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こちらはirxsのnmmn作品(青桃)となります
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エイプリルフールネタ青桃
カシャン、と無機質な音が室内に響いた。
それも2回も。
大きく開いた目で、まろは深い瞬きを繰り返す。
「えぇ…」と訝しげに唸り、首を捻った。
「何これ…」
「ん? 手錠」
にっこり笑って、さも当然と言わんばかりの口調で俺は応じる。
ソファに座った態勢のまま右手首を持ち上げると、まろの左手と繋げられたそれがガチャと音を立てた。
ソファの前に立ち尽くしたまま、まろは困ったように眉を寄せる。
「いや、そうやなくて…」と小さくひとりごちた。
「いむしょーがくれたんだよね。おもちゃにしては精巧にできてるって」
「いや、何に使うねんこんなん」
「今まさに使ってるじゃん」
ぐっと少し引っ張ると、まろが小さくバランスを崩す。
ソファに倒れこむように腰を落とし、俺の隣に座った。
「鍵は?」
「ここにはないよ」
「は!?」
「しょうちゃんが午後になったら遊びにくる予定だから、その時持ってくるって」
「はぁぁぁ!?」
今はまだ午前9時を回ったところだ。
午後まではまだ数時間もある。
壁の時計を確認してまろは同じことを考えたのか、繋がれていない方の右手で前髪をクシャリと掴んだ。
「そんな嫌そうにしなくてもいいじゃん。どうせあと数時間だけだし。別に一生このままじゃないし」
「別に嫌なわけやなくて…」
口ごもったまろはそのまま押し黙る。
こうやって遊び始めた俺に何を言っても無駄だってことが分かってるんだろう。
…だって、こうでもしなきゃ今日もきっとまろは俺を見てくれないじゃん。
ほぼ一緒に暮らしてるようなものなのに、最近互いに仕事で忙しくてすれ違いばかりだった。
今日はようやく2人共が休みを取れるはずだったのに、まろは結局家で残された仕事を片付けようとしていた。
しかも夕方からは、大学時代の友達に久々に会うとかなんとか…。
仕事は仕方ないしその友達との約束も大分前からのものだから、俺が文句を言える立場じゃないのは分かってる。
でも今日、俺と一緒にいてくれる時間なんてほとんど皆無だ。
最近生活がすれ違ってばかりだと愚痴った俺に、いむしょーがこの手錠をくれたのは昨日の話だ。
「まろちゃん捕まえちゃえば?」しょうちゃんの言葉は精神的な話かと思っていたのに、なんと物理的な話だったことにはさすがに仰天した。
本物のようなおもちゃを手渡され、俺だって最初は使う気なんてなかったし困惑したけれど。
今日もろくにこちらを見向きもせずに仕事と他の誰かのところへ行ってしまうのかと思うと、頭で考えるより先にその手錠の先をまろと自分に繋げてしまっていた。
ただし、鍵がないのは嘘。
手錠のその小さめの鍵は、今俺のパーカーのポケットに忍ばせている。
午前中だけなら急ぎじゃない仕事には支障は出ないだろうし、友達に会うという夕方よりは早く解放してあげられる。
…だから、今日の午前中…ほんの数時間だけでもいいから傍にいて。
今日は4月1日。
エイプリルフールなんだし、これくらいのかわいい嘘許されるだろ?
