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「組頭。少し席を外します」

「うん? あ、もしかして退治に?」

「はい。そう遠くはありませんのですぐに戻ります」


タソガレドキ忍者隊の演習中、木の枝に横座りで全体を眺めていた雑渡の隣に、すっと降り立った押都はひと言声をかけてすぐに発つはずだった。


「そ。じゃあ私も行こうかな」

「え」

「私も行く」

「はい?」


返って来た言葉に 何言ってんだこの人、と呆れた雰囲気を醸し出す押都を無視した雑渡は、「ほら早く。急ぐんでしょ?」とうきうきしながら押都の肩を掴んだ。押都の瞬間的な移動方法でしか辿り着けないと認識しているらしく、振り払われないようしっかりと押都を掴む素早さは流石である。


「・・・何故付いて来たがるんです?もう私への疑いは晴れたのでしょう?」

「元々お前を疑っていた訳ではないよ。ただ隠れて何かしているなぁとは思っていたけど」

「では何故」

「え?そんなの決まってるでしょ。私が押都の技を見たいから」

「……は?」

「押都の技を見たいから!」


わくわくとした雰囲気を隠しもせず、駄々をこねる子供のような声色でそう告げた雑渡に、頭を押さえた押都は ハァ……と心の底から深い溜め息をついた。


いくら雑渡が組頭であると言えど、こと呪霊に関しては一般人と変わり無い非術師である。本来ならばわざわざ退治に出向く報告をする義務も無ければ必要も無い。しかし「退治に行く前に報告してね」と雑渡に念を押されていた押都は、いくら非術師に関係がないとは言え上司の命令を聞かない訳にもいかなかった。

恐らく上司として、隊を束ねる組頭として部下の行動を把握出来るようにと気にしているに違いない。そう勝手に解釈していた押都だったが、しかし返って来たのは興味本位の塊の言葉。今回ばかりは素直に命令を聞いたのが間違いだった、と押都は心の底から己の言動を悔やんだ。


「・・・部下たちに興味を持たれるような雰囲気を出さないで下さい」

「えー?だって押都の技が楽しみなんだもん」

「だもんて… ───・・・ハァァァ…… いや、いいです。分かりました」

「おっきい溜め息だね。幸せが逃げるよ?」

「っ、一体誰のせいだと!」

「怒んない怒んない。ほら、皆に気付かれる前に行くんでしょ?」

「~~~っ、  ・・・ハァ…。今日は近いので普通に行きます」

「そうなの? なんだ残念。飛んで行けるのちょっと楽しみにしてたのに。 …飛んで行かない?」

「却下。あれ結構疲れるので。あと忍者隊に気付かれるのが一番面倒ですから絶対にやりません」


一瞬にしてその場から遮断されるように気配が消えれば、少なくとも小頭たちには気付かれてしまうだろう。周りに誰も居なければ瞬間移動で飛んで行くのが簡単ではあるのだが、しかし今は忍者隊の演習中だ。誰にも気付かれることなく、とはいかないだろう。


さて、と場所を移動しようとして、押都は少し考えてからきょろりと山本を探し出した。


組頭である雑渡と小頭である押都の二人が同時に居なくなれば、騒ぎになって演習が中断されかねないからである。ここはせめて山本にだけは伝えるべきだろう。


「山本」

「ん?なんだ押都、と組頭?」

「私と組頭は一旦ここを離れます」

「離れる?二人揃ってか?」

「ああ。本来なら私一人で良いのですが…」

「ちょっと押都、私を邪魔者扱いしてない?」

「・・・ご理解されていながら何故…」

「聞こえてるからね?」

「えぇと、組頭も押都も何か御用がおありですか?」

「ああ、少し所用が」

「その所用の付き添いで。すぐ戻って来る予定だから、ちょっとここ見ててくれる?陣内」

「…分かりました」


山本の返事を聞いた二人は、こくりと頷くと押都を先頭にして軽々と森の中を飛ぶように駆けて行った。



二人が駆けて行った方角に目を向けながら、山本は少しばかり思案する。


黒鷲隊の小頭、押都長烈は優秀な男だ。

敵の事前調査や情報収集を行う者に於いては、優秀なタソガレドキ忍軍の中でも右に出る者はいないほどに。だから皆が揃う場であっても「所用が出来た」と何かを察知したように席を離れ いつの間にか姿を消していようが、組頭である雑渡含め誰も文句も意見も言ったことはなかった。信頼している仲間であるからこそ、同時に理由を探ろうとしたことも無ければ聞き出そうとしたことも無い。


しかし、今押都は「所用が」と雑渡を連れて持ち場を離れた。雑渡が押都を、ではなく 今まで意図的に単独行動をしていた押都が、雑渡を連れて。

それの意味するところは、なんて考えなくともすぐに察しはついた。だってあの雑渡が新しい玩具を見つけたみたいに楽しそうに笑って押都に付いて行ったのだ。きっと押都が隠していたであろう秘密を知ったに違いない。


「……ずるいな」


狡いと本気でそう思う。

山本とてタソガレドキ忍軍の皆は大事だし、裏で何かをしているらしい秘密の多い押都のことももちろん大切に思っている。

タソガレドキに害の無いことだと分かっているからこそ、押都に秘密があろうがその秘密を隠されようが、組頭の雑渡にまで秘匿しているのだから仕方がないことだと割り切っていた。つい先程までは。


