『ブラックジャック』
カジノゲームにおいて比較的シンプルかつ初心者向けの部類に入るカードゲームである。
「では簡単なルール説明から致しましょう」
このゲームは基本、ディーラーとの一対一の勝負ではあるが複数人でプレイする事も可能。
最初に配られる二枚のカードから始まり、カードを追加したり見送ったりして合計が21を超えない範囲でディーラーよりも21に近付けるというゲームである。
21を超えてしまうと《バースト》と言って自動的に負けが確定するがディーラーがバーストするとプレイヤーの勝ちとなる。頭を使い、いかにディーラーをバーストさせるかも勝負の大きなポイントだ
次に得点の数え方
2〜10のカードまではそのままの数字で数え、J(11) Q(12) K(13)は全て10点と数える
A(1)は中でも特殊で状況によっては1点としても11点としても良いというルールがある
例えば10のカードとAのカードが出た場合、合わせて21点となるし、手持ちのカードが既に21に近いならバーストしないためそのまま1点として数えるという手もある
「プレイヤーは必ず先攻。ディーラーは後攻となります。カードを追加する際はHit《ヒット》テーブルを指で数回叩き追加しない場合はStay《ステイ》手のひらを下に向けて振る。ハンドシグナルと呼ばれるジェスチャーを行いゲームを進めていきます」
青年は淡々と語られる剣持の説明に必死についていくが疑問点も多く、しきりに頭を悩ませている
「なんでジェスチャーなの?声に出せばよくない?」
「不正防止のためですよ監視カメラにジェスチャーとしてしっかり映るようにしているんです。後で『そんなこと言ってない』なんて言われない為にね」
剣持が指差した方向には黒光りするカメラが自分達の手元をしっかりと狙っている
「な、なるほど…」
「もしも最初に配られたカードや途中で21ぴったりになった場合《ブラックジャック》といってその時点でその人の勝ちとなります」
「ああ、最強カードってわけね」
「なんだ…案外、察しがいいじゃないですか。話が早くて助かります」
剣持は数回目を瞬かせて素直に頷く青年に柔らかく微笑む
「…っ!別にこれくらい僕だってわかるよ」
褒められ、笑いかけられたのがよほど意外だったのか青年はパッと目線を外し俯きがちに呟く
「……。」
伏見がチラリと隣を盗み見ると首すじがほんのりと赤に染まっていた。
その反応に自然と眉根が寄る
刀也さん、あんた
とんだ人誑しっスね
むくりと自分の中の独占欲が頭をもたげる
静かに目が細まり真顔になる自分の顔を今誰かに見られたなら恐怖で固まってしまうことだろう
せっかくの丁寧なルール説明も、逸る気持ちのせいであまり耳に入ってこなかった
『面白くないなぁ』
あの視線も笑顔も溜息さえも自分だけに向けられたならどんなに
嫉妬の炎が揺らめくのを自覚しながら目の前で美しくカードを操る指先を少し憎らしげに眺める
「さて、一通り話せたかな…あとは実践あるのみです。」
その視線を知ってか知らずか振り切るようにゲーム開始を告げる彼はけして誰のものにもならない猫を彷彿とさせた
パラパラとカードを捲る音と、かき混ぜる音が室内を満たす
「どうです?試しにゲームをしてみましたが本番いけそうですか?」
2、3回練習を経て大丈夫そうだなと判断した剣持は一番不安そうにしていた青年を見やる
彼は素直に頷いた
「うん。多分、大丈夫だよ」
「わかりました。それでは本番に行きましょう」
静かな室内にディーラーの淡々とした進行だけが響く
「Place your bets.(プレイスユアベッツ・お賭けください)」
「なぁ剣ちゃん」
それぞれが賭け金を握りコインと交換しようとした所で緊張感に欠けた関西弁が横やりを入れる。提案です!とばかりにあげられた手をジト目で返すディーラー
「なんですマネージャー?もう出ていってもらって構いませんよ」
「ちゃうよ。あんたら普通に金を賭ける気なん?」
「当たり前じゃないですか、ここはカジノですよ?」
何言ってんだ、この人は…?とその場の全員の頭に疑問符が飛んでいるのを感じつつ剣持は呑気にマネージャーの顔を凝視した。