「しゃあないなぁ」
苦笑い気味に呟いたまろは、諦めたようにソファに座り直した。
「早くても3時間はあるなぁ。何する? 映画でも見る?」
テレビのリモコンを画面に向けながら言う。
そのリモコンすらも横から取り上げて、俺はローテーブルの上にそっと投げ置いた。
映画なんて見始めたら、それこそ2時間くらいまた俺のこと見向きもしないじゃん。
「……」
言葉で何を言うわけでもないこちらの顔を、まろはまじまじと見つめてくる。
対して俺は、きゅっと唇を引き結び決して声は出さない。
今口を開けば思っていること全てを吐露してしまいそうで耐えた。
…寂しい、なんて。
絶対口にしたくない。
ここのところ忙しすぎて温もりに飢えてたなんて。
ろくに触れ合ってないのはどれくらいだろう。
セックスはもちろん、キスでさえ。
多忙を極めて互いに寝に帰るだけの家は、時間さえずれてしまえば会話を交わす時間すらどんどん減らしていく。
そんなここ数日…いや数週間のことを思い出しては、心がすり減りそうになる。
俺がそんなことを考えているのが分かるのか、まろは俺が雑に置いたローテーブルの上のリモコンを一瞥した。
こちらの意図を汲み取ったらしく、また苦笑いを浮かべる。
「ん」
それから、両手を広げてみせた。
動かした左手首に付随して俺の右手も持ち上がる。
促されるように少しだけまろの方に体を寄せると、繋がれていない方の手がそのまま俺の肩を抱き寄せた。
ぎゅっと抱き締められるけど、苦しさはない。
久しぶりのその距離感からはいつものまろの匂いがして、俺はスンと鼻を鳴らした。
俺みたいに香水にこだわるわけじゃないまろからは、ふんわりと柔軟剤の香りがする。
どんな香水よりも好きなそれに、大きく息を吸って胸に溜めた。
そしてその幸福感に浸るようにゆっくりと目を閉じる。
「……」
俺の頭を撫でる手つきは優しくて、そのまま頬を滑り下りた。
長い親指が唇の縁をなぞり、それを追うように同じ場所をまろの唇が掠めていく。
触れるか触れないか程度のキスがこんなにももどかしいと思わなかった。
深く吸いつくして欲しいのに一向に訪れる気配がない。
「ま、ろ…っ」
焦らすなと、声にしたわけじゃない。
それでも俺の切実な響きの声から伝わったのか、まろは微かに笑みを漏らした。
それから口を少し大きめに開いて、俺の唇にそのまま噛みつくようなキスを落とす。
「…ん…っ」
下唇を食みながら、まろの右手はゆっくりと下へ下りていった。
首筋を執拗になぞり、やがて鎖骨、胸へと順に滑り下りる。
それからパーカーの裾から差し入れられた手は、脇腹を這うように撫でた。
冷たい指先になぞられる感触に、意図せず小さく声が上がってしまう。
歯列を割って侵入してくる舌は、まるで蹂躙するみたいに口内を犯す。
それに必死で自分の舌を絡めるように応じては、自然と腰が捩れた。
ピクリと体が反応するたびに、手錠がジャラリと音を立てる。
普段のキスでは耳にすることもないその音が、より背徳感を演出して…。
そんな非日常感からいつもより簡単に下半身に熱が集中するのを感じたけれど、そんな俺に構うことなくまろが「…あ」と何かを思い出したような声を上げた。
「ちょっと、連絡だけさして」
「…え?」
唇を離し、ゆっくりと体の距離も少し取るまろ。
ソファの脇に投げっぱなしだったスマホを取り出した。
「友達に連絡だけ入れとく。今日行かれへんようになったって」
そう言いながらスマホの画面をスイと操作した。
その長い指を見つめながら、俺は「え?」と囁き程度の声を漏らす。
「友達…会うの夕方じゃなかった? しょうちゃんが鍵持って来てくれたら間に合うじゃん」
「それ、時間変更になって昼前から会うことになったって先週言うたけど…忘れた?」
言われて、「…あ」と情けない声が出た。
…そうだ。確かに先週そんな話をしていた。
仕事で忙しくて、「あーはいはい」なんて適当な返事をしながら聞いてしまった気がする。
「…っ、ごめん、俺…」
瞬時に顔が青ざめるのを実感した。
そんな俺を見て、まろは優しく笑う。
「別にないこのせいちゃうやん。こんな手錠けしかけた上に鍵も昼まで持って来ぇへんしょにだが悪いねん」
…いや…それも嘘で全部俺のせいなんだけど…。
とは、うまく言葉になりそうになくて一瞬黙りこんでしまった。
その間に、まろは相手へメッセージを送信したらしくスマホをロック画面に戻す。
それからまたそのスマホを脇にぽいと投げ、俺の方を振り返った。
「…ないこ?」
