コメント
2件
これは多分、100年くらい前のこと。
あのときは丁度、沢山雨が降っていて、世界が葛葉に対してあわれみの涙をあげているみたいで苛立ちが止まらなかった。僕は天使になれた。やっと葛葉と同じ時間を過ごせると思って、喜んでいたのに。葛葉はもう長くないことを僕に言ってくれなかった。
「 葛葉、今日は何処行く?あ、そうだ。僕さ、ちゃんと飛べるようになったから海とかの上飛んでみない?あ、ちゃんと飛べなかったからって見捨てるのは無しね。約束! 」
「 へーへー 、約束。 」
これが最後に葛葉と交わした約束。こんな約束もう意味なかったのに、葛葉は笑ってくれた。今思い返せば、これも葛葉の優しさだったんだろうな、なんて考えてしまった。僕は葛葉のために飛ぶ練習をした。沢山。そんなときだった、ロトが教えてくれた。
「 カナエ・・・ッ!クズハが・・っ、 」
「 どうしたの、ロト。 」
ロトが珍しく取り乱していたから悪戯でもされたのかと思っていたら、ロトの口から零れた言葉は、
「 さっき、クズハが、血吐いたんだ・・・・・ 。 なんか苦しそうで ・・ 、 どうしたのかと思って 、 カナエを呼びに行こうとしたら ・・・・・ 、また沢山血を吐いて、それで ・・ 死んじゃったんだ ・・っ 、 」
「 ・・・・・え?ロ、ロト・・・・ 、 ねえ、冗談 、 だよね 。 」
首を降りながら泣きそうになっているロトを置いて走り出した。飛んだほうが速いのに、走って、やっと家についた。玄関を開けて、階段を駆け上がり、葛葉の部屋に行く。そこにあった光景は、真っ白なシーツに滲んでいる赤黒い液体と、倒れて、動かなくなっている葛葉。
「 葛葉 ・・・・・ ? ねえ、やめて ・・っ 、 置いていかないで ・・・・・っ 、独りにしないでよ ・・・・・ っ 、 やだよ 、 葛葉ぁ っ ・・・ ! 」
そう言いながら僕は葛葉の手を握りながら泣いた。もう冷たくなっていた葛葉の手は、昔、僕の手を握ってくれた手と同じなのに、違うような気がして。もう使わなくなった涙、まだ出てくるのかなんて今はどうでもよかった。置いていかれたくなくて、必死に泣いた。でも、わかってしまった。葛葉が今までどんな気持ちで、僕と仲良くしていたのか。今までの僕と暮らした、歩んだ、記憶が無いものになって、どんな気持ちだったのか。置いていかれる側だった葛葉がはじめて、置いていく側になった。 そこから2日、僕は葛葉が死んだ事実を受け入れようと、頑張った。家の近くの小屋にあった葛葉の棺桶に葛葉をいれて、ロトと一緒に穴を掘って、そこに埋めてやった。棺桶には、葛葉のすきだった本や、物をいれてやった。葛葉の耳についていたお揃いのピアスを僕の耳につけて、葛葉が髪を結んでいたリボンは、髪を伸ばしてつけることにした。どれだけ辛くても泣かないようにした。ロトと2人で暮らした。
今、僕は幸せだと感じることはないけど、普通の生活をおくれていると思う。毎朝、起きたら顔を洗って、葛葉の写真におはようって挨拶して、朝食をつくって、ロトと食べて、洗濯して、花をつみにいって、葛葉のお墓の近くの花瓶の花を変えて、しっかり暮らせていると思う。ここは川も近いし、山も近いし、人里もそこまで遠くはない。お金は、葛葉のベッドの下にあった空間に沢山詰め込まれてて、そこの近くには「俺がいなくなったとき用」と殴り書きされてた。それでなんとかロトと暮らしている。
今日も、また同じ一日を繰り返すだけ。起きて、挨拶して、朝食をつくっていたら、扉を「トン、」と二回叩く音が聞こえた。なんだろうと思って、ロトに隠れててと小声で言ってから、扉を開ける。
「 は~~ ・・・・・ ぃ 、 」
「 ア、すいません ・・ 、 アーー ・・ 、 えっと 、 ちょっと匿ってほしくてェ ・・ 、 追われてるんですよねェ 、 今 ・・ 。 」
吃驚したのが事実。なんだか変な声が出たような気がして、少し考えてからはいるように言って、小さな丸椅子、よく葛葉の髪を結うために使っていた椅子を出して座らせて待ってて、なんて言いながら外に出る。そしたら帽子を深々と被っている警官と目があった。その人は此方に近づいてきて、
「 あ、すいません。ここら辺で白い髪をした青年をみませんでしたか? 」
と聞いてきた。ここで答えたらあの葛葉みたいな青年を手放してしまうことになると思った。だから、僕は嘘をついた。
「 あ、えーっと、すいません、見てないです。何かあったんですか? 」 「 実は、少し厄介な事件がありまして ・・ 、 ご協力ありがとうございます。見かけた場合はすぐお知らせください。 」
