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夜の湿った空気が、皮膚にまとわりつく。
任務を終え、基地への帰還ルートに入っていた私は、
足元の落ち葉が不自然に揺れた瞬間――反射的に横へ跳んだ。
直後、その場所を鋭い刃が抉った。
「伏兵……っ!」
木々の影から飛び出した男。
暗視ゴーグルの反射。戦場に慣れた気配。
こいつ、ただの追跡者じゃない。
私は腰からナイフを抜き取り、迎撃に転じる。
金属と金属が噛み合う音が、夜の森に乾いた火花を散らす。
「っ……この動き、素人じゃないわね……!」
互角。
相手の体幹のぶれも、刃さばきも、隙がない。
私は一歩踏み込み、連続突きを叩き込む。
だが伏兵は体をひねり、刃を立てて受け流す。
喉元へ斬り上げがくる。
ギリギリで避けたが――
**ビキッ。**
嫌な感触が手に走った。
「……え?」
右手のナイフが、根元から折れていた。
(一撃で……? この男、ナイフの質か腕か、それとも――)
息が詰まる。
刃を失った私に、伏兵が間合いを一気に詰めてくる。
避けられない。
体勢が崩れている。
胸元に突きつけられる刃。
終わる。
そう思った瞬間――
**ドシュッ。**
乾いた衝撃音と同時に、伏兵の体が前につんのめった。
「……え?」
伏兵の額に、小さな穴が開いていた。
そして、ゆっくりと倒れる。
私は思わず数歩後退し、呼吸を整えた。
その時。
木立の奥から、足音が聞こえた。
「……やれやれ、無茶するネェちゃんだ」
その声は、どこか懐かしい渋みがあった。
月明かりに照らされながら、
古びた外套を羽織った老人が姿を現した。
「誰…?」
私は驚きを隠せずに問いかける。
老人は伏兵の死体を軽く見下ろし、ふっとため息を漏らした。
「こんな森の中で、丸腰同然で斬り合いなんざ…
危なっかしくて見てられん。
だが――よくやった。
**綺麗なネェちゃん**、腕は確かだ」
「っ……!」
不意を突かれたように胸が熱くなる。
褒められ慣れているつもりだったのに、
この老人の声音には、どこか心の奥を掴む重さがあった。
(な、なにこれ……照れてる? 私が??)
「お、お世辞なんて……いらないわよ……」
声が震えた。
老人は肩をすくめて笑う。
「ふん。照れる暇があるなら、
その折れたナイフの代わりでも探しとけ。
命は一つしかないんだ」
まるで孫にでも言うような口調。
しかしその目は鋭く、戦場の獣のままだ。
「……助けてくれて、ありがとう」
そう言うと、老人は背を向けながら手を軽く振った。
「礼はいらん。
――お前は、まだ死ぬには惜しい **綺麗なネェちゃん** だからな」
再び胸が跳ねた。
こんな感情、いつ以来だろう。
私は思わず、その背中をしばらく目で追ってしまった。
夜の森に溶けるように、老人の姿は静かに消えていった。
灼熱の砂漠。
任務を終えて拠点へ戻る途中、俺は霞む水平線に妙な動きを見つけた。
「……ん? なんだあれ」
蜃気楼みたいに揺れながら、**人影が砂をかき分けて前へ進んでいる。**
いや、これは——
「クロール……?」
砂の上で。
完全に水泳。
俺は一瞬目を疑ったが、近づくほど現実は俺の希望を打ち砕いた。
「マリア……お前また何してんだよ……」
マリアは息を切らしながら、真剣そのもので砂漠を泳いでいた。
「ふっ……見てなさい陽菜……!
**砂漠水泳トレーニング**よ! 新発明なの!」
「発明すんなよ!!」
俺が叫ぶと、マリアはキラッとした目を向けてくる。
「陽菜、あなたも参加しなさい。さぁ、着替えて!」
「いやだ!!」
と言った俺の抵抗は、もちろん無視された。
「ちょっと待て!! なんでビキニ!!」
「水泳なんだから当然でしょ?」
「ここ砂漠だろ!? 海ないだろ!!?」
マリアは胸を張る(※誇らしげに、の意)。
「砂漠を泳げれば、どこだって泳げるわ!」
「理屈ぶっ壊れすぎてる!!」
それでも力づくで押され、俺は渋々ビキニ+戦闘ブーツという謎の装備で砂漠に立たされた。
ザザッ……
砂の向こうからひょっこり姿を見せたのは、当然のようにあいつだった。
**情報屋(ジャッカル)。**
右手にはスマホ。
左手には、リンゴ。
そして無言で……**録画開始。**
「Mrs陽菜、楽しそうだな」
「た、楽しそうに見えるか!? 俺は今、人生最大の羞恥を味わってるんだが!!」
ジャッカルは一切表情を変えず、淡々と言う。
「安心しろ。後でちゃんと編集して暗号化しておく」
「編集するな!! そもそも撮るな!!」
マリアはジャッカルの姿に気づいた瞬間、
なぜか背筋をピンと伸ばし、頬を赤らめた。
「ジャッカル……見てたのね……!」
ジャッカル「……乳のデカイ女、砂漠に埋まるぞ」
「も、もう……そんな呼び方して……!」
(※マリアの顔が危険な方向にとろけていく)
俺は心から思った。
ほんとこの人、戦場以外ではダメだ。
■砂漠水泳トレーニング開始
「はい陽菜、クロールよ! 腕を大きく!」
「砂重いんだけど!? 全然進まないんだけど!!」
「気合いよ!!」
ジャッカルは遠くで淡々とスマホ撮影。
たまにカメラ位置を変えつつ、ずっと無表情。
「……Mrs陽菜、腕の角度が甘い」
「お前は撮影やめろ!!」
「俺は撮影係じゃない。記録係だ」
「もっと悪いわ!!」
俺は砂に倒れ込み、息が上がっていた。
「死ぬ……これ本気で死ぬ……」
マリアは満足そうに頷き、
「陽菜、次は**砂漠バタフライ**よ」
「やらねぇよ!? バタフライって砂跳ねるだけだろ!!」
ジャッカルは録画を止める。
「……まぁ悪くない動きだった。Mrs陽菜」
「褒められても全然嬉しくねぇ!!」
そんな俺をよそに、マリアは再びジャッカルを見つめて幸せそうにため息。
ジャッカルは完全に無視して、
砂漠の向こうに消えていった。
「相変わらず……素っ気ないんだから……」
(マリア、顔がトロけてるぞ…)
俺は呆れ果てながら立ち上がり、
次の任務へ向けて帰路についた。
■砂漠の真ん中 ― マリアの奇行再び
任務帰りの陽菜(俺)は、灼熱の砂漠を歩きながら、視界の端に妙な動きを捉えた。
――バシャッ……バシャッ……
「……あ? 水、ねぇよな?」
砂丘の向こう側で、マリアが腕を大きく回しながら“平泳ぎの動き”で砂をかいていた。
「**砂漠水泳よ! 新しい全身トレーニング!**」
マリア(私)は胸を張って言った。
