テラーノベル
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音楽番組の共演がきっかけで
風磨くんは涼ちゃんに近付くようになった。
風磨くんは、それから露骨だった。
「藤澤くん、このあと少し時間ある?」
スタジオの廊下。
収録終わりのざわついた空気の中。
涼ちゃんは困ったように笑う。
「え、僕?」
「うん。キーボードの話、もっと聞きたくて」
自然な口調。
でも視線はまっすぐ。
僕は少し離れた場所でそのやりとりを見ている。
――なんでこんなに胸がざわつくんだろう。
涼ちゃんは悪くない。
ただ話しかけられてるだけ。
若井は隣で腕を組んでいる。
「わかりやすいな」
小さく呟く。
「……何が」
「本気だよ、菊池さん」
その言葉で、背中がひやっとする。
本気。
冗談じゃなくて?
風磨くんは僕とも仲がいい。
映画で共演して、信頼関係もある。
だから余計にやりにくい。
「藤澤くん、連絡先交換しない?」
その瞬間、空気がゆっくり重くなる。
涼ちゃんは一瞬だけ、僕たちを見る。
迷ってる。
――断ってほしい。
心の奥で、子どもみたいな願いが膨らむ。
でも三人で付き合ってる僕たちは、
外では“普通の友達”。
止める理由がない。
涼ちゃんは小さく言う。
「仕事の話なら、グループのアドレスで……」
遠回しな拒否。
でも風磨くんは笑う。
「俺は個人的に仲良くなりたい」
その一言が、はっきりしている。
若井が一歩前に出る。
「涼ちゃん、無理して交換しなくてもいいんだよ」
優しい声。でも芯がある。
風磨くんがちらっと若井を見る。
「どうかした?」
「涼ちゃん今日疲れてるんで。」
それは事実。でも本音じゃない。
涼ちゃんは少し俯く。
――僕のせいで、二人がピリついてる。
そう思っている顔。
僕は我慢できずに言う。
「風磨くん、涼ちゃんは優しいから断れないだけ」
風磨くんが目を細める。
「優しい人ほど、ちゃんと選ぶはずだよ」
静かな挑発。
心臓がうるさい。
もし、涼ちゃんが“外”を選んだら?
三人でいる安心は、壊れる?
涼ちゃんがそっと口を開く。
「風磨さん」
声はいつも通り、やわらかい。
「僕、今大事な人たちがいるんです」
空気が止まる。
風磨くんの表情が変わる。
「彼女?」
涼ちゃんは少しだけ笑う。
「秘密です」
それ以上は言わない。
でも十分だった。
「だからまたいつかにしましょう」
風磨くんは数秒黙って、肩をすくめる。
「そっか。なら仕方ない。またいつか、ね。」
引いた。
けれど完全には諦めていない目。
去っていく背中を見ながら、僕はやっと息を吐く。
楽屋に戻ると、涼ちゃんがぽつりと言う。
「はぁぁ、、怖かった、」
「何が」
若井が聞く。
「選ばなきゃいけない感じが」
胸がきゅっとなる。
涼ちゃんは続ける。
「僕は二人を選んでるのに、 外から
“もっといいかも”って言われると、少し揺れる」
正直すぎる。
でも、それが涼ちゃん。
僕は思わず言う。
「揺れてもいいよ。でもちゃんと戻ってきて」
涼ちゃんが目を丸くする。
若井も小さく笑う。
「戻る場所はここね。」
涼ちゃんの目が潤む。
「……ずるい」
「何が」
「二人とも、ちゃんと好きって言わなくても伝わる」
僕は照れながら小さく言う。
「言うよ。好き」
若井も静かに続ける。
「俺も」
涼ちゃんは顔を赤くして、でも笑う。
「僕も」
外の世界は広い。
誘惑もある。
でも三人でいるときの安心は、
他の誰にも作れない。
風磨くんはきっと、まだ諦めてない。
でも涼ちゃんはちゃんと選んだ。
それだけで、今は十分だった。
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