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[はい♪ 承知しました。それではわたくしこれよりノギザカ…]


(おおい! ハルカな。ハルカだけだ) 俺はユウトではないのだ。


[かしこまりました。これより【ハルカ】と名乗らせていただきます]


(さっそくだけど、最近この近辺に千人もの人族や獣人が集められていたみたいだけど、その者たちの消息について何かわかるか?)


[はい旦那さま。その者たちでございましたら、……カクカク・シカジカ・コレコレ・ウマウマ……このような動きでございました]


……なるほど。


勇者召喚にその者たちの魂を使い、亡骸の処分にダンジョンを使ったわけね。


大方、この教会の何処かに勇者召喚用の魔法陣が残されているのだろう。


しかし、


たった一人を異世界から召喚するために、……千人もだぞ!


狂ってるとしか思えん。


――スンっ。


ハイライトの消えた目と、小刻みに震える拳を見て、シロとヤカンは心配するように俺の足元へよってきた。


「俺なら大丈夫だぞ。伊達に10年もサーメクスでやってきてはいない。理不尽で横暴な貴族も、無慈悲で残忍な盗賊もいろいろと見てきた。だがな、国を治めんとする者がそれをやっちゃいけないんだ。自ら救うべき民を逆に利用した挙句にダンジョンへ放るなんざ、まさに悪魔の所業だわな」


しんのすけさんの気持ちが今ハッキリとわかったよ。


俺は荒れ狂う心を静めるべく、しゃがんでシロとヤカンをモフリまくった。


こうしていると、不思議と気持ちが落ち着いてくるんだよなぁ。


モフモフの癒し効果は抜群だよー。






さて、行くとしますかね。


まずは召喚魔法陣をぶっ壊さないとだろ。


それに、この上の建物も邪魔だな。


さらにハルカの報告によれば、


その呼び出された勇者は、たまにココ (ダンジョン) へ潜っているそうだ。


まあ、呼び出されてから50日程度なら、まだまだレベルアップしている最中だろうね。


どんなヤツが呼び出されたのかな?


現在 (いま) は帝城に居るようだから、処遇を決めるのは実際に会ってからでいいかな。


俺は勇者召喚が行われた場所をハルカに聞きながらさっき下りてきた階段を再び上りはじめた。


ハルカに頼んで一気にその場所へ転移することも考えたが、召喚部屋の全体像を掴む為、ここは歩いて向かうことにした。


ダンジョンから教会内部へは見張り番もおらず、意外とあっさり侵入することができた。


ダンジョンへと向かう通路にモンスター除けの鉄格子の扉が一ヵ所あっただけである。


真夜中なので教会内部は人の気配もなく静まり返っていた。


………………

…………

……


――とっ、ここか。


建物内の通路に設けられた1m程の小さな扉。


ご丁寧に認識阻害の結界まで張られている。


扉には鍵も掛けられていたが、


(シロ頼む)


(り!)


扉のまえにシロが立ち、シュピッと前足を動かすと鍵は真っ二つになって下に落ちた。


小さな扉を潜った俺たちは、ヤカンの灯してくれた狐火をたよりにレンガで覆われた細い通路を進んでいく。






それからしばらく進んでいくと、突き当りにその部屋はあった。


重厚な鉄扉に付いている丸環を引いて俺たちは中へはいる。


部屋の広さは20畳程、天井の高さは1.8m程しかないため、


頭が天井に着きそうで、もの凄い圧迫感をおぼえる。


まず目に飛び込んできたのは、


床の中央部に設置された銀色に輝く2mのサークルと、その真上に設けられた50㎝程の謎の穴。


他には何ひとつない。


特筆すべきことといえば、


サークル以外の床、壁、天井のすべてが鉛で覆われている点だ。


昔のレントゲン室って放射能が漏れないよう、鉛入りの建材が使われていたと聞いたことがあるけど。


今は関係ないよね。


すると、これってもしかして魂を封じておくための施設なのか?


そう考えてみれば、黒魔術でもやっていそうな空間ではある。


この部屋の重圧が低い天井と合わさって、胃がキューと締め付けられそうだ。


あまり長く居たい場所ではないな。


俺は中央のサークルに近づくと魔法陣が描かれたメタルプレートをそのままインベントリーに収納した。


インベントリーを確認をしてみると、【魔法陣プレート:ミスリル】と表示されている。


あとはこの部屋を覆っている鉛なのだが……、


なにか気味が悪いのでハルカに吸収してもらうことにした。


これにて、ここでの仕事は終わりだな。


お次は帝城。


俺はシロとヤカンに光学迷彩を掛けると、ハルカに頼んで勇者の近くまで飛ばしてもらった。


(……右も左も真っ暗闇じゃござんせんか)


転移したのはいいんだけど真夜中だからね。


仕方がないので、ヤカンに頼んで狐火を一つだけ灯してもらった。


(うん……、どうやらここは寝室みたいだね)


遮音の結界を部屋に張るようにとシロにお願いして俺はベッドに近寄った。


するとそこに寝ていたのは若い女の子。スヤスヤとよく眠っている。


俺はさっそく女の子を鑑定してみた。



サキ・アマミヤ Lv.3


年齢 13

状態 低迷(暗示)

HP 2929

MP 2121

筋力 18

防御 16

魔防 18

敏捷 16

器用 14

知力 17

【特殊スキル】 状態異常耐性 言語理解

【スキル】魔法適性(聖、雷)鑑定(2)魔力操作(3)

【魔法】 聖魔法(1)



ふんふん、雨宮サキ13歳。


まだ中学生だろ。大変だったよね。


状態が低迷(暗示)になっているな。


状態異常耐性を持っているのに……?


まだ若いから、毎日刷り込まれるように暗示をかけられた可能性もあるね。


ステータスの方は……、


Lv.3と低いけど、パラメーターはそれなりに高くさすがは勇者って感じかな。


一年も鍛えればそれなりに利用できたかもね。


(シロ、この子には強い暗示がかかっているからリカバリーを頼むよ)


(おけまる!)


そのように念話で指示を送ると、


シロは彼女の枕元に行き、額に右前足をそっとのせ【リカバリー】を発動した。


ぺしぺし、ぺしぺし、


彼女の肩を肉球でやさしく叩くシロ。


ずいぶんと違うくね?


俺を起こすときは額をビシバシやってくるくせに……。


若干モヤッとしながら見守っていると、


「うん、な~に? モフモフだぁ~」


彼女はシロに抱きついてモフモフを満喫している。


まだ寝ぼけているようだ。


「うん、えっ、どうしてワンちゃんが? 何処から入ってきたの?」


ベッドで上体を起こしながらも、モフモフはいまだに続いている。


「おはようサキちゃん。迎えにきたよ」


ようやく起きてくれたようなので声を掛けてみた。


「えっ、えええっ。誰? 何故あたしの部屋にいるの?」


「驚かせたようで済まない。俺の名前はゲン。そしてキミがいまモフっているのがシロ、俺の従魔だ。そしてこの隣にいるのがヤカン、同じく俺の従魔なんだ。よろしくね」


「あ、は、はい? それでこれはどういうことなんですか?」


「キミは日本人だよね。率直にいうと助けにきたんだ」

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