俺は額を押さえた。
「また…いや、頭おかしいって」
だがマリアは強引だった。
「さあ、陽菜! ほら、着替えて! トレーニング開始よ!」
半ば強制的にビキニを渡され、俺は顔から火が出るような思いで着替えさせられた。
「いや、また
なんで俺まで……!」
そこへ――
砂丘の上からスマホを構えているジャッカルが姿を現した。
無言でパシャパシャ連写している。
マリアはトロけそうな顔で
「ジャッカル……」
と呟くが――
ジャッカルは完全に無視して、陽菜(俺)の方ばかり撮っていた。
「**Mrs陽菜、日焼け止めは塗ったか?**」
「撮るなぁぁぁーー!!」
俺が叫ぶ中、ジャッカルは静かにズームしていた。
■その時、背後に気配
突然、砂風が止まり、背後から乾いた声がした。
「……また奇妙な鍛錬しておるな、綺麗なネェちゃん」
マリアが振り返ると、そこには老人傭兵――ジャッカルの祖父が立っていた。
「ろ……老人さん!? 私の訓練を見てたの?」
「ああ。まあ、ようやるわい。怪我はなかったかの?」
その声には、前回マリアを救ったときと同じ穏やかさがあった。
マリアは照れながら
「ありがとうございます、あの時は……」
と礼を言った。
老人傭兵は静かに頷き、ジャッカルを見る。
「…あやつも、また誰かを気にかけておるようじゃな」
マリアは思わず聞いた。
「ねぇ……おじいさん。情報屋――ジャッカルって、何が好きなの?」
老人は顎髭を触りながら答えた。
「**ドルマじゃ。あやつは昔から、儂の作るドルマをよく食べおった。**
……あれを食わせれば機嫌がええ」
「ドルマ……?」
マリアは首を傾げた。
「中東の家庭料理の一つじゃよ。葡萄の葉で肉と米を包んだもんじゃ」
マリアの目が輝く。
「なるほど……ジャッカルに作れば、私を見る目もちょっとは変わるかもしれない……!」
老人は苦笑した。
「孫は頑固者だ。じゃが、悪い奴ではない。……どうかあやつのそばにいてやってくれ」
マリアは胸を叩いた。
「任せて! 乳のデ……いや何でもない! とにかく私がなんとかするわ!」
「言いかけたじゃろ、今」
老人は吹き出した。
■市場へ走るマリア
マリアは陽菜を連れて砂漠の小さな市場へと走った。
「急ぐわよ、陽菜! ドルマの材料よ!」
「ま、待てってマリア! 俺まだ砂まみれだっての!」
老人傭兵はその背中を見送りながら、深く息を吐いた。
「……あの孫は危なっかしい。
陽菜を守る役目もある。
…どうか皆、生き延びてくれればいいがな」
風が吹き、砂が舞う。
老いた傭兵の目は不安と愛情と、戦場で生き抜いてきた者だけが持つ静かな決意に満ちていた。
■ 情報屋の秘密拠点へ
夕暮れの砂漠に風が吹き、テントの布がぱたぱたと揺れていた。
私は――マリアは、まだ温かい鍋ごと包んだドルマを胸に抱え、情報屋(ジャッカル)の秘密拠点へ足を踏み入れた。
「よし、上出来。」
試作を繰り返し、味は完璧。
あの無愛想な情報屋の好物だと聞けば、作らずにはいられなかった。
入口の前で深呼吸し、私はドアをノックする。
ガチャ。
薄暗い部屋の中で、情報屋(ジャッカル)が例のリンゴを手にしたまま顔を上げた。
「…何の用だ、乳のデカ――」
マリア
「その呼び方はやめろって言ってるでしょう!今日は差し入れを持ってきただけ!」
情報屋は無表情のまま、鍋に目を移した。
「……これは?」
「ドルマ。あなたの好物なんでしょ?」
情報屋(ジャッカル)の険しい目が、ほんの一瞬だけ揺れた。
「……置いとけ。」
むすっとしながらも、彼は鍋の蓋を開けた。
次の瞬間、わずかに鼻が動き、視線が真っすぐドルマに吸い寄せられる。
陽菜が後ろからひょっこり顔を出す。
陽菜
「よっ、ジャッカル。マリアが徹夜で作ったんだぞ。ほら、食ってみろよ。」
情報屋は陽菜をちらりと見る。
「Mrs陽菜、余計なこと言うな。」
そう言いながらも、彼はフォークを手に取り、一口。
――噛んだ瞬間。
「……」
表情は変わらない。
だが、明らかに噛む速度が上がった。
陽菜
「お、気に入ったな?」
情報屋
「…悪くない。」
その小さな一言に、私は胸がじんわり温かくなるのを感じた。
だが次の瞬間。
情報屋
「今日からお前は――**ドルマの女** だ。」
マリア
「…は?」
陽菜
「ブハッ!!あっははははははは!!」
私は思わず拳を握りしめた。
「誰がドルマの女よ!!」
陽菜は腹を抱えて笑い転げている。
「だ、だって!マリア……いや、**ドルマの女**…あはははっ!!」
情報屋は本気で何が悪いのか分かっていない様子で、淡々とドルマを食べ続けていた。
「喜べ。乳のデカイ女よりは上等だ。」
「比較の基準がおかしいのよ、あんたは!!」
怒りで顔が真っ赤になる私を見て、陽菜はさらに笑い転げる。
情報屋は最後の一個まで平然と食べ終えると鍋を置き、
「……悪くない。気が向いたらまた持ってこい。ドルマの女。」
「だからその呼び方やめろって言ってるでしょう!!」
陽菜
「マリア…いや違うか。ドルマの――ぐふっ…!!」
私は陽菜の頭に軽くチョップを入れた。
「笑わない!!」
■ その夜、砂漠の外で
拠点を出た後、私はため息をついた。
「……はぁ。でも気に入ってくれたみたいね。」
陽菜
「おう。あれは本気で好きな顔だったな、ジャッカル。」
「顔は無表情だったけど…なんとなく分かるわ。」
陽菜は肩をすくめる。
「しかしマリア、いい名前もらったな。」
「陽菜、黙れ。」
「はい。」
■ 拠点の奥では
情報屋(ジャッカル)はふっと小さく笑った。
「……ドルマの女、か。」
彼にしては珍しく、ほんのわずかに口元が緩んでいた。
だがそれを誰も見てはいない。
砂漠の朝は、夜の冷気をまだわずかに残していた。
低く伸びる影の中を、俺は一人歩き続けていた。
今回は“完全単独任務”。
援護も仲間の声もない。ただ、砂の擦れる音と、自分の呼吸だけが頼りだった。
装備はいつも通り――
**AK74、M9、火炎瓶、手榴弾**。
重さは感じない。感じていたらとうに死んでる。
目的はただ一つ。
敵勢力の通信拠点を破壊し、データを持ち帰ること。
■ 砂丘越しの最初の銃撃戦
——パスッ。
耳元を掠めた弾丸で、俺は即座に砂丘の影に飛び込んだ。
(またかよ…単独任務だと歓迎が手厚いな)
砂上に伏せ、砂の隙間から覗くと、岩陰に三人。
距離はまだある。俺は迷わずAKを構えた。
短く息を吸い、指を引く。