後々後悔しても後の祭りだが、この時の僕は何がなんでも彼女の口を押さえ外へ出すべきだったのだ
そう、何がなんでも
『ゲームを面白くするなら金なんか賭けるよりお姉さんの考えたルールで勝負したほうがきっと楽しいで?』
悪魔のような前置きをニヤニヤと締まりのない顔で楽しそうに話すと有無を言わさず本題を切り出す
「…ゲームは10回戦。もちろん多く勝った者が最終的な勝者やけど、1戦ごとの勝者にはコインの代わりに好きな相手とキスが出来るっていうルールどうや?する側かされる側かは好みで。あ、唇はアカンで?それ以外は何処にしても自由や」
「はぁ!?嫌に決まってるでしょう、これ以上話をややこしくしないで下さいよ!ルールを変える意味がわからないし」
「えー?面白いから」
『私が』と続きそうなセリフに信じられないものを見る目で食ってかかるのも仕方ないだろう、誰かこの暴走女を止めてくれと本気で思った
「剣ちゃんは、嫌やろうからコインにすればええんよ良かったなぁ稼げるで〜?…で、あとの3人さんはどうする?」
異論を聞く気があるのかと疑うスピード感で彼女はにっこりと振り返る
「「「やります」」」
食い気味で聞こえてきた声に剣持は、その場で崩折れた。
かき回すだけ、かき回して姿を消した迷惑な彼女を心中で呪いながら剣持は1回戦目をなんなくクリアした。
「ディーラーカードの合計19点でしたので1回戦目はディーラーの勝利です」
溜め息の聞こえる中、1人胸を撫で下ろす剣持
この際、稼げるだけ稼いでやると拳を握り直す
ふと伏見と目が合うと彼は余裕の笑みで手を振ってきた。自分と違い、のほほんとした姿にイラッとして盛大に舌打ちしてやる。
誰が客扱いしてやるものかコイツら
【2回戦】
「わっ!合計点20!これ僕勝ったんじゃない?」
満面の笑みでカードを見せる青年を横目に手元の閉じられた最後のカードを裏返す
「ディーラーカードオープン。合計18点、おめでとうございますビギナーズラックですね」
「ちょっと、たまたま勝ったって言いたいわけ?素直に褒めなよ。ま、いいや。お兄さんルール通りキスちょうだい?」
慣れたように隣で甘える青年には目もくれず真顔でこちらを見つめてくる伏見ガク
僕を見るな勝負なんだから仕方ないだろ
笑いを噛み殺しながら剣持は必死に目を逸らした
ちゅっ
かすめるように一瞬で頬にキスした彼は無言で次のゲームを急かしてくる
いいのかそれでと目線を向けると幸せそうに顔を染める青年がいた
まぁ…本人が満足ならいいか
【3回戦】
「よしっ!俺の勝ち!!」
テンション高く立ちあがった伏見に本日何度目かの舌打ちをした僕は先程のやり取りなど忘れて伏見が青年を選んでくれないかと本気で祈る
ほっぺちゅーから始まる恋もいいと思うよ僕は
「刀也さんで!!」
おまえ、少しくらい悩めよ
「で?僕がするの?アンタがするの?」
イラつきを隠しもせずカウンターを出て伏見の前まできた剣持は睨みつけるように長身を見上げる
ちなみに伏見視点では黒猫ちゃんが上目遣いしてくるというラブイベントが開催されていた
「刀也さんからしてほしいな。場所は好きなところでいいぜ」
「うざっ」
この状況で相手に委ねるとか絶対性格悪いだろ
「……」
僕は、人を振り回すのは好きだけど振り回されるのは嫌いなんだよ!
ワガママな魔性の女みたいなセリフを脳内で叫ぶ自分をよそに
こちらの出方をニコニコと余裕で楽しんでいる彼が全くもって気に食わない
剣持は唐突に男の驚く顔を見てやりたいと思った
「?」
動かない剣持に少し戸惑いを見せ始めた彼を見つめながら
すっと踵(かかと)を地面から離し、両腕を目の前の首に回す
近くまできた真っ赤な耳をはむりと食んだ
「!?」
震える耳に気を良くして、そのまま囁くように呟く
「ばーか」
「剣ちゃん…それはアカンやろ…。ほら彼、立ったまま気絶してるで?」
タイミング悪く飲み物を運んできてくれた楓が一部始終を目撃して呆れたように指摘した。
更新遅くてすみません〜💦
実生活が忙しくてなかなかスムーズに続きませんが楽しみにしてくださる方の為にもちょっとづつ頑張りますねっ
さて、ゲームはこれからどうなるやら
ブラックジャック実は遊んだことないので細かいルールなどは大目に見てください