その一連の動作を見つめていた俺が微動だにしなくなったことに違和感を覚えたのか、まろが顔を覗き込んでくる。
…違う。そんなことがしたかったんじゃなかった。
自分との時間もなく友達のところへ行かれるのは嫌だったけど、それをやめてほしかったわけじゃない。
感情と理性は別物だ。
まろにどうして欲しいのかという…そんな欲求を押し出そうとする俺を、社会人としての常識を備えた自分が邪魔をする。
友達付き合いも大事で、仕事も大事で。
それが分かっているから、全てを放り投げ出させて自分に向き合わせたいわけじゃない。
そこまで何も知らない無垢な子供になれるほど馬鹿じゃなかった。
ただ、ほんのわずかな一時だけでもいいから俺の方を振り向いて欲しかっただけだ。
「…ごめん、まろ…っ」
こちらに伸ばしかけたまろの手を、ぐっと押し返す。
「嘘…ついた。しょうちゃんが鍵を持って来るなんて嘘なんだ。俺が持ってる」
だから、と言葉を継ぐ。
罪悪感は徐々に積み上がっていき段々とまろの目が直視できなくなってきていた。
「早く行ってあげてよ。昼前に会おうとしてたんならまだギリ間に合うだろ?」
そう言いながら俺はパーカーのポケットに自由な方の左手を突っ込んだ。
「……え?」
ない。入れておいてあったはずの鍵が。
いや、確かにここに入れたはずだから、外で落としてきたわけじゃない。
家の中で落としたとしたら、この辺りかそれか―。
「ないこ」
顔面蒼白でソファの上やクッションをどかして探し始めた俺を、まろが呼ぶ。
いつもの穏やかで低い声よりも少し高めの声。
弾むような軽快さに「今それどころじゃ…」と抗議しかけながら顔を上げて、俺は思わず目を瞠った。
「べ」と舌を出したまろが手にしている物を目に留める。それはしょうちゃんからもらった鍵で、俺のパーカーのポケットに入れていたはずのもの。
「え! 何で!?」
「バレバレやで、ないこの嘘」
いつの間にスリ取られていたのか…。
全く気づいてなかった。
「え、ひどくない!? 俺マジで反省したのに今!」
「どっちが。先に嘘ついたんないこやん。どうせエイプリルフールやからこれぐらい許されるとか、自分に言い訳しとったんやろ」
鍵を取り返そうと手を伸ばすと、まろはスイとそれを避けた。
「もう一個おもろいもん見せようか」
鍵を俺から遠ざけながら、まろはそんなことを言う。
眉間に皺を寄せて見つめ返すと、そんな俺の前にまろは自分のスマホをズイと差し出した。
画面上は誰かとのメッセージのやり取りが表示されている。
名前を見るに、恐らく今日会おうとしていた大学時代の友達ってやつだろう。
顎で促されるままその画面を見やる。
そこには相手側からのメッセージが映っていた。
『ごめん!やっぱり都合悪くなったから明日ナシで!リスケしよ』
送信時間は、昨夜22時頃になっている。
「…え…何これ」
「昨日の時点で俺の今日の予定は白紙やったってこと」
「え、騙してんじゃん! 嘘じゃん!」
「エイプリルフールって怖いよなぁ。騙したつもりが騙されることもあるもんなぁ」
はは、と声を立てて笑うまろを、むぅっと唇を尖らせて睨みつける。
そんな俺の目線にわずかのダメージすら喰らうことなく、まろはこちらに手を伸ばした。
子供にするみたいに、ガシガシと俺の髪を乱暴に撫で回す。
「そんで、どうする? これ外してどっか出かけて休みを満喫する?」
手錠を指してそう言い、それとも…とまろは悪い大人の顔で続けた。
「これつけたまま、1日中ここにおる?」
俺に決断させるように、まろは今度は持っていた鍵をこちらの手に委ねる。
ぽとんと手の平に落とされた鍵を見つめてから、俺は迷うことなくそれをローテーブルの上に投げた。
今まですれ違いばかりだった分を埋めるように、どろどろに溶かされるまで愛してもらおう。
エイプリルフールの嘘から抱いた罪悪感なんて消え去り、俺はまろの頬に手錠をつけたままの手を甘えるように伸ばした。
コメント
2件
エイプリルフールならではですね...✨✨ せっかくの日に見れなかったのが悔しいです😣桃さんの一緒に居たい気持ちと社会的に考える気持ちが入り交じっているのが大人の思考ですよね...感情を詳しく書けるあおば様がしっかりなさった方なのだろうなと勝手に思っております🙌🏻︎💕事前に予定空けてて青さんが1枚上手なのは解釈一致すぎます😸💓
やっぱり青桃はいいですね! 桃さんの気持ちをくみとれる青さんも嘘をついちゃってあやまっている桃さんの行動も2人の絆からなんですかね、! でもやっぱり青さんがリードしてる感じが好きです!