**ダダッ、ダンッ!**
一人、倒れる。
二人目が回り込もうと動くが、その一瞬の影の揺れを俺は見逃さない。
**ダダッ!**
砂煙が立ち、静かになった。
(よし。まだ行ける)
俺は身体についた砂を払うと、前へ進んだ。
■ 施設前の激戦
通信施設の前は、思った以上に守りが固かった。
小屋の屋上、廃車の裏、バリケードの影…最低でも10はいる。
(正面突破は…まぁ、やるしかねぇか)
俺は深く息を吸い、砂の斜面を駆け下りながら銃を連射した。
**ダダダダダッ!**
砂煙が弾け、敵の視界が一瞬にして奪われる。
その隙に俺は廃車の裏へ転がり込み、M9を抜いた。
影が近い。
**パンッ!**
一歩踏み込んできた敵を倒し、俺は火炎瓶を取り出した。
(まとめて静かにしてろ)
施設入口へ向かって投げる。
**パリン——!!ゴォォッ!**
炎が走る。敵の足が止まった。
(今だ)
俺は再びAKを握り、炎の向こうの影を一人ずつ確実に撃ち倒していった。
■ 施設内部 ― 孤独の静寂
中に入ると、一気に静かになった。
電源機器の唸りだけが空気に漂っている。
(こういう静かな場所、嫌いじゃないけど……嫌な予感しかしねぇんだよな)
データ端末を探し、USBデバイスを差し込む。
起動までの10秒。
この“たった10秒”が、やたら長く感じる。
——そのとき、背後で気配が動いた。
素早く振り向き、M9を構える。
**パンッ!**
影が床に倒れた。
(終わりにしてくれよ…ったく)
データ抽出完了。
俺は深く息をまとい、施設の奥の非常扉から外へ出た。
■ 砂嵐の中の撤退戦
外に出た瞬間、砂嵐が吹き荒れていた。
視界はほぼゼロ。だが、音と気配だけは鮮明だ。
(追手か…まぁそりゃ来るわな)
砂の中から複数の足音。
俺はしゃがみ、わずかな気流の変化で敵の位置を読む。
**ダダッ!**
砂煙の向こうから叫び声が上がる。
別方向からも足音。
俺は手榴弾のピンを抜き、投げた。
**ボフッ!**
低く、重い爆発。
砂嵐が爆風を吸収し、煙も火もほとんど見えない。
(好都合だ)
俺は嵐の中を潜り抜け、敵の包囲から離れていく。
■ 夕陽の中の帰還
砂嵐を抜けた頃には、夕日が赤く砂漠を照らしていた。
(帰ったら…マリアに怒られっか。ジャッカルには“Mrs陽菜、また無茶を”って言われるんだろうな)
なんだかんだで、あの二人の顔を思い浮かべると、少しだけ肩の力が抜けた。
俺は汗と砂にまみれたAKを持ち直し、長い帰路へと歩き出した。
一人で進み、一人で戦い、一人で帰る。
それでも——
(まぁ、悪くねぇな)
夕日に照らされながら、俺はゆっくり歩き続けた。
◆ 旅立ち ― 砂漠に消える二つの背中 ◆
任務を終え、砂漠の夕焼けを背にしながら、
俺は情報屋――ジャッカルの拠点へ向かった。
砂埃の匂い。乾いた風。いつもの光景のはずなのに、胸騒ぎがした。
扉を開けた瞬間、俺は息を呑む。
拠点の中央で――
**ジャッカルと黒崎健太がフル装備で立っていた。**
ジャッカルの装備は極端に少ない。
シルバーのデザートイーグル1丁と、投げナイフだけ。
必要最低限、だが、彼らしい。
黒崎健太――さすらいの武器商人。
俺の父でもある男は、
**カスタムFNFAL、両腰にデザートイーグル2丁、ナイフ。**
まるで戦場の亡霊みたいな重厚さだった。
「……どこ行く気だよ、二人とも」
声が震えた。疲れていたからじゃない。
なんとなく、分かってしまったからだ。
黒崎がゆっくり振り返る。
「陽菜。少し旅に出る。こいつと、な」
ジャッカルはリンゴを指先で転がしながら、
俺の方を見た。
その表情は――珍しく弱さを帯びていた。
「Mrs陽菜……悪いな。
今回は、俺は…お前のそばにいられねぇ」
胸に鈍い痛みが走る。
「…何でだよ。ジャッカル、お前はいつも勝手すぎんだよ」
「勝手? そうだな」
彼は苦笑した。
「でもよ。俺はずっと、お前を守り続けるつもりだった。
だけど……どうしてもやらなきゃならねぇ仕事ができた」
黒崎が横目でジャッカルを見て、軽く頷く。
「こいつはな、陽菜。自分のケリをつける時が来たんだよ」
ジャッカルが続ける。
「安心しろ。
俺は強ぇし、先生も無駄に丈夫だ。帰って来れたら、また会おうぜ」
そう言うと、彼はまるで照れ隠しのように、
俺の肩を軽く叩いた。
「Mrs陽菜。
次会う時、お前がもっとデカくなってたら……
少しは俺も誇れる」
「……バカ言えよ。俺はもう十分強いだろ」
「まだ足りない。だから――」
ジャッカルは、ふっと優しい声で言った。
「もっと強くなれ」
夕陽が砂漠に沈みかけ、影が伸びる。
黒崎健太が銃を肩に担ぎ、
「行くぞ、ジャッカル」
「はい」
二人は背を向けた。
乾いた砂を踏む音が遠ざかっていく。
俺は追いかけたい気持ちを、必死に押し殺した。
呼び止めてほしいと思っていたのかもしれない。
けど――彼らは振り返らなかった。
最後に、ジャッカルが手をかざした。
振り向かずに。
そのまま、二つの影は砂漠の彼方へ消えていった。
静寂だけが残る。
俺は、立ち尽くしたまま呟く。
「…また、ひとりかよ。俺は」
砂の匂いが、やけに冷たかった。
けど胸の奥に、強く灯るものがあった。
**もっと強くなれ――ジャッカルの言葉だけが、何度も響いていた。**
俺は拳を握った。
「ああ。分かったよ。
どうせなら、世界一強くなってやるよ…ジャッカル」
風が吹き、砂が舞う。
孤独は、俺をまた前に進ませる。
あの二人が砂漠の彼方に歩き去っていったあと、
俺はしばらくその場から動けなかった。
風の音だけが、耳の奥でひたすら吹き付けていた。
「……行っちまった、か」
情報屋の秘密拠点に戻ったのは、日が地平線へ沈みかけた頃だった。
小さなコンテナ。
砂に半分埋もれたジェネレーター。
壊れかけの水タンク。
散らばった工具。
誰も座らなくなった椅子。
どれも全部、ジャッカルの“気配”だけを残して空っぽだった。
俺は、その中央にぽつんと置かれた木箱に腰を下ろし、うなだれた。
胸の奥が重い。
まるで弾丸でもめり込んでいるみたいに息がしづらい。
「くそ。何だよ。俺には関係ねぇはずだったのに」
言葉が勝手に漏れていく。
仲間はいらない。
独りで戦えばいい。
誰にも頼らず、誰も守らず、誰にも縛られず生きればいい。
ずっと、そう思っていた。
なのに――。
ジャッカルの声が蘇る。
『Mrs陽菜。今回の任務の帰りは遅かったな』