だがしかし。雑渡には自ら伝えたのか、もしくは露見したのか。どちらにせよ雑渡に知られた時点で押都に遠慮する必要は無くなったのだ、自由にやらせてもらうことにしよう。

何せ忍びは隠し事を探るのが仕事で、隠されると暴きたくなるのが性さがなのだから。


「あれ?山本小頭、先ほどまで組頭ってあの木に居ませんでしたっけ?」

「尊奈門。 押都に付いてどこかへ行ったよ」

「え?押都小頭に?」

「困りましたね、組頭に報告があったのですが…」

「高坂もか。急ぎの報告か?」

「ええ、出来れば早めに」

「うーん… ・・・よし。探すか!」

「え?組頭と押都小頭を、ですか?」

「ですがお二人が居ない以上、ここの監督は山本小頭なのでは…」

「大丈夫だろ。月輪隊も隼隊も居るんだし」


何せタソガレドキ忍者隊は優秀揃いである。組頭や小頭が抜けたところで統率が乱れる程、柔な訓練はしていない。

しかし一応声をかけてから出るか、と二つの隊の小頭たちに声をかけ、山本を筆頭に高坂と諸泉の三人は雑渡と押都が駆けて行った方へ飛び立った。


雑渡と押都が揃って駆けて行ったのはつい先程のことだ。雑渡がすぐ戻ってくると言っていたのだから恐らくそこまで遠くへは出ていないはず。範囲もある程度は絞り込めることだろう。

頭ではそう考えながらも、優秀揃いのタソガレドキ忍軍の中でも特段気配を殺す事に長けているのが押都である。組頭の雑渡は言わずもがな。


すぐに見つかる保証は無いし、そもそも二人が完全に気配を殺していれば見つけられない可能性の方が高い。だからこそ二人の微かな気配を見落とさないよう、山本は慎重にしっかり周囲を探りながら雑渡と押都の後を追って木々を駆けた。



そうしてしばらく神経を尖らせて探していると、ふいに雑渡と押都の言い争うような声が聞こえてきたではないか。


「押都がんばれー」

「気の抜けるような声を出さないで下さい。あとその変なうちわを振るのもやめて下さい、気が散ります」

「えー?良くない?押都推しうちわ」

「……百歩譲って”蒼撃って”はいいですが、いや本心は良くないですが… その”押都しか勝たん”はやめてください」

「えー。あと”祓って清めて♡”とか”顔面国宝”とかも作ろうと思ってたんだけど」

「本気でやめてくださいよ」

「ところでさー、蒼以外にも技ってないの?」

「・・・ありませんよ」

「はいウソー。ねえ押都、蒼以外で倒してよ。見てみたい」

「……なんでそんなに私の戦いが見たいんですか…」

「だって見てて清々しいし面白いんだもん。だから蒼以外で倒してね?組頭命令」

「・・・・・ハァァァ…」


雑渡の言葉に深い溜め息と共にがっくりと項垂れた押都だったが、しかし顔を上げた次の瞬間には冷ややかな気配を纏って山の中腹へと顔を向けていた。雑面で表情は見えないはずだというのに、まるで支配されているかのような感覚に陥るのは、きっと何者も寄せ付けない程の研ぎ澄まされた殺気を押都が纏っているからだろう。


「やればいいんでしょうやれば」

「流石押都、なんだかんだ言いながらやってくれるよね」

「希望に応えなかった時の貴方は面倒ですからね。 では、毎回お伝えしていますが危険ですから下がっていてください」

「うん、絶対近付かないから大丈夫」

「良い心構えです」


そう告げると押都の纏う殺伐とした空気が爆ぜるように風が大きく吹き荒れ、押都の顔を覆う雑面が吹き飛ばされた。

わぁ……!と感嘆の声を洩らしたのは高坂か尊奈門か。

初めて目にした押都の整った顔と、吸い込まれる程に澄んだ海のような蒼色の瞳。キラキラ輝く押都のその瞳に、影から静かに見ていた山本たち三人は息をするのさえ忘れて見入ってしまっていた。



「  位相いそう  波羅蜜はらみつ  ひかりはしら  」



ニィと悪どい笑みを浮かべた押都は、人差し指と中指を立てて何事か口上を述べ始めた。確か風魔流忍者の中には口上を告げる者もいたはずだが、しかし今押都が述べていた口上は風魔流のものとも違う。様々な流派を知る山本でさえ聞いたことの無い口上に首を傾げていれば、押都は立てていた二本の指をビッと腕ごと真っ直ぐに伸ばし、目を細めてふんわりと微笑んだ。



「  術式反転   “赫”  」



普段の低音に艶やかな色気を乗せた声で呟かれた言葉と共に、押都が伸ばした指の先からは見たことの無い程燃えるような赤い色を帯びた光の玉が放たれた。森の中腹付近に向かって発散されたその玉は、周りの木々を次々と薙ぎ倒しながら真っ直ぐに突き進み、とある箇所でカッ!とよりいっそう光り輝くと、ドガァァァン!!!と大きな音を立てて山を抉りながら爆発した。


「「「は?????」」」

「ん?  げ。そこの三人、なんでここに居るんですか!」

「その三人なら私たちが言い合ってた時にはもう居たよ。気付かないなんて押都らしくないね」

「気配を探るどころじゃ無かったので!」

「それにしても蒼の次は赫かぁ。どっちも捨てがたいねぇ」

「組頭は先程の押都小頭の技?をご存知だったんですか!?」

「私も知ったのは最近なんだけどねぇ。凄いよね、今の。わくわくしちゃう」

「お、押都小頭!?今のは一体何なんですか!?人間業とは思えなかったんですけど!?」

「覗き見するような奴に教えることなどは──っ」

「─────・・・昆、長烈」

「「っ、」」

「一から全て説明しなさい」

「「……………ハイ」」

CV:中村●一のキャラに成り代わりました

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