちゃんとは覚悟きめたら手強いんだよなー。
今日は確かに体調も悪そうだから様子を見よう。
ちょっとだけ心配そうな顔をした若井のいるセットに戻り、撮影は再開された。
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