『……無茶すんなよ』
『お前は意外と、死に急ぐタイプだ』
あいつのふざけてんのか本気なのか分からねぇ口調。
あの妙に優しい、けど絶対にこっちを見ようとしない目線。
いつもリンゴばっか見てる変な癖。
全部、全部、胸にひっかかって離れてくれない。
俺は大きく息を吸い、吐いた。
吐いた息が震えていたのが、むかつく。
「…はっ。何だよこれ。俺、こんなに弱かったか?」
言ってから、黙り込んだ。
砂漠の風が、コンテナを揺らす。
ギィ、と小さく軋む音が、妙に胸に刺さる。
俺は目を閉じた。
孤独なんて慣れてるはずだった。
誰にも頼らずに生きてきた。
生き延びてきた。
それが俺の当たり前だったのに。
ジャッカルが現れて、
マリアがそばにいて、
気づけば俺は――
**仲間がいる世界を、知ってしまった。**
「…強がりだったんだな。全部」
声に出すと、胸の奥の痛みが少しだけ広がる。
痛いけど、逃げられない現実だった。
仲間なんていらない。
誰かに頼るなんて間違いだ。
そんなの弱い奴がすることだ――。
今思えば、あれはただの“言い訳”だった。
「俺は…弱いんだよ。本当は」
つぶやきながら、顔を覆った。
涙ではない。
けれど、喪失感が胸を深くえぐった。
ジャッカルはもういない。
あのふざけた声も、
あの妙に鋭い視線も。
俺の背中を勝手に守ってくれた日々も。
全部、砂漠の向こうへ消えていった。
残されたのは―この静かすぎる拠点と、俺だけ。
「…また、独りに戻っちまったんだな」
風が強く吹き、砂が舞った。
俺の返事を代わりにするように、ドアがギィッと鳴いた。
その音だけが、やけに近くて、寂しかった。
陽菜はその場で目を閉じた。
砂漠の夜が静かに降りてくる。
孤独の重みを全身で受け止めながら――。
**その弱さを、初めて認めて。**
そして、ゆっくり拳を握った。
痛みも喪失も、前に進む力に変えるために。
砂漠の風が、何もない情報屋――ジャッカルの秘密拠点へ砂を吹き込み、薄暗い室内で俺は膝を抱え込んでいた。
もう、あの無愛想な背中を追いかけることはできない。
旅立ったジャッカルと、父であるさすらいの武器商人――黒崎健太。
「俺は、一人でいい。ずっとそう思ってたはずなのに」
声にすると、胸の奥がひどく痛んだ。
仲間なんかいらない、相棒なんか必要ない。
そう思い込んできただけだった。
ジャッカルがいなくなって初めて、
俺は――自分がどれほど弱かったのか突きつけられていた。
その時だった。
ガチャ、と扉が開く微かな音。
「陽菜、ここにいたのね」
振り返った俺は、思わず息を呑んだ。
そこに立っていたのは――
いつものビキニでも、砂漠トレーニングを叫んでくる
変人スナイパーでもない。
スカーフを巻いた戦闘服姿の **マリア** だった。
背にはTAC-338。
腰にはM45A1。
肩にはスモークとナイフ。
気迫と覚悟を纏った、見慣れない“任務のマリア”がいた。
「……マリア?」
「私もね、一人で動くことにしたの。
また、あの頃みたいに。自分の足で、やるべきことを探すつもり」
「ふざけんなよ……。なんでだよ…」
俺は立ち上がり、マリアの肩を掴んだ。
その手が震えていたのは、
砂漠の冷え込みのせいじゃなかった。
「行くなよ……。俺、もう……また一人になるのは嫌なんだよ」
「陽菜。あなたは強いわ。でも……強い人ほど、一人で抱え込むの」
マリアの声は優しく、しかし決して揺らがなかった。
「…これ、あなたに」
マリアは胸ポケットから、小さく折り畳まれた薄い紙切れを取り出して俺に手渡した。
「…何だよ、これ」
「読めば分かるわ。
私は、あなたのそばにいたこと――後悔してないから」
マリアは微笑みも見せず、ただ凛とした瞳で俺を見つめた後、
「じゃあね、陽菜」
そう言い残し、背を向けた。
砂漠の風にスカーフが揺れ、
その細い背中が遠ざかっていく。
「……マリア……っ!」
叫んだ声は砂に吸い込まれ、届かない。
俺はその場に崩れ落ちた。
手の中には、マリアが残した薄い紙切れ。
涙が止まらなかった。
ジャッカルがいなくなり。
マリアが去り。
父も姿を消し。
静まり返った秘密拠点で、
俺はただ、二人の温もりの残り火にすがるように、
ずっと泣き続けていた。
――そして、砂漠に夜が落ちていく。
独りぼっちの俺を、優しく、しかし容赦なく包み込んで。
砂漠の風が、乾いた布を引きちぎるような音を立てながら吹き抜けていく。
俺は、情報屋――ジャッカルの秘密拠点にひとり残されていた。
さすらいの武器商人・黒崎健太とジャッカルが旅立ってしまった後の拠点は、
まるで誰かの魂が抜け落ちたように静かだった。
俺は、膝を抱えたまま、マリアから渡された“薄い紙切れ”を握りしめる。
数度折られたその紙には、短い言葉と、裏面にシンプルな地図。
何度
読んでも胸が締めつけられる。
『陽菜へ——これからも、私の背中を追いなさい。
私は、あなたの道を遮らない。ただ…進みなさい』
もっと強く引き止めればよかった。
マリアの手を掴んででも、止めるべきだったのかもしれない。
だが、もう遅い。
紙の裏の地図を見つめていると、
胸の奥に小さな火が灯る感覚があった。
――行くしかない。
俺は立ち上がり、紙切れを握りしめたまま、地図の示す方角へと歩き始めた。
■ **地図の場所へ**
地図の場所は、拠点から少し離れた、荒野のど真ん中だった。
砂ばかりの何もない場所。
だが、紙に書かれた“×印”は、確かにそこを示していた。
「……ここ、で合ってるよな」
腰を落とし、地面を掘り始める。
砂は軽く、シャベルがなくても手で掘れるほど柔らかかった。
だが、掘っても掘っても、何も出てこない。
諦めかけたその時——
コンッ、と硬いものに触れた。
胸が高鳴る。
俺は焦るように砂を払い、金属製のケースを掘り出した。
重い。
しっかりした軍用ケースだ。
震える指先でロックを外し、ゆっくりと蓋を開ける。
——その瞬間、息が止まった。
ケースの中に横たわっていたのは、
**新品のM16A4。**
それも
ただのM16A4じゃない。
* ACOGスコープ(4x)
* レーザーサイト
* フォアグリップ
* 整備されたばかりの上質な黒いボディ
そして——
銃には、あの **赤いスカーフ** が丁寧に巻かれていた。
それは、マリアがずっと身につけていた、風のように舞うスカーフだった。
指が触れた瞬間、胸の奥で何かが爆発したかのように熱くなる。
