「よォ、ぼろぼろのお兄さん。こんなとこでどーしたの、俺で良かったら話聞こうか?」
繁華街の路地裏。明るい大通りと打って変わって汚れきった影みたいな場所で項垂れていた僕に、その男は手を差し伸べてきた。
胡散臭いチャイナ服着た、微かに甘ったるいハーブのような匂いのするその男は所有しているという店に連れて行って暖かい茶を飲ませてくれた。一口茶を啜ると何だか鼻の奥がツンとして、ボロボロと涙を零しながら僕は洗いざらい今しがた降り注いだ不幸を吐いた。
「濡れ衣で会社を首になった挙句彼女には振られ、押し付けれた借金を刈り取りに来たヤーさんに追い回されてるって?そりゃあひでぇ話だなぁ…」
一通り話を聞いた男は、僕の話した支離滅裂な説明を纏め上げるように口にした。改めて、口にされた事実が胸に響いてズンと重くのしかかってくる。
「まぁそう嘆きなさんなって。これやるから元気だしな」
再び嘆きそうになった口に押し込まれたのは飴だった。
こんなもので元気が出るか、と思ったが口に広がる甘さに段々と目が覚める気分になってくる。
「な?気分良くなってくるだろ?それ俺が作ってるちょっと高いヤツなんだけど…ま、金は今度でいいさ。今回は初回サービスな」
にっこり笑って何だか含みのある物言いをする男に危ないものなんじゃないか、なんて思考がよぎるが段々とふわふわしてくる頭では疑心なんてのは保てなくて、ひとまず次があるのか、と問いかける。
「嗚呼。あんたは絶対また欲しくなる。また待ってるぜ、次は金をたんまり持ってこいよ。…じゃないと仕事を斡旋してやらなくちゃあいけなくなるからな」
そう不敵に笑った男の言葉の意味を、僕は案外早く知ることになる。
彼は、夜のチャイナタウンを縄張りにしたギャングの犬だったのだ──…。
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今夜も来たのかぁい