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第1話「夜の鼓動」
1章 過去の記憶
夜の首都高速道路。小学3年生の桜井トオルは、家族旅行の帰りに父親の運転するミニバンの後部座席に座っている。窓の外を眺めていると、突然、鮮やかな緑色の180SXが驚異的なスピードで彼らの車を追い抜いていく。暗闇に映えるその流線型のボディと、エンジンの咆哮がトオルの心に深く刻まれる。「すげぇ…」と呟くトオルに対し、父親は「首都高じゃああいう奴らが走ってるんだよ」と苦笑い。トオルはその日から、車の魅力に取り憑かれる。
場面は現在に移り、18歳になったトオルは高校3年生。見た目は普通の少年だが、落ち着いた雰囲気を持つ彼は、クラスでも目立たない存在だ。学校帰り、友人たちと別れて家に帰ると、ガレージに停まる愛車・180SXを眺める。念願の免許を取得し、中古で手に入れたばかりのこの車はフルノーマル状態だが、トオルにとっては夢の結晶だ。「いつか、あの緑の180SXみたいに…」と静かに闘志を燃やす。
その夜、トオルは幼馴染の三田ユウジに誘われ、初めて首都高C1(内回り)に繰り出す。ユウジのS13シルビアが軽快に走る中、トオルの180SXはフルノーマルゆえに加速もコーナリングも思うようにいかず、他の走り屋たちにあっさり抜かれてしまう。ネオンが反射するトンネル内で、派手なチューン車に囲まれ、「雰囲気組」と笑われるトオル。悔しさを噛み締めながらも、彼の目には静かな炎が宿る。「このままじゃ終われない…」。
レースの後、トオルはチューン資金を稼ぐため、近所のガソリンスタンドでアルバイトを始める。週5のシフトで汗を流す中、店長の中年男性・佐藤と雑談する機会が増える。ある日、車好きのトオルが「昔、緑の180SXを見たんです」と話すと、佐藤の表情が一瞬固まる。「それ…俺の旧友の車かもしれないな」と呟く佐藤。トオルが驚いて問い詰めると、佐藤は8年前の話を語り始める。
その緑の180SXのオーナーは、C1の頂点に君臨した伝説の走り屋で、称号「帝王」を持つ男だった。しかし、8年前の事故で命を落とし、即死だったという。奇妙なことに、車はほぼ無傷で残ったらしいが、その後の行方は誰も知らない。「今でもどこかで走ってるって噂はあるけどな…」と佐藤は遠い目をする。トオルは衝撃を受けつつも、心のどこかでその車を追い求める決意を固める。
場面は再び夜のC1へ。トオルとユウジが走っていると、遠くから低く唸るエンジン音が近づいてくる。漆黒のR34 GTRが現れ、巨大なウィングと黒豹のような鋭い走りで一瞬にして二人を抜き去る。ユウジが興奮気味に叫ぶ。「あれが現『帝王』の篠原マコトだよ!」。トオルは黙ってその後ろ姿を見つめ、自分の180SXとの圧倒的な差を感じる。「あそこまで…俺も行く」。
トオルはガレージで180SXのボンネットを開け、エンジンを眺めながら工具を手に持つ。資金も技術もない高校生の自分に何ができるのか葛藤しながらも、彼は静かに呟く。「帝王になる。あの緑の180SXを超える」。遠くで首都高の車の音が響き渡る。
キャラクターの補足
**桜井トオル**:冷静沈着だが、内面に秘めた情熱が彼を突き動かす。C1での初戦敗北と緑の180SXへの憧れが、彼の成長の原動力となる。
**三田ユウジ**:トオルの良き相棒で、明るく楽観的な性格。S13シルビアでトオルを支えつつ、共にC1での冒険を楽しむ。
**篠原マコト**:現「帝王」として君臨するミステリアスな存在。黒いR34 GTRと共に、トオルにとって最初の大きな壁となる。