俺は、その場で膝をついた。
「……マリア……何で、こんな…」
言葉にならない。
喪失感で押し潰されそうだった胸の穴に、
スカーフの赤がゆっくりと灯りをともしていく。
マリアは、俺に“前を見ろ”と言い残した。
そして、背中を押すように銃を残していった。
——わかってる。
止まってちゃいけない。
でも、でもよ。
「……ありがとな、マリア」
声が震えていた。
風が吹き、スカーフの端がそっと揺れた。
その揺れが、まるでマリアが俺の肩を軽く叩いているかのように思えた。
■ **再び、一人で戦場へ**
俺はM16A4を抱え、ゆっくりと立ち上がる。
銃は手に吸いつくように馴染んだ。
重さも、長さも、すべてが“俺のため”に調整されたようで、
泣きそうなほど嬉しかった。
「行くよ。マリア。ジャッカル。父さん。」
俺はスカーフの巻かれたM16A4を肩に担ぎ、
砂漠の夕陽へと向かって歩き出す。
たとえ誰も横にいなくても、
もう俺は孤独じゃない。
胸の中に、皆がいる。
そして俺は、再び戦場へ――
ひとりで、だけど確かに強くなった足で、向かうのだった。
砂漠の空は雲ひとつなく、乾いた風が熱を運んでいた。
俺は岩陰に身を伏せ、マリアが残してくれた **M16A4** を握りしめる。
ストックに巻かれた、あの赤いスカーフが指先に触れる。
「……任務開始だ」
今回の任務は、敵武装勢力が占拠している通信基地の制圧。
味方支援なし。仲間もなし。完全単独潜入。
俺にとっては珍しいことじゃない…
そう思っていたはずなのに、胸の奥には妙な空虚感が渦を巻いていた。
情報屋――ジャッカルはいない。
マリアは去った。
*これが、俺が望んでいた“孤独”だったはずだろ。*
そう自分に言い聞かせて、俺は前へ進み出した。
■砂漠の狼煙
監視塔の影が伸びる距離にまで近づいたとき、
突然、砂が跳ね、弾が俺のすぐ脇を掠めた。
「クソッ!」
すぐに遮蔽物に身を投げ出し、M16A4を構える。
Acogスコープ越しに索敵すると、
砂丘の向こうから敵歩兵が3名、散開しながら接近してきていた。
俺は呼吸を整え、トリガーを引いた。
**ダンッ! だンッ!**
一人、二人と膝をつく。
残った一人が必死に走り、スモークを放って距離を詰めようとしてきた。
「させるかよ!」
反射的3発撃ち込む。
敵が砂の上に倒れ込む。
だが―問題はこれだけではなかった。
**基地全体が警戒態勢に入った。**
遠くからサイレンが鳴り始め、詰所から数十名の兵士があふれ出る。
「上等だ。来いよ」
俺は深く息を吸い込み、前に出た。
■銃撃戦の渦中へ
岩と岩の間を縫い、俺は走った。
背後から機関銃の掃射が砂を削り、前方からは弾道の閃光が襲う。
レーザーサイトを点灯させ、近距離に飛び込んできた敵に照準を合わせる。
**ダダダッ!**
M16A4が唸り、敵兵が崩れる。
すぐに別方向から突っ込んできた二人へスモークを投げる。
白煙が割れるように広がり、視界が奪われた瞬間――
俺は煙の中に飛び込み、敵兵を突き飛ばして地面に叩きつけた。
「うおおっ!」
膝で相手の腕を押さえ込み、ナイフで武器を弾き飛ばす。
拳で顎を打ち抜き、もう一人の敵が背後に回る音を聞いた瞬間、
反射的に手榴弾を片手で投げ捨てた。
**ドッ!!**
爆風が砂を巻き上げ、爆音で鼓膜が震える。
俺は喘ぎながらも、地面に落ちていたM16A4を拾い上げた。
「……まだまだ来るか」
覚悟を決め、基地の中心部へ突き進む。
■通信棟への突入
敵はなおも抵抗を続け、
通信棟の入口へ近づくほど銃撃が激しくなった。
俺は火炎瓶を取り出し、扉の向こうへ放り込む。
**ゴォォォッ!**
炎が吹き上がり、敵が咳き込みながら外に飛び出してくる。
そこを俺は正確に狙撃していく。
「終わりだ!」
扉を蹴破り、内部に侵入。
通信設備のある部屋を目指し、階段を駆け上がる。
上階では敵特殊部隊らしき兵士が待ち構えていた。
「クソ……!」
至近距離の銃撃戦。
俺は遮蔽物に転がり込みながらM9を抜き、
走りながら二人を撃ち倒す。
最後の一人が俺に飛びかかってくる。
組み伏せられ、床に叩きつけられた。
「がっ……!」
必死に抵抗しながら、腰のナイフを掴み、
敵の腕へ軽く突き立てて距離を作る。
その隙に逆に馬乗りになり、敵の顔面に拳を叩き込む。
息が切れ、汗が流れ落ちていた。
■孤独の重さ
通信設備に爆薬を仕掛け、導線を伸ばす。
「…終了だ」
俺は起爆スイッチを遠隔で押し込む。
**ドォォン!!**
建物の中心が音を立てて崩れていくのを見届け、
その場に膝をついた。
強烈な疲労が押し寄せた。
砂漠の夜風が、戦いの熱を奪っていく。
*……これでいいはずなんだ。*
*一人で十分戦える。誰もいなくても、任務は遂行できる。*
それでも、胸の奥に空いた穴は埋まらない。
ジャッカルのぼそぼそした声も、
マリアの破天荒な行動も――
もう、ここにはない。
「……俺は、弱いな」
ぽつりと呟き、砂を握りしめた。
M16A4の赤いスカーフが風に揺れ、
俺の視界が滲んでいく。
■再び立ち上がる
夜空を見上げ、深く息を吸った。
「……戻るところがないわけじゃない」
情報屋の拠点には、仲間の残したものがある。
マリアのスカーフがある。
思い出がある。
喪失感に飲まれそうになりながらも、
俺はもう一度立ち上がる。
「戦いはまだ続く。俺は前に進むしかない」
M16A4を肩に担ぎ、
真夜中の砂漠へと歩き出した。
孤独のまま、しかし確かな一歩を踏みしめて。
空の広さに、胸が痛む
拠点の入口で立ち止まる。
砂漠の風が、俺の背中を押しているようで、引き止めているようでもあった。
ジャッカルも、親父もいない。
マリアもいない。
その静けさが、弾丸より痛かった。
「…行くか」
背負ったバッグの重さはいつも通りだ。
だが心だけが、妙に軽くて、妙に重い。
――あいつらがいた時の重さより、ずっと軽い。
だが、寂しさはその数倍。
俺は振り返らず、歩き出した。
◆新たな任務の影
国境地帯から通信が入り、指令が下る。
**『陽菜、お前にしか頼めない』**
**『敵勢力“カマシア自由軍”が補給基地を新設。破壊せよ』**
単独任務、予想通り。
仲間がいない現実に、胸が少し軋む。
「任せろよ」
俺は小さく呟き、砂の丘を越えた。
◆潜入開始
夜。
月も出ず、風音すらかき消える静寂。
M16A4のスコープ越しに、補給基地を観察する。