そういって走り去っていく警官を見送ってから家の中にはいる。本当に葛葉と瓜二つな彼が椅子に座りながらキョロキョロしていた。
「 で、キミ名前は? 」
「 エッ、アー ・・ 、 アレクサンドルラグーザ です 。長いんでサーシャとか呼んでください 。 」
「 サーシャくんね 、それで?サーシャくんはなんであんなに追われてるの?人間殺したとか? 」
「 イヤッ、それが 、 わかんないんすよねぇ ︎︎・・・・・ 」
喋り方までそっくりだ。違うとこと言えば人間なところくらい。おわれてる理由をわからないと言って、はぐらかしているのか、本当にわかっていないのか、わからないけど取り敢えずおいといて。
「 ふーん 、 サーシャくんさ 、 行く宛とかないの?あるならおくっていくけど 、 」
「 ない 、 ンすよねェ ・・・・ 、 どうしよう 、 」
「 じゃあさ 、 僕と暮らす?丁度、昔の友達が使ってたものとかあるし、どうせ1人だしさ。サーシャくんがいいならでいいけど。 」
変な提案をしたなと思いながらもこの葛葉みたいな存在を手放さないでおきたかった。多分、僕はもう長くないだろうし、この子には僕の血を飲ませたりすればきっと長く生きれるだろう、そうして次の僕か、他の新しい誰かと仲良くするのだろう。それでいい、だから今だけは葛葉といたい。
「 じゃあ 、 お願いします 、 」
「 ん。じゃあ取り敢えず着替えよっか。待ってて、服持ってくるから。友達が使ってたのだけど、いい? 」
「 ア、ハイ。 」
階段を上がって、二度とはいらないだろうと思っていた葛葉の部屋にはいる。昔と変わらず何もかもが綺麗に置いてある。引き出しから葛葉の服を出す。葛葉がよく着ていた白いシャツ、黒いズボン、それらを引っ張り出して持っていく。これを着ているサーシャを見て、僕は泣かずにいられるのだろうか。
「 はい、サイズぴったりじゃなかったらごめんね。 」
「 ありがとうございます 、 えーっと ・・・・・ 、 」
「 あ、叶だよ。あと、普通に話していいよ。疲れるでしょ、よろしくねサーシャ。 」
着替えてきな、と話しながらご飯の用意を続けようと台所に行き、毎日つくっていた葛葉の好物をつくって、甘いものが苦手なのに手作りでつくってるいちごミルクを出した。喜ぶのかはわからないけれど、きっと飲んでくれるだろう。いつもの癖で二人分つくってよかったと思った。着替え終わったサーシャもこっちに来て並べられてる食べ物を眺めていた。
「 食べよ、サーシャ。 」
「 おぉ 、 すげぇ 。うまそう 、 」
昔と同じようなことを言うサーシャに面白いな、なんて思いながら椅子に座る。いただきます、なんて言って食べ始める。目の前で美味しそうに食べるサーシャを見てたら、味がしなくなった料理だっておいしく感じた。
「 そーだ、ねえサーシャ。追われてるんなら名前も変えたほうがいいんじゃない?ほら、ばれたらヤバイじゃん? 」
「 んぁ 、 はひはに 、 へもほんななまへはいいはわはらん。 ( んぁ、確かに 、 でもどんな名前がいいかわからん。 ) 」
「 食べながら話すなや 、 (笑)んー 、 じゃあ葛葉とかどう? 」
「 ふふはぁ ?? (くずはぁ??) 」
何を考えているんだろう、僕は。そんな名前にしたって葛葉が帰ってくることはないのに。何がしたいのかもわからないけど、まあ仕方ないかな。寂しいんだもん。
「 そ、葛葉。いいでしょ 、あと変身もしちゃおっか。髪の毛結んでいい? 」
「 んっ 、 いいんじゃね 。好きにすれば 、 」
「 はーい 、 じゃあ三つ編みとかにしちゃおうかなーっ 、 」
「 それは無理。 」
そんな他愛もない会話をして、この子を寂しさを埋める道具だとしか思ってない僕に気付いたらサーシャはどう思うんだろう。怒るのか、呆れるのか、受け入れてくれるのか。わからないけど、きっと葛葉のことは言わないだろうな。この子を手放さないようにしなければ、なんて考えて。僕もあと50年もすれば死んでしまうだろう。そしたらロトがこの子と暮らすのだろう。そうして、また新しい僕に出会う。でもこの子は人間だから意味がないのか、なんて考えて、人間じゃない葛葉を思い出して泣きそうになった。本当はもっと一緒にいたかったなー、なんて考えて、昔の髪型をしてあげる。僕とお揃いの編み込み。懐かしいな。
「 はい、じゃあこれからよろしくね葛葉 、 」
「 ン、よろしく。叶。 」