視界には武装兵が十数名。
「数は……悪くねぇな」
俺はスモークを抜き、建物裏へ投げ入れる。
視界が白く満ちると同時に走り込んだ。
――侵入。
警報を鳴らされる前に、歩哨を一人ずつ静かに沈めていく。
M9を首元に押し当て、
「寝てろ」
囁き、一撃で倒す。
息を殺したまま、物資庫にC4を仕掛けていく。
◆露見――そして銃撃戦
出口に向かった瞬間、敵兵がこちらへ飛び込んできた。
「見つかったか…!」
銃口が火を噴く。
俺もM16A4を構え、反射で撃ち返す。
反動は手に馴染んでいる。
だが、心にはまだ穴がある。
「クソ!」
怒りとも寂しさともつかぬ感情が、引き金を軽くする。
敵兵が倒れる。
別の兵が手榴弾を投げてくる。
「甘ぇよ!」
俺は火炎瓶を逆方向へ投げ返し、爆炎で敵の射線を遮断した。
◆肉弾戦
建物の影に入り、そこへ敵兵が飛び込んでくる。
「その武器、渡せ!」
「嫌だね!」
俺は敵の腕を掴んで捻り、逆に肘で顎を打ち抜く。
続けて膝蹴りを腹に入れ、倒れた敵の背中にM9を向けた。
撃つ。
音が闇に吸われていく。
◆基地破壊
C4のリモート起爆装置を取り出す。
「…もう一人じゃないつもり、だったんだけどな」
それでも任務は続ける。
孤独ごときで止まらない。
スイッチを押す。
基地全体が炎に包まれ、黒い煙が天へと昇る。
「…終わりだ」
俺は静かに踵を返した。
◆夜の砂漠に沈む不安
任務は成功した。
だが胸に残るのは充足感より、空洞だった。
ジャッカルも、父も、マリアもいない。
たった一人の砂漠。
月の光が、自分の影を長く引き伸ばしている。
「…俺はどこまで、ひとりで行くんだろうな」
誰も答えない。
ただ砂が、さらさらと流れる音だけが耳に残った。
◆新たな戦いへ
遠くで狼の声が響く。
その声に背中を押されるように、俺は歩く。
一人で。
だが、あのM16A4だけは、マリアが残してくれた。
銃床に巻かれた赤いスカーフを握る。
「…ありがとうよ、マリア」
風が吹き、スカーフが微かに揺れた。
俺はそのまま、次の戦場へと向かう。
乾いた風が市場の裏通りを抜け、砂埃を巻き上げながら俺の頬を撫でた。
クリスマスとはいえ、砂漠の国に祝祭の気配は薄い。
だが俺にとっては、ただの任務の合間の休日ではなかった。
——母さんの作ってくれた肉じゃがを、自分で作ろう。
そんな、場違いで少しだけ馬鹿げた、でも切実な願いを胸に市場を歩いていた。
■市場で出会った “影”
野菜が並ぶ簡素な露店。
陽ざしの照り返しで目が痛い。
そんな中、ふと一人の女性が視界に入った。
黒いビジャブ、端正な立ち姿。妙に背のラインが似ていた。
(マリア?)
気づけば俺は声をかけていた。
「…マリア、なのか?」
振り向いた女性は、全くの別人だった。
優しげな眉、柔らかい目元——マリア特有の“あの強烈な気配”は微塵もない。
「ち、違う…すみません、人違いでした。」
彼女は困ったように微笑んで、何も言わず去っていった。
胸に小さく穴が開く感覚。
俺は慌てて視線をそらし、買い物を続けた。
じゃがいも、玉ねぎ、人参、少し傷んだ牛肉。
どれも母さんがよく選んでいたのを思い出して、胸が痛くなった。
■砂漠の夜と、ひとりの鍋
夜になり、俺は情報屋(ジャッカル)の拠点から少し離れた場所に小型テントを張った。
砂漠の夜は冷える。頬が少し赤くなるほどの寒さ。
コンロに火を点け、鍋を置き、食材を順に入れていく。
じゅわ、と肉の焼ける匂い。
玉ねぎの甘い香りが広がって、鼻の奥がつんと痛んだ。
「…母さんの匂いだ。」
火を弱めながら、俺は小さくつぶやいた。
煮込んでいる間、携帯食料のシフォンケーキを取り出す。
クリスマスらしいものは、これしかなかった。
でもいい。今はこれで十分だ。
やがて、鍋から湯気と共に懐かしい香りが立ち上る。
「…できた。」
一口すすると、目の奥が熱くなる。
母さんの味には遠い。でも——
「悪くない…よな。」
砂漠の静寂の中、自分の声だけが頼りなく響いた。
■素足で歩く砂の夜
食事を終えると、俺はテントから出た。
靴を脱ぎ、素足を冷たい砂に沈める。
細かい粒が指の間を滑っていく感触は、不思議と落ち着く。
空には無数の星。
砂漠は、どの街よりも空が広い。
そしてどこよりも、孤独が深い。
(ジャッカル……
マリア……
父さん……)
胸の奥がぎゅっと縮むように痛んだ。
仲間はいない。相棒もいない。
それでも俺は、もう“ひとりは大丈夫だ”なんて強がる気力すら残していなかった。
足元の砂に、ぽた、ぽた、と小さな影ができる。
「…会いてぇよ。」
声がかすれて、星空に吸い込まれていった。
でも、進まなきゃいけない。
どれだけ孤独でも、どれだけ寒くても、俺は前に進む。
この砂漠で出会った人たちが、俺を少しだけ強くしてくれたから。
砂漠の冷気が、涙の跡をそっと乾かしていく。
陽菜は、ゆっくりと空を見上げた。
「…メリークリスマス、母さん。
そして…マリア、ジャッカル。」
俺は再び歩き始める。
何もない砂漠の真ん中で、たったひとりの足音が夜に溶けていった。
砂漠の朝は、いつもより静かだった。
任務が来ない日があるなんて珍しい。
俺は肩の力が抜けたような気分で、M16A4ではなく
飲み水のボトルだけを片手に、のんびり砂を踏みしめながら散歩をしていた。
——乾いた風が頬を撫でる。
「マリアなら、この風に逆らって水泳しはじめるんだろうな…」
そんなくだらない想像をして、ひとりで笑った。
あの変人スナイパー…砂漠水泳とか言い出すのは世界であいつだけだ。
すると、視界の端に黒い影が動いた。
**サソリ。**
「……お、なんだ。ちっこいじゃねぇか」
よく見ると、まだ子どものサソリだ。
砂漠では珍しくないけど、なんとなく視線が離れなかった。
「お前……なんかマリアっぽいな」
口に出してから、自分で吹き出した。
「いや、失礼か。あいつはもっとデカいし…いや、そういう意味じゃなくてだな…」
サソリは俺をじっと見つめている。
なんだ、聞いてんのか? と手をひょいと動かしてみた。
サソリが、その小さなハサミを **カチッ** と鳴らした。
「…怒った?」
次の瞬間、サソリは**シャッ!**と俺に向かって突進してきた。
「ちょ、待て待て待て! 悪かったって!!」
俺は砂の上を全力疾走。
後ろからは、小さいなりに全力で追いかけてくるサソリ。
「なんで追ってくんだよ!? マリアの使いか!?」
砂漠に俺の叫び声が響く。
しかし、そのサソリは意外と脚が速い。
俺が急に止まった瞬間、そいつは俺の脚をすり抜けて——
**服の中に入った。**
「うわああああああ!!!!!」
背中を走り回る小さな脚の感触。
もうパニックしかない。
「ごめんって!! マリアの真似しただけだって!!」
俺は砂の上に転げ回りながら必死で服を脱ごうとする。
サソリは背中から脇腹へ、そして——
**胸の方に移動してきた。**
「やめろってぇぇぇぇぇぇぇ!! そこはやめろ!!」
もはや砂漠で全力で暴れる変な戦闘員になっていた。
どこから見てもコメディだ。
しばらくもがき、ついにサソリは服の中から**ポトッ**と脱出した。
そのまま、何か満足げに去っていった。
「はぁ……はぁ…死ぬかと思った……」
砂だらけの体で座り込み、俺は空を仰いだ。
「…マリア、あいつ……笑うだろうな」
サソリ騒動でボロボロなのに、なぜか少しだけ心が軽くなっていた。
誰もいない砂漠で、俺の笑い声が風に溶けていった。
任務を終え、俺は乾いた砂漠の風を切りながら拠点への帰路についていた。
M16A4 の重量が肩に心地よく沈み、任務成功の余韻だけが残る。
そんな時だった。
■砂漠の真ん中で、パンを売る少年
「お姉ちゃん!パン買ってくれない?」
声が、砂の上から跳ねてきた。
見れば、まだ **6歳くらいの少年** が、小さな籠を抱えて俺の前に立っていた。
砂漠の乾いた空気に似合わず、どこか温かい瞳をしている。
「……パンはいらねぇよ。悪いけど他を当たってくれ。」
冷たく言い放つ。俺は昔から子供が苦手だった。距離の詰め方が下手だし、どう接していいかわからない。
少年の瞳は一瞬だけ曇るが、それでも笑ってみせる。
「ねぇ、ひとつでもいいんだよ?お願い!」
「…だから、いらないって言ってんだろ。」
歩き出そうとする俺の腕を掴むその手は、驚くほど小さかった。
俺は振り払うわけにもいかず、ただ困っていた。
その時だった。
■売り上げを奪う盗っ人
砂漠のテントの影から、粗末な布をまとった男が現れた。
少年を見るなり、顔色が変わる。
「おいガキ。今日の売上、全部置いていけ。」
少年は怯え、小さな手で金袋を守ろうとする。
「やだ…お母さんの薬、買わなきゃいけないのに…!」
「言うこと聞け!」
男が少年を引き倒そうとした瞬間、俺の体は自然と動いていた。
「やめろ。」
短く言って、男の手首を掴む。
銃は抜かない。ただ力で制するだけだ。
盗っ人は俺を見上げ、怒鳴る。
「なんだ、お前は!関係ないだろ!」
「…俺の前でガキ相手に強盗する奴が、関係ないわけねぇだろ。」
振り払おうとした男の腕を軽く捻り、砂の上に転がす。銃声のひとつも必要なかった。
男は怯えて逃げていった。
少年は呆然としたまま、俺を見上げていた。
■「ありがとう、お姉ちゃん!」
少年が涙をこらえながら笑う。
「ありがとう…!売り上げ、守ってくれて!」
俺はそっぽを向く。
「たまたまだ。気にすんな。」
だが少年は首を振り、籠からパンを2つ取り出して俺に差し出す。
「これ、お礼…!ぼくからあげられるの、これしかないんだ。」
「いや、受け取れねぇよ。」
「お願い。ぼく、助けてもらったんだ。何かしないと…いやなんだ。」
その顔は必死で、俺は断りきれなかった。
「…わかったよ。ありがとな。」
パンは小さく、形もいびつだったが、温かさだけは本物だった。
■別れ際に、少年が言った言葉
「じゃあ…またね、お姉ちゃん!」
少年は手を振って走り去ろうとした。
だが、ふと立ち止まり、振り返る。
その瞳には、深い孤独が宿っていた。
「もし、お姉ちゃんがぼくのママだったら…きっと、よかったな。」
その言葉だけ残し、少年は砂漠の村の影に消えた。
■胸に刺さる痛み
少年がいなくなった後の砂漠は、やけに静かだった。
「…俺が、ママ…ね。」
笑うに笑えない。
だが胸の奥が、ひどく痛んだ。
俺が最も遠いと思っていた言葉。
しかし少年のあの小さな背中が、今も脳裏に焼き付いて離れない。
「まったく。参ったな。」
俺はパンをひとつ取り出し、かじる。
乾いた外側とは裏腹に、温かさが残っていた。
それは少年の小さな優しさであり、
そして──
俺が抱え続けていた孤独に、そっと触れてくる灯りのようだった。
次の任務が俺を待っている。
だが、今日だけは。
少年の言葉が胸の奥に静かに残り続けていた。
俺―は、あの少年が気になって距離を置きながら後を追った。
砂の町を抜け、風に揺れる古い布扉の家に入る少年。
中から聞こえる、かすれた声。
淡く灯るランプの下で、痩せた母親がベッドに横たわり、少年が優しく水を渡していた。
俺は外壁にもたれ、静かに息を吐いた。
―あの小さな身体でパンを焼いて売り歩いて、母親の看病までしてるのかよ。
胸が痛む。
いつもの任務後の倦怠感より、よほど重い。
しばらく様子を見ていると、少年がボロい布袋を腰に下げ、再び外へ出てきた。
パンを売りに行くらしい。
「ほらよ。これで今日は休め」
俺は袋から金を取り出し、差し出した。
だが少年は一歩下がり、小さく首を振った。
「いりません。ママがね……“自分の手でパンを売りなさい”って。
そうしないと、きっと僕は弱くなっちゃうから」
その声は震えていたが、瞳だけはまっすぐだった。
俺は言葉を失った。
戦場を歩き続け、壊してばかりだった俺より、
この砂漠でパンを焼いている小さな少年のほうが、よほど強い。
「勝手にしろ。倒れても知らねぇぞ」
荒っぽく言ったつもりが、声がかすれていた。
少年は笑い、パンの入った籠を抱えて走り出す。
小さな背中が、夕日の砂煙の中に飲まれていく。
俺はその場に立ち尽くした。
(クソ。なんだよあの強さ。
俺なんかよりよっぽど“兵士”してるじゃねぇか)
喉の奥が熱い。
泣くような理由なんて、とうに捨てたと思っていたのに。
砂漠の風が吹き、俺の足元に少年が落としたパン屑が散った。
俺は拳を握る。
「あのガキの母ちゃんだけは、放っとけねぇな」
任務でも義務でもない。
ただ、心が勝手に動いた。
俺はゆっくり家へ近づき、ただ一言だけ扉に向かって呟いた。
「必ず…なんとかしてみせる。あいつの明日くらい、護ってやる」
戦場ではできなかったことを、
俺はこの砂漠の片隅で、今度こそ果たすつもりだった。
砂漠の小さな集落。
陽菜は、少年の後をつけて辿りついた、小さな土壁の家の前で立ち止まった。
家の中から聞こえてくる、掠れた咳。
陽菜は無言でドアを叩いた。
「…誰?」
弱々しい声。
「あんたの子供が、外でパン売ってただろ。少し話がしたい」
沈黙が続く。
やがて、ゆっくりと扉が開いた。
薄暗い室内。
古い布団に横たわっている女性。顔色は悪く、痩せているが、目に宿った強さだけは失われていなかった。
少年の母親だ。
少年は慌てて陽菜の横に立つ。
「ママ、この人…悪い人じゃないよ。さっき、助けてくれたんだ」
母親は、陽菜をじっと見つめた。
「そうなの。息子を助けてくれたのね。ありがとう」
陽菜は、頭をかきながら視線を逸らした。
「別に。見てられなかっただけだ」
だが室内に流れる空気は、陽菜の胸を少し締めつけた。
生活は明らかに苦しい。
古い調理器具と、埃をかぶった水瓶。
布団の横には、少年が毎日パンを焼いているらしい、小さな石窯の部品。
母親は微笑む。
「この子ね、小さくても、すごくしっかりしてるの。私が動けないから……全部、自分でやってるのよ」
陽菜は、さっきの少年の言葉を思い出す。
『ママだったら……』
胸が、ひどく痛む。
「……あんた、一人で育ててるのか?」
「ええ。夫は二年前に亡くなったの。戦いとは関係ない病気でね」
そう言うと、母親の視線が柔らかく揺れた。
「この子だけが、私の全てなの」
少年が母親の手を握る。
陽菜は、思わず拳を握りしめた。
(ガキは嫌いだ。でも…こんなの、放っとけるかよ)
「なぁ、あんた。必要な物は?」
「気持ちだけで十分よ。息子に余計な負担をかけたくないもの」
そう優しく笑う母親の姿が、陽菜には痛々しかった。
少年は、陽菜をまっすぐ見上げる。
「ねぇ…お姉ちゃん。明日も、パン買ってくれる?」
陽菜は思わず顔をそむけた。
「……買うかは知らねぇけど。…様子くらいは見に来てやるよ」
少年は嬉しそうに笑った。
母親は、陽菜に深く頭を下げた。
「この子に、話し相手ができただけで救われるわ。本当に、ありがとう」
陽菜は返事をしない。
だが拠点へ戻る途中、ふと胸が温かくなるような、締めつけられるような感覚に襲われた。
(俺だって、一人だと思ってた。
でも…あのガキは…あんな体でも母親を支えて生きてる)
陽菜の足取りは、いつもよりゆっくりだった。
砂に沈む夕日が、どこか優しく、そして苦しかった。
■ こっそり置かれた小さな包み
任務帰りの砂漠の黄昏を歩きながら、俺は小さな紙袋を抱えていた。
中に入っているのは――
・乾パンと保存食
・母親用の薬
・少年の靴
「…俺、何やってんだか」
ぼそりとつぶやきながら、人気のない路地裏に入る
。
少年の家はこの先の古びたレンガ造りの家だ。母親は寝たきりで、少年はたった一人でパンを焼き、売り歩いている。
俺は人助けなんて性に合わない。
そもそも子供が苦手だ。
だが――あの少年が、俺がお金を渡した時に見せた“拒む強さ”が、胸に刺さっていた。
(あいつ、本当に強い子だ)
家の裏口へ回り、そっと戸の前に紙袋を置く。
ガサ…。
足音に気付かれないよう、息を殺しながら砂壁の陰に隠れた。
少しして、少年が戸を開ける。
「え、なにこれ」
弱い声。驚きと喜びが入り混じった。
母親の声も聞こえた。
「だれから…?」
「わかんない。でも……いい匂い。薬も」
少年が涙をこらえながら袋を抱きしめた。
俺は音を立てぬよう、砂の上を歩いてその場を離れる。
胸の奥が、妙に温かかった。
(別に助けたいわけじゃねぇ…俺はただ…)
嘘だ。
助けたいと思っている。
「まったく、俺も甘くなったもんだ」
苦笑いしながら、次の任務地へ向かう準備のため情報屋の拠点へ戻る。
だがそこにジャッカルも、マリアももういない。
拠点の薄暗い部屋で、俺は少年の姿を思い浮かべながら拳を握った。
「守る価値のあるものを、俺は確かに知ってしまったんだな」
ぽつりと呟くと、俺は荷物をまとめて再び砂漠へ歩き出した。
■ 新たな任務 ― 砂嵐の中へ
指令を受けたのは翌朝。
目的地は国境近くの前哨基地。
反乱武装勢力が補給ルートを確保しようと動いており、単独で偵察と破壊工作を行う任務だ。
装備は――
**M16A4(ACOG ×4、フォアグリップ、レーザー)**
**M9**
**手榴弾、火炎瓶、スモーク**
俺は砂漠の稜線へ足を踏み入れる。
「よし…やるか」
冷たい朝の風がスカーフを揺らし、M16A4のスコープが光を受けて輝く。
武装勢力の小隊が、岩場を通って移動しているのが見えた。
「補給部隊これがターゲットだな」
息を整え、引き金を軽く絞る。
パンッ。
一発で先頭の襲撃兵を倒した。
一瞬で戦闘状態に入り、敵の銃口がこちらに向く。
「やっぱりこういう方が性に合ってるんだよ」
俺は岩陰へ転がり込み、反撃を開始。
銃撃が降り注ぐ中、M16A4の安定した反動が心地いい。
スコープのが次々と敵を捕らえ、砂煙の中に倒れていく。
敵が側面から回り込んでくる気配。
(くそっ、数が多いな)
俺は火炎瓶を投げ、迫り来る敵道を炎で塞ぐ。
「悪いな。今日は急いでる」
跳躍、転がり、砂を蹴り、M16の銃声が乾いた空へ響き渡る。
やがて最後の一人が倒れ、静寂だけが残った。
胸の奥がざわつく。
「…さて。終わったらまた、あの家の前に何か置いていくか」
呟きながら、俺は武器を確かめ新しい弾倉を込める。
■ 孤独な行軍の中で
陽は高く、砂漠の風は熱く乾いている。
しかし今の俺は、以前ほど孤独ではなかった。
「あいつ、今ごろパン売れてっかな」
思わず笑ってしまう。
自分の変化に戸惑いながらも、悪くないと思えていた。
戦いは続く。
獣のように動く反乱兵たちとの銃撃。
崩れかけた遺跡での肉弾戦。
刃と銃声が飛び交い、砂嵐が視界を奪う。
俺は何度も倒れかけ、何度も立ち上がった。
(俺はもう――“誰にも頼らない”なんて強がりは言えない)
マリア。
ジャッカル。
そしてあの少年。
誰かと繋がっていた記憶が、俺を戦わせ続ける。
■ 次の夜、砂丘の上で
任務をすべて終え、夜の砂漠を歩いていた。
月明かりの下、砂丘が静かに波のように連なる。
俺はその中に立ち、深く息を吐いた。
「帰ったら、また何か持っていってやるか」
そう言って笑った瞬間、胸がふっと軽くなる。
孤独ではない。
繋がりは確かにここにある。
そして――
俺はまた歩き出す。
砂漠の奥へ、次の戦場へ。
**誰かを守りたいと思える、自分の新しい戦いのために。**